第13話 意味のない想像も原動力
《side B》
花火大会も終わり、俺と莉緒を乗せた電車が最寄駅に着く。鮨詰め状態だった車内は莉緒の身体がそばにあって、その間は胸がざわついて仕方なかった。
改札を通り抜けて、互いの顔を見つめ合う。
「今日はありがとね」
「こちらこそ、楽しかった」
手も握らず、ただ微笑み合うだけの時間。
夜空に消えた花火の残り香が、まだかすかに残っている気がした。
「頑張って曲作るわ」
「うん。応援してる」
「また連絡する」
「うん」
別れる前、莉緒は笑って小さく手を振った。
その後ろ姿を見送ったあと、胸にぽっかりと穴が空いたような感覚が残る。
──ああ、やっぱり言えなかった。
あの瞬間、本当に言いたかったことは文化祭のことじゃない。
莉緒が好きだ──。
そう告白するつもりだったのに、結局言葉にできなかった自分がもどかしい。
それでも、彼女と一緒に文化祭に出たいのは紛れもない本音だった。ただ、もし告白してフラれてしまったら、「一緒に文化祭に出よう」なんて誘えるわけがない。
だから躊躇った。もっと莉緒との思い出を作りたい──その一心だったと思う。
星空の下、時折吹く夜風が熱を冷ますように頬をかすめていく。
その度にあの光の中にいた時間が、夢みたいに遠くなっていった。
文化祭の話が出たのは、八月に入ってすぐのこと。莉緒から「オリジナルとか作らないの?」と訊ねられた次の日だった。
星野先生から《軽音部のライブの前、オープニングアクトとして出ないか》とメッセージが届いたのがきっかけだ。
演ってみたいと思ったものの、最初は「無理です」と丁重にお断りした。それでも先生は熱心にメッセージを送ってくれて──気づけば、心のどこかで莉緒となら出てみたいと思いはじめていた。
俺だって、人に聴かせられるくらいには上手くなったはずだ。だけどそれ以上に、彼女の歌をみんなに知ってほしい。聴いてほしい。
──不思議だ。
少し前までは、俺だけ知ってればいいと思っていたのに。今は誰よりも多くの人に届いてほしいと願っている。
本音を探れば、その隣にいるのが俺だって、みんなに自慢したいだけなのかもしれない。
ちなみに星野先生には、まだボーカルが誰なのか伝えていなかった。どうせなら、当日になってみんなを驚かせたいと思ったからだ。
そしてライブが成功したら、そのとき莉緒にちゃんと告白する。それから「これからも俺の隣で歌ってほしい」と伝えて──なんて、くだらないことまで考えている自分がいた。
「ガキかよ……」
思わずひとりごちる。と同時に、冷めたはず熱が再び胸の奥から湧き上がった。
“亮くんって、好きなことになると子どもみたいなるよね”
莉緒の声を思い出して、苦笑がもれる。
──ほんと、ガキみたいだ。
子どもみたいに純粋な恋心。こんなに人を好きになるなんて、思ってもいなかった。
最初はただ歌声が綺麗だなって思っただけなのに。
それが、いつからだろう。
彼女の明るい声に、ぱっと見せる笑顔。それを隣で、ずっと見ていたいと思うようになっていた。
──今度こそ、ちゃんと伝えよう。
たとえ花火みたいに一瞬で燃え尽きようとも。あのとき言えなかった気持ちを、今度こそ言葉に変えてみせる。そして、それを曲にしよう。
──帰ったら詞でも書いてみようかな。
我ながら、安直で子どもっぽいと思う。でもその原動力は、ぜんぶ莉緒の存在だ。
歩きながら、なんとなくメロディをつぶやいてみる。音の粒が少しずつ形を成していく気がした。




