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005 カロンとアリスの決着

 ユウは感嘆の面持ちで二人の戦いを見ていた。魔法の知識はカロンから得ているが、戦闘に関してはからきし。それでも、この戦いがただの魔法武技とは違うことだけはわかった。

「難しい戦いですね……」

「ほう? 蘆野はわかるのか?」

「まあ、ある程度は」

 言葉を濁したカエデは目を細めてカロンたちの戦いを見やる。虹のような色彩を放つ指輪をしたカロンと炎をまとって舞い踊るアリスがそこにはいる。

「えと……あたしは全然わかんないんだけど、どういうこと?」

「そうですね。まず、アリスさんが何をやっているかわかりますか?」

 言われ、見てみる。カロンが炎球を放った直後に炎をまとってその攻撃をしのいだのはわかる。そのことを告げると、

「そうですね。アリスさんはカロンさんの後の先を取って行動しています。具体的には、カロンさんの放った炎と“親和”することにより、己を炎の化身としているのが今の状態です」

「あれ? ってことは、カロンの攻撃は属性とどうかしたアリスには効かないってこと?」

「そうよ。アリスの能力がどこまで対応できるかは未知数だけれど、常に後の先を取られるんじゃ、カロンは負けなくても、勝つことは難しいわね」

 そうツキノは言い、肩をすくめる。

「勝算があるとすれば?」

「混合魔法。二種以上の属性を同時に扱ってなら、アリスも対応できない可能性はある。でも、あくまでも可能性よ」

「そうですね。精霊の中には二属性を備えているものもいますから。この場合は“親和”の力がどこまでを対応可能としているのか、ですね」

 なるほど、とユウは思い、視線を戦場に転ずる。

 カロンの放つ牽制の炎球は目くらましや足止め以上の意味を持たず、傍から見れば劣勢だ。だが、

「全く、お前と戦うのは面倒くさくてかなわない……だが、私の実力がこの程度でないのはお前も知っているだろう、アリス?」

「そうじゃの。お主はもっと過激な魔法を使えるじゃろ? そろそろ、本気を出したらどうじゃ?」

 軽口を叩きあい、そして、カロンが動いた。正確には、今まで使っていなかった詠唱を用いた。

“――灼火を彩るは蒼の色彩。其の姿は氷の花に似たり”

 指輪から漏れ出た光が魔法陣を描く。その魔法陣の中心には花弁にも似た淡青色の炎が咲いては散る。

「ほお、二属魔法かの……しかし、詠唱の時点でバレバレじゃぞ?」

「構わん」

 カロンは宙に描かれた魔法陣に手を伸ばすと、握りしめた。魔法陣はひしゃげ、そして、右腕に飲み込まれる。

“――Dare me alas flamma”

 右腕が淡青色の炎に包まれ、そして、右肩から羽にも似た形状の炎でできた花弁が咲く。

「厄介よのぉ、お主も。まあ、わしが言えた義理ではないのじゃろうけどな」

 険しくなったアリスの表情と対照的な好戦的なカロン。

「あれは?」

 ユウはカエデの袖を引いて問うと、彼女はまなじりをややきつくしながら、

「カロンさんはアリスさんとほぼ同等の能力を魔法として表現しました。つまり、右腕のみ、属性付加を行ったのが今の状況ですね」

「ただし、二属性同時付加、ということね」

 カエデの説明とツキノの補足にユウは頷きを見せ、納得した。属性付加の利点はいくつかあるが、その最たるものが“詠唱不要”。逆に言うと、この方式は必要な術式を予め用意する代わりに、ほかの一切を捨てるという選択でもある。

 アリスが先に動いた。地面をけり、炎の尾を引きながら、前へ。

「っせい」

 炎を手のひらに集めての掌底。受ければ爆発。受けなくても、炎が追いかけてくることは必至。それへ対してカロンが取った行動は掌底に右手を合わせること。

 アリスの手のひらから炎が膨れる、かに見えて、端から凍る。

「二重属性の内容を知りつつも飛び込んでくるのは愚かだな」

「そうでもない」

 アリスの全身から炎が広がり、カロンを包み込む。

「どう防ぐかの?」

 右手は掌底から続く爆発を抑えているせいで使えない。そして、魔法は同時に二つ使えないのが大原則。属性を二つ使って一つの魔法を作るのと、二つの魔法を同時に使うのでは意味合いが違う。

 ユウを含め、生徒全員が固唾を飲んで見守る中、カロンが取った行動は、詠唱。

“――我に仇為すもの、氷の花弁に取り巻かれ、ことごとく凍れる墓標と成れ”

 右肩から生えていた花弁にも似た羽が解け、小さな破片となって襲いかかる炎に向かう。その二つは空中でぶつかり合い、そして、凍った。周りからさらに炎が押し寄せようとその結果は覆らず、二人の姿は分厚い氷の中に閉じ込められた。

「終わりだな」

 ツキノはそう呟くと、腰から鞭を抜き放ち、一閃。外部から衝撃を加えられた氷はもろくも崩れ去った。

 中から現れた二人は素早く距離を取る。

「もう終わりだ、カロン、アリス」

「あ? ああ、そうか」

「なんじゃ、もう終わりかの? つまらん」

 カロンは右腕にまとわせていた淡青色の花弁を宙に散らし、アリスは振り払うようにして炎を消す。

「正直、高度すぎてほかの参考になりそうになかったな、今のは」

「やらせといてそれはないだろ、ツキノ」

「そうじゃ。わしらからすればあの程度は呼吸をするようなものじゃぞ」

「そうは言いましても、わたしたちじゃ到底太刀打ちできる技量ではないですよ」

 カエデの苦笑に、生徒たちは同意の頷き。

「でもまあ、技能云々はともかく、戦いの遷移を見ながら魔法を選択する重要性はわかってもらえたと私は思っているよ。その辺はどうかな?」

「まあ、なんとなくは……」

 自信はなさげだが、生徒の一人がそう言う。

「なら、今のところは問題ない。おっと、そろそろ時間かな。次の授業は的当てにするつもりだ。では、解散」

「ありがとうございました!」

 生徒たちは挨拶を告げ、次の授業へと向かった。

「行きましょう、ユウちゃん」

「うん、そうだね」

 軽口を叩きあうカロンとアリスを横目に、ユウたちも次の授業へと向かった。

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