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XXX 間隙
暗闇の中、彼は立っていた。
そこが暗闇なのは、明かりを取り入れるための設備など一切ない、閉ざされた地下室だからだ。
だが、彼はそれを気にすることなく、ただただ上を見上げていた。
暗闇はしかしムラがあった。
広大、といえる地下室の四方の隅にわだかまる濃い闇とそれに比して薄いと感じられる空間を満たす闇。
だが、それらを差し置いて異質な“闇”があった。
それは完全な黒ではなく暗い紫のもや。
「穢れた天秤め」
男は軋むような声で言う。
「わしはお前を決して許さぬ」
届かぬと知りながら、男はもやへ手を伸ばし、
「お前が与えたすべての痛みをその身に返してやろう。その魂が背負った罪の数だけ、魂を引き裂いてやろう」
暗闇に沈んでいた黒瞳に鬼火のような妄執の炎を灯した。




