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017 去る者、残る者

 結局のところ、市が送った使者が持ち帰った情報は、精霊廟がなにも関与していない、という情報のみだった。それだけでも十分価値があるのだが、逆に言うと足がかりがなくなったことも意味していた。


「どうするんだ?」


 思案するカロンに対して、リックは問いを投げる。カロンの思考が煮詰まりつつあるのが目に見えてわかっていたからだろう。


「…………」


 返ってきたのは無言だが、リックはそれを受け止め、


「わかんねぇなら、動くしかないだろ」

 そう気楽に言い放つ。カロンは小さく頷き、ユウへ視線を向ける。

「ということだ。しばらく留守にする」

「え……? あ、ちょっと、ダメだよ!」

「何がだ?」


 本気で疑問に思っているのが丸わかりだが、それがわかってもしょうがない。


「カロンだって学生じゃない。サボるのはダメだよ」

「問題ない。知識はすでにあるし、課題は出立前に済ます」


 カロンとしては、それで波風が立たないと本気で思っているようだが、ユウとしてはそうじゃない。

 学生の本分が勉強だ、というならカロンの言い分はまかり通ってしまう。違う、まったくもってそうじゃない。


「学生の本分は学校に通って、きちんと講義を受けることです!」

「お前はな。だが私はそうじゃない」

「なんでそんな風に言うのよ」


 むくれている、というのは自分でもよくわかっていたが、言葉は止められない。


「前は送ることのできなかった学校生活を、またやり直せるようにしてくれたんじゃない! それを投げ出してまでしなきゃいけないことなの?」


 静かな、空白があった。


 カロンは淀みない動きで席を立ち、そのまま無言で部屋を出て行った。


「カロンっ!」


 呼びかける背中はもはや見えていない。


 そして、そのやり取りを黙って見ていた、というよりはカロンを焚きつけた本人であるリックは頭をがりがりと掻き、


「こんなこと言うと何様だよ、って感じだけどな。オレたちには責任がある。そして因縁もな」

「因縁?」

「ああ」


 リックは小さく頷き、


「前に言いかけたことがあったろうが、あいつが退学を余儀なくされたのは、大精霊・四象龍を殺したからだ。そしてその際、学園の空間を固定するための要が壊れた」


 似たような話をつい先日聞いた。二度目の要の崩壊。そして、


「そして、その時にカロンを捕縛、投獄したのが、先日現れた司祭、そん時は審議官だったがな」

「じゃあ、カロンは」

「ここまで過去との類似があれば、関わらずにはいられないだろうよ。例え、誰かがお膳立てしてくれた平和が目の前にあろうがな」


 過去語りの中で言っていたではないか。自分は調停者であり、その意思の、正義のもとに力を行使する必要があると。

 そして、それが今なのだ。


 事の真偽はともあれ、彼はこの事態を収束させる為に動く。それが正義だと信じて。


「リックも行くの?」

「行くさ。腐れ縁って言ってしまえばそうだし、オレはオレでここを守れと言われて雇われてる。友人としても、傭兵としても行かんわけにはいかないのさ」


 不敵に笑い、


「留守は頼んだぜ」

 飄々とした態度を崩さず、彼もまた、去って行った。



「行ってらっしゃい」

 見えなくなる背中に言葉を投げかけ、心の中で誓う。



 あたしは、ずっとここで待ってるから、と……

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