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18/21

18 嵐の予感

「着いたよ」

 煩雑な帝都マリオンの繁華街を抜け、人もまばらな並木通りの一角で二頭の白馬の引く馬車は止まった。

 白壁で統一された美しい町並みを車窓から眺めていたティティーリアは、マラウクの声に振り返った。

「ここ?」

「そう、さあ降りて」

 御者が開けた馬車の扉を出て、マラウクが促す。言われるままにティティーリアは灰色の石畳の上に降り目の前の建物の入り口上部にかかる看板を見上げた。

「ここって……仕立て屋?」

 通りに面した大きな窓の中には、豪奢なドレスや靴が飾られている。婦人専門の仕立て屋だろう。

「こんなところに、私に見せたいものがあるの?」

「いや、ここに来たのは」

 店の扉に近づき、マラウクは金色の取っ手を引いた。

「まずは君に必要なものを買い揃えるためだよ。当面、君はうちに滞在するんだから」

「え?」

 入口が開かれる。ティティーリアはぱちぱちと目を瞬いた。


――どういうこと??


 視線で促し、マラウクは店の中へと入っていく。呼びとめようとしたが、中であがった悲鳴に似た歓声に先を越された。

「まあ、クレイヴランス卿じゃありませんの!」

「いかがいたしましたの、このようなところで」

「卿とお会いできるなんて夢にも思いませんでしたわ。わたくしを覚えていらっしゃいます?」

 マリオンに住む貴族の令嬢や夫人たちだろう。花飾りやリボンのふんだんについたボンネットやドレスを身につけ、派手に着飾っている。砂糖菓子を溶かしたような甘ったるい、媚びた声が次々とマラウクに掛かる。あっという間に入口は店内にいた婦人たちの集団に塞がれてしまった。

「これはこれはクレイヴランス卿、ようこそお出でくださいました」

 店の主人らしき壮年の男が、苦笑しつつ遠巻きに挨拶した。婦人たちに愛想笑いを送りつつ、マラウクは主人に呼びかける。

「サイラス、頼んでいたものは?」

「はい、奥にご用意できておりますよ。はて、おひとりですかな?」

「いや、ちゃんと連れてきたさ。ティティーリア」

 声を掛けられ、通りに佇んでいたティティーリアははっと我に返った。マラウクを取り囲んでいる婦人たちの目が一斉に向く。まずい、と思った時にはもう全員の睨むような視線を受け止める羽目になっていた。

「ティティーリア?」

「どなたですの? クレイヴランス卿」

 嫉妬と猜疑に満ちた婦人たちの目線がティティーリアに突き刺さる。どの顔も先ほどまで愛嬌をふりまいていたとは思えない険しさだ。

 妙な気迫を感じてティティーリアがたじろいでいると、マラウクがふっと柔らかく微笑んだ。

「私の連れです。申し訳ありません、少しあけていただけますか」

その微笑みに女たちが陶酔している隙に、マラウクは人込みを分けてティティーリアのところまで降りてきた。そして貴公子然とした微笑みを称えたまま手を取った。


――ちょ、ちょっと……


 手を引かれるままに中へと導かれる。両側を壁のように囲む婦人たちの矢針のような眼差しの中、ティティーリアは店主の前に連れて行かれた。

「これは、美しいお嬢様でございますね。わたくしどもの見立てが合うかどうか……」

「あんたの目と腕は信用してるよ。マリオン一の職人であり商人だ」

「光栄です。では婚約者殿を奥へ。ご本人に選んでいただきましょう」

「婚約者!?」

 ティティーリアと婦人たちが叫んだのは同時だった。だがそのおかげでつい驚いてしまったのに気付かれずに済んだ。


――どういうことよ! 婚約者って!


 今すぐそう噛みついてやりたかった。けれどこの場で異議を唱えるのは賢明でない気がして、ティティーリアは必死で耐えた。

「婚約者ってどういうことですの!? マラウク様!」

「きいておりませんわ!」

「何かの間違いですわよね!?」

 仕立て屋の漏らした小さな一言でたちまちその場は騒然となる。だが渦中のマラウクは少しの動揺も迷いも見せず、血相を変えて騒ぎ立てる女たちへ断言した。

「いいえ、間違いではありません。彼女は――私の婚約者です。まだ正式に発表したわけではありませんが」

 そう言って彼女たちが自分に向けろと切望するに違いない、慈しむような眼差しをティティーリアに向ける。

 一瞬思考が停止した。

「どういうことですの!? そんな噂は今まで――」

「夢ですわ、きっと夢ですわ!」

「ああ、そんな! 嘘だとおっしゃって」

 呆気にとられてぽかんとなった令嬢たちが、火がついたように再び騒ぎ始めた。驚きと失望が彼女たちの表情を一様に支配していた。施した白粉のせいでひどく顔色が悪く見える。

 マラウクの衝撃発言にはもちろん面食らったが、この世の終わりとでもいうような彼女たちの落胆ぶりにティティーリアはさらに圧倒された。気を失いかけている者もいるのだ。これがたった一人の青年が持つ影響力なんて。

 何事かと隣室にいた針子たちまでも顔を出す。その時、黄色い喚声を割って涼しげな声が響いた。


「へえ、そんな人いたんだ」


 まっすぐに通る澄んだ少女の声音。店の奥、リボンや布地の溢れるテーブルの向こうにある赤いビロードの椅子から、大きなつばの帽子を被った少女が立ち上がった。

「軍紀一筋の男には、そんなの興味ないかと思ってた」

 喧騒がおさまる。皆の視線が一点へと、一斉に注がれた。

「エンリケ」

 驚いた様子で、マラウクが声を上げた。


「やあ、久し振り。マラウク」


 帽子のつばを指でちょんと押し上げ、金髪の巻き毛に赤茶色の瞳の美少女は、にっと口角を引き上げた。






「見たあ? あのひとたちの顔! 丸裸で通りに放り出されたみたいに慌てちゃって。傑作!」


 ケラケラと声をたてて笑いながら、エンリケと呼ばれた少女はガラスの器から薔薇の形をしたピンクの砂糖菓子をつまんだ。

 店内での大波乱をなんとか抜け出し、店主の計らいでティティーリアたちは奥の部屋へと逃げ込んだ。マラウクの知り合いらしいエンリケという少女も一緒に付いてきて、まるで我が家のようにくつろいでいる。

「名家の娘が口にする言葉じゃないぞ。まったく、相変わらずだなエンリケ」

 向かいのソファ、ティティーリアの隣に座るマラウクが、大口を開けて砂糖菓子を放り込む少女を見て苦笑する。ティティーリアへと出されたはずの菓子の器はほぼ空になっていた。

「おどろかそうと思って、君が来たのに気づかないふりをしてたのよ。でもあんなこと言い出すんだもん」

 ソファの上に足を投げ出した姿勢で、エンリケは快活そうな大きな瞳をティティーリアに向けた。

 黙っていれば文句のない美しい少女だった。年は自分より少し上くらいだろう。

 艶のある健康的な金色の巻き毛にくっきりと明るい赤茶色の瞳。ほんのりと化粧を施しているが他の令嬢たちのようにけばけばしくはなく、自然で嫌味がない。薄くのせた口紅や頬紅ははつらつと輝く表情にしとやかさを添え、彼女の持つ魅力を引き立てている。胸元がレース編みになっているクリームオレンジのドレスも、彼女の明るさによく似あっていた。

「でもなんであんなこと言ったの? あれ、嘘でしょ?」

 中身まで見透かそうとするような目でじーっとティティーリアを見つめたまま、エンリケが訊いた。

「嘘じゃない。本当だよ」

 すかさずマラウクが返答するが、エンリケはきっぱりと首を横に振った。

「いいや、嘘だね。わかるの、あたしには。だってそんな大事な話、幼なじみであるあたしに伝わってこないのがおかしいもん。さっきミトに会ってきたけど、そんなこと一言も言ってなかった。それに」

 さっきまでのように、けれどさっきよりも胡乱な目付でエンリケはティティーリアをじっと見た。

「キミ、貴族の娘じゃないよね?」

 膝の上でティティーリアは手を握り締めた。するどい。でも質素なドレスや下ろしたままの髪、身だしなみをみれば一目瞭然だろう。小さな飾り一つまで一見して贅沢品とわかるエンリケの装いとは明らかに差があった。


――仕方のないことだわ。


 貴族ではない娘とクレイヴランス家の当主が婚約するはずがない。強い信念と自信に満ちたエンリケの目はそう言っている。

 でもそれは事実だ。けれどなぜ、チクリと胸に針がささったような痛みが入り混じるのだろう。

「そうだよ、彼女は貴族じゃない。でも、オレにはそういうことは関係ない」

 これ以上黙り込むのも限界だとティティーリアが口を開こうとした時、マラウクの手がすっと移動した。

「人を想うのにそういうしがらみは必要ない。愛しているかどうかが肝心だろう」

 膝の上のティティーリアの手にマラウクは自分の手を重ねた。

 トクンと心音がはねた。

 自分のものではない体温に触れて、かたく握っていた拳が弛緩する。ふいに押し寄せてきた優しく切ない波に、穏やかに包み込まれる。

「お前ならわかるだろ、エンリケ。家柄や身分がすべてじゃないって」

 重ねられた手を意識したままティティーリアはマラウクの横顔を見上げた。これは嘘。嘘の婚約だ。なのにどうしてこんな実直な声で、眼差しで言えるのだろう。

「……そう、だけど。へえ、本当なんだ。ちょっとびっくり」

 信じられない、というように目を丸くしてエンリケが息をついた。頭を揺すり動かしたはずみで、首元のチョーカーについている小さな鈴がリンと鳴った。

「きっと君は家名を重んじて、将来の相手を決めると思ってたから……。悪かったよ、疑って」

 こめかみを指でかいて、エンリケは絹靴下をはいた足を絨毯の上に下ろした。

「ごめん、失礼なこと言って。自己紹介がまだだったね。あたしはエンリケ・アナシア・ケイマン。19歳よ。よろしくね」

 目の前に突き出された手をティティーリアは戸惑いがちに握った。かわいらしい姿のわりにずいぶん豪快な挨拶だった。

「ティティーリア・フロスといいます。どうぞよろしく」

 それ以上何も付け加えることがないので軽く微笑む。へえ、とエンリケが琥珀色の目を見張った。

「きれいな子! さすがマラウク、趣味はいいね。そのへんははずさないんだから」

「失礼な、見た目で選んだわけじゃないぞ。彼女はアイセル州領主ケイマン氏の愛娘でオレとミトの幼なじみなんだ」

 マラウクの添えた説明に、ティティーリアは慌てて握手の手を離した。

「領主家のご令嬢……!? 私ったら気軽に手など」

「あーいいの、いいの気にしないで! そういうガラじゃないし、あたし。それにマラウクの婚約者なら、もっと気軽につきあいたいわ」

 あはは、と口元も隠さずにエンリケが笑う。中心となる四侯爵家と並び各州を治めるアイセル、ヘイダース、リングルフの領主家は、家柄は新しいものの同じ侯爵位を持つ大貴族だ。気軽に握手を求めてもらえる相手ではない。

「昔から素行が悪いからな、お前は。父上が頭を抱えていたのを思い出すよ。よくうちに来ては庭で木登りして、ドレスを何枚やぶいた?」

「もう、昔の話でしょ! 今はほら、立派なレディなの。今でも礼儀作法の勉強は大っきらいだけどね」

 えへん、とエンリケが得意げに胸を張る。何がレディだよ、と笑いながらマラウクはふと首を傾げた。

「本当に久しぶりだな、二年ぶりくらいか。でも、いつの間に髪を染めたんだ? 一瞬わからなかったぞ」

「ああ――これ? かつらよ、かつら」

 ぺろりと舌を見せエンリケは後頭部を探り出す。そしてすぽりと見事な巻き髪を外した。

「あ」

 ティティーリアはぽかんと、無造作にソファに放り投げられた金髪の束を眺めた。

「蒸すのよねえ、これって」

 ふるふるとエンリケが頭を振る。その下から現れたのは、肩に届かないほど短い、鮮やかな赤い髪だった。

「どうしてそんな恰好を? そういえばお前、付き人はどうした?」

 呆れた様子のマラウクの問いに、エンリケはもう一度舌をのぞかせた。

「変装、変装。最近趣味なの。昨日父様とマリオンに着いたんだけど、どこ行くにもエヴァンスのやつがついてきていちいち口うるさくって。ちょっと巻いてみた」

「エヴァンスって、眼鏡をかけた背の高い……お前の家庭教師だろう? じゃあ逃げてきたってわけか。あのな……、帝都といえでも危険なのは他と変わらない。年頃の娘が一人で出歩かせる方がおかしいだろう。しかもお前は領主家の娘だ。危険な目にあわないとも限らない。お父上が心配するぞ」

 マラウクの叱責に頬を膨らませ、エンリケは最後の砂糖菓子を口に入れた。

「何よう、キミまでお説教? いいじゃない少しくらい。エヴァンスとリボンを選んだって楽しくないもん。ティティーリアなら理解してくれるよね! 平民育ちのキミなら、四六時中使用人にかしづかれる鬱陶しさ、わかるでしょ!?」

 テーブルに身を乗り出してきたエンリケの勢いにティティーリアは圧倒されながら、「え、ええ」ととりあえず頷いた。

 嫌味のように聞こえたが、おそらくそうではないのだろう。ありのままの姿で振る舞うエンリケからは悪意は感じない。

「じゃあ……こちらで一緒にリボンを選んではどうでしょう。いろいろお話出来ればうれしいですし。ね、マラウク様」

 さっきまで触れ合っていた右手を隠すように左手を添え、ティティーリアはマラウクを伺った。こうなったらこの場だけでも婚約者のふりをし通してやろうと思ったのだ。わずかに目を見張ったが、マラウクはそのわずかな表情の変化を極上の微笑みの中に溶かした。

「そうだな、それもいい。任せるよ、君に」

「ほんと? ありがとう! ところでそっちは何を買いに来たの? まさかお披露目用のドレス?」

「まあ、そんなところだ。普段こうして一緒に外出出来ることも少ないから、いろいろプレゼントしようかと思って。彼女は嫌がるけど」

 部屋の中に所狭しと積み上げられた靴や衣装の箱を見回して、マラウクは最後にティティーリアと目を合わせた。

「はいはい、見つめ合うなら後にして! まったくでれーっとしちゃって。品行方正で名高い右翼騎士団アウストリの総長がこれでいいわけ? まあいいや。帽子につけるリボンを探してるのよ。一緒に選んでね、ティティーリア!」

 楽しそうに声をたてながら、エンリケが「じゃあ見繕って持ってこさせるわ」と立ち上がる。その時一瞬彼女の表情が翳ったのをティティーリアは見た気がした。


――見間違い……?


 夕焼け色の短い髪をふわりと翻しエンリケが背を向ける。

 だが彼女が開ける前に部屋の扉が勢いよく開いた。

「見つけましたよ! エンリケ様っ!!」

「ぎゃーーっ!! エヴァンス!」

 血相変えて飛び込んできた青白い顔の青年に、エンリケが悲鳴をあげた。逃げようと方向転換するも、首根っこを掴まれて両手をばたばたと動かしている。

「このエヴァンスを出し抜こうとは百年早いですよ! もう逃がしません! さあ、帰りましょう! 今日はお父上と一緒に会食のご予定がございます」

「わかった、わかったってば〜!! どこ掴んでんのよ、すけべっ! はなしてっ!」

「いいえだめです! また逃げる気でしょう、このまま引きずって帰りますよ! 私は体が弱いんです。これ以上探しまわったら心臓が破裂します」

 確かに血の気がなく顔色は最悪だが、病弱とは思えない力強さでエヴァンスはエンリケを部屋から引きずり出していく。

「ぎゃーーっ、首が千切れる! ちょっとお、あたしはケイマン家の跡取り娘よ! 雇われ家庭教師の分際で偉そうにぃ! ごめんねー、マラウク、ティティーリア! もっといっぱい聞きたいことあるんだけど……またあとでーっ! しばらくこっちにいるからさ、遊びにいくよ、 ティティ! あとで昔のマラウクのはずかし〜い話とか教えるから!」

 けたたましい音をたてて扉が閉まった。

「……止めなくてよかったの?」

 二人きりになった小部屋の中でマラウクが耐えきれなくなった様子で笑い出した。

「何年たっても変わらないな、あいつの騒々しさは。いいんだよ、いつものことだから」

「かつら……置いていっちゃったけど」

「うちで預かろう。どうせ二三日のうちにまた顔を出すさ。さて、嵐が去ったところで君の買い物に戻ろうか。好みがわからないから、とりあえず色々揃えてもらったんだ」

 一つ一つ開けていたら日が暮れそうなほどの量の衣装箱を横目に、ティティーリアは睨むようにマラウクを見た。

「ちょっと待って。その前にどうして私のことを婚約者だなんて嘘をついたの?」

「その方が動きやすいからだよ、何かとね。不本意かもしれないが、オレの属する世界では、君は無防備すぎる。何か盾となる理由がないと、君を守れない」

「守るって――何から?」

「君を狙っているものたちから」

「それは、コレッティや……総督のこと?」

 その名を口にして、とてつもない大きな影が背後で蠢いているような悪寒が、ティティーリアの肌の上を通り過ぎた。

「そうだ。彼らに手出しをさせない理由がいる。コレッティはオレの屋敷に君がいることを知っているからな」

「それで婚約者? ……ずいぶん思い切りがいいのね」

「なぜ?」

 からかっている風でもなく、真顔でマラウクが訊いてくる。本当に理由がわからないのかと、ティティーリアはため息をついた。

「だって……大貴族であるあなたの相手が、身分のない娘だなんて、それだけで醜聞になるじゃない。非難の嵐よ。そのくらいわからないわけじゃないはずよ。それにあなたにご熱心な貴婦人の誰かが、私のことを調べるかもしれない。それで娼館にいたと知れたら、困るのはあなたじゃないの?」

「家名に傷がつくって? 言っただろう、俺はそんなことは気にしないと。確かに俺のいる社会は地位や権力が物をいう。成功するためには大事な盾だ。でも生涯の伴侶に誰を選ぼうと、自分が正しいと思えば俺はそれで構わない。誹謗や醜聞くらい覚悟の上だ。だが、何があったとしても、女ひとり守り抜けないようじゃ男とは言えない。俺には、君を守れる力もどんな中傷に屈しない気持ちもある。心配しなくていい」


――どうしてこの人はそんな風に考えられるんだろう。


 貴族は貴族と。平民は平民と。

 目に見えない境界線は、人々の生活の中に当たり前のように刻みついている。

 お互いの暮らしがいかに違うかもわかっているし、だから互いに踏み込まないことが平和に暮らす一番の良策だということも知っている。

 もともと貴族は平民と関わりたがらない。見下すための存在だから。下手に噂されて悪評がたつのも嫌がるものだ。少なくとも今までティティーリアが出会った貴族はそうだった。

 だがクレイヴランス家ほどの名なら波風がたつのを嫌って当然なのに、マラウクの考え方は彼らの一般的な常識とはかなりのずれがある。


――変わった人だわ。


「知らないわよ、どうなっても」


 無頓着なのか、それともかなりの自信家か――

 忠告のつもりで言ったティティーリアの言葉に、マラウクは優雅な一笑とともに頷いた。


「よろしく、婚約者殿。さあ、買い物を続けよう」





またもや大変遅くなり申し訳ありません。。

なかなかペース戻りませんが、再開です。

新しい人物も加わって波乱の予感…またいっそう長くなりそうですが(汗)またよろしくお願いいたします!


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