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5. 死なないでくれ

 医療用テントはすぐ見つかった。

 勢いよく中に入ると、無人で色々なものが散乱している。

 恐らく奇襲を受けて咄嗟に避難したらしい。

 アデルは目についた棚から乱暴に漁りだした。


「ちっ! どの薬品が何なのか分からん!

 止血剤は止血剤と書けばいいものを……!」


 仕方なく、転がっていた小さな鞄を拾って手当り次第に詰め込んだ。

 ついでに見つけた注射器やガーゼなどの道具も一緒に。

 やがて蓋が閉まらないほど鞄がパンパンになると、アデルは一目散にその場を後にした。




 ヴェベールが隠れているテントに戻るのに、時間はかからなかった。

 だが探し回るのに時間を要してしまった。

 そのせいか、アデルが戻った時にはヴェベールから気迫をほとんど感じられなかった。


「ヴェル兄! 薬を持ってきた! しっかりしろ!」


「ぅ……あでる……か……?」


 さっきよりも血の気がなく、完全にぐったりとしている。

 傷口に巻かれた服を見ると、既に全体が真っ赤に染まってしまっている。

 もう本当に時間が残されていない。



 アデルは鞄をひっくり返し、中身を全部地面の上にぶちまけた。

 やはりどれが何なのかさっぱりだ。

 ヴェベールにどれが止血剤か聞こうにも、もう意思疎通がうまくできないほど朦朧としている。

 こうなったら、勘で何とかするしかない。


 アデルは適当に薬瓶を拾い上げた。

 そこには「クロロフェノール」と書かれている。

 用途は全く分からないが、名前からして消毒用のアルコールのような気がした。

 

(まずは傷口を消毒した方がいいのか……?

 あぁもう分からん! やるしかない!)


 アデルは傷口を露わにするために、巻かれた服を取ろうとした。



 その時、背後から人の気配がした。


「――!? ジャンか!?」


 アデルは咄嗟に刀を構えて振り返った。

 しかしそこにいたのは味方の兵士だった。

 確かこの前ヴェベールと仲良く話していた、ジェラールという名前だった気がする。

 彼はアデルが何をしようとしていたのか分かったようで、血相を変えて叫んだ。


「お前……アホか!?

 その状態で止血を止めたら、本当に死んじまうぞ!!

 ちょっと離れろ!!」


 ジェラールはアデルを突き飛ばした。

 加減はしてくれたようだが、手が当たった部分が結構痛い。

 アデルはその場で2人を見守ることしかできなかった。


「……くそっ! しっかりと止血処理しているのに止まらないのかよ!

 こりゃ専門の器具を使わないと助からねぇぞ!」


 そこでアデルははっとした。

 確か持ってきた医療用品の中に、止血帯があったはず。

 実際に探してみると、確かにあった。

 アデルは咄嗟にジェラールにそれを見せた。


「っ!? でかした、坊主!

 ついでに手伝ってくれ!

 こいつを助けるぞ!」


 アデルは強く頷き、ジェラールの指示に従いながら応急処置を始めた。


 

 まずアデルは自分のベルトを外し、ヴェベールに咥えさせた。

 その時にはジェラールが止血帯を太ももの付け根に巻き、きつく締める準備を済ませていた。

 アデルが彼の怪我した足を押さえつけると、ジェラールはヴェベールに「痛いから覚悟しろ」と大声で伝える。

 ヴェベールが項垂れるように頷いた後、ジェラールは全力で彼の足を締め付けた。


「ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙――!!!」


 ヴェベールはベルトを強く噛みながら、本能的に暴れだした。

 ジェラールとアデルは必死にそんな彼を押さえ込み、特に怪我した足を固定するのに努めた。

 

 ヴェベールはしばらく何度も激痛で呻きを上げていた。

 だが突然静かになったかと思うと、糸が切れたかのように倒れてしまった。


「ヴェル兄!?」


「ショックで失神しただけだ! 続けるぞ!」


 ジェラールは手早く巻かれている衣服とベルトを外した。

 止血がうまく行ったのか、ズボンを破って傷口を顕にしても血はあまり出なかった。

 アデルはすぐに消毒した方がいいと思い、先程手に取ったクロロフェノールをジェラールに見せた。


「っ!? 馬鹿か!?

 それは劇物だ! かけたら皮膚がただれる!

『エタノール』を寄越せ! あと『トラネキサム酸』もだ!」


「――!」


 アデルは慌てて言われた薬品を探した。


(もしこいつが来なかったら……俺は……)


 いや、そんなことを考えている余裕はない。

 目的の薬を見つけてジェラールに手渡すと、慣れた手つきで処置を始めた。


「……詳しんだな」


「年上には敬語を使え!

 ……俺は元々軍医を目指してたから、ある程度の知識は持ってる。

 それに主な薬品の名前と使用用途は学校で習うもんだ」


「……」


 アデルは無言でジェラールの手際を見つめていた。

 そうしていると今度は注射器とガーゼを要求されたので、素早く取って渡した。

 ジェラールは注射器でトラネキサム酸を吸い取り、ヴェベールの右太ももに注射した。

 そして左右に開いた傷口をガーゼで強く押さえ、アデルの力を借りて包帯できつく巻いた。


「……よし」


 ジェラールは意識のないヴェベールを背中におぶった。

 そのまま彼はテントの外に出ようとしたが、あたふたして動かないアデルを見て一喝した。


「何している!?

 ジャンにはもっとしっかりとした治療が必要だ!

 護衛しろ!」


「っ!?」


 ジェラールに背中を押される形で、アデルはテントを後にした。

 そして彼に言われるがまま、邪魔する敵を排除しつつ本陣の医療班の元へと駆けて行った。

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