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3. 2人の初陣

 2日後の夜、予定通りセルジュ率いる軍は奇襲の準備を整え終わった。

 セルジュに世界でもトップクラスの戦闘力があるせいか、必ずと言っていいほど正面からぶつかって行く。

 工夫するのは、衝突する時間とどこに向かって走るのかだけだ。

 しかしそんな単純な作戦で今まで成功してきたため、一部の人間から"赤イノシシ"と影で揶揄されている。

 無論、本人は気に入っていない。



 ヴェベールとアデルは、ひしめき合う軍の真ん中付近にいた。

 ヴェベールを含む周囲の兵士は、背筋を伸ばして重い空気が蔓延している。

 一方、アデルは浮かれ気分で落ち着きがなかった。


「ヴェル兄、まだ始まらないのか!?

 もう既に2時間は経っているぞ!」


「はぁぁぁぁ……」


 ヴェベールはわざとらしく、大きなため息を漏らした。

 アデルはそれに気付いているようだが、それ以上に戦いたくて仕方ない様子。

 まるで開園前の遊園地を待つ子供のようだった。


「アデル、もし本気で戦いたいならオレと約束してくれ」


「あ?」


 少しだけ不機嫌になったアデルの顔を、ヴェベールはのぞき込んだ。

 彼は一昨日と全く同じ不気味な笑みを浮かべている。

 アデルは一瞬だけ身震いした。


「1つ、オレの前に出ない。

 2つ、オレから絶対に離れない。

 3つ、オレの言うことは絶対。

 はい復唱」


 最初アデルは不満そうに口を固く結んでいたが、ヴェベールの気迫は凄まじかった。

 結果として渋々小声でジャンの言葉を復唱すると、「よくできました」と頭を撫でられた。

 そんな子ども扱いはアデルにとって不服だったが、なぜかそれを言葉に出す勇気はなかった。


 そうしているうちに、やがて開戦の合図が鳴り響いた。



 兵士は一斉に走り出した。

 夜の奇襲にもかかわらず、大きな雄叫びをあげながら。

 その熱気はヴェベールの想像以上で、自分が押し潰されないようにするので精一杯だった。


「うおぉぉぉぉ!!!」


「!? おい、アデル!

 オレから離れるなって!!」


 いつの間にか、アデルは自慢の足で前にいる兵士達をぐんぐん追い越していった。

 ヴェベールが全速力で追いかけるも、人が多いせいで見失わないようにするのがやっとだった。


「あぁもう! 言った矢先から約束をすっぽかして……!

 これだから面倒を見るの嫌だったんだよ!!」


 周囲の雑踏に劣らない声量で、ヴェベールは愚痴をこぼした。

 恐らくアデルの耳にも届いたはずだが、右から左に流れたようだ。

 一体、あの熱血ぶりは誰に似たのだろう?

 その疑問に答えるように、何メートルも先にいるはずのセルジュの咆哮が聞こえてきた。




***




 その頃、敵陣営はみな夕食を取り始めていた。

 相手の本陣には未だに明かりが灯っており、向こうも開戦の準備を整えている最中だと考えられていた。

 

 たとえ違ったとしても、山で囲われているこの陣に奇襲など仕掛けるはずがない。

 道が悪いうえに移動のために必要な明かりですぐにばれるからである。

 そのため、皆悠々自適に時間を過ごしていたのだ。



 そんな中最初に違和感を感じたのは、満腹になり睡魔に襲われていた兵士だった。


「ふわぁ…………ん?」


 どこからか、人の声がする。

 最初はただ近くにいる兵士の声だと気にしなかった。

 

 しかしただの雑談にしては、熱量がありすぎる。

 それに何かの単語や文章を発しているような感じではない。

 その声が大きくなって他の人も気づき始めた時、兵士は何が起きているのかを察した。


「――て、敵襲だぁぁぁ!!」


 兵士がそう叫んだと同時に、馬に乗ったセルジュが森から飛び出してきた。

 そして後ろを振り返ろうとしたその兵士の首を、目にも留まらないスピードで刎ねてしまった。


「進めぇぇぇぇぇ!!!」


 セルジュはついてくる兵士達を鼓舞しながら、猛スピードで敵陣を駆け抜けた。

 馬に乗っているとはいえ、その速さは尋常ではなかった。

 数十メートル後方にいたはずが、いつの間にか敵の目の前に迫る。

 そして相手はセルジュを認識する間もなく、絶命させられた。

 その姿はまるで暴れたイノシシのようで、彼が通った道で生きている敵兵など存在しなかった。



 ついてくる味方の兵士も、セルジュに置いて行かれることはなかった。

 皆殺気と熱量を原動力とし、人の足とは思えないほどの速さで進軍していく。

 しかも先頭にいる兵士達は、自分が何を攻撃しているのか分かっていない。

 それほど、セルジュ率いる軍は異常だった。


 その中でも特に際立っていたのはアデルだった。


「はは、あはははは!!」


 アデルは現役軍人にも引けを取らないほどの速さで駆け抜けていた。

 しかも刀を素早く振り、周囲の敵を次々となぎ倒していきながら。

 やっと本物の戦場で自分の力を発揮できた達成感で、アデルはハイになっていた。


「これが戦争か!

 弱い、弱すぎる! これでは俺を止められないぞ!?

 もっと歯ごたえのある輩はいないのか!?」


 彼の言う通り、敵兵は誰もアデルの勢いを止めることはできなかった。

 だが調子に乗りすぎて、どんどん本軍から離れようとしていた。


「――アデル!!

 こっちに戻ってこい!!

 別方向に進んでいるぞ!?」


 遠くから走って近づいてくるヴェベールの言葉で、やっとアデルは周囲を見られるようになった。

 アデルは目の前の敵の体を刀で真っ二つにした後、180度向きを変えた。

 そしてヴェベールの方向へと走り出す。


「っ!? アデル、後ろ!!」


「――!!??」


 アデルが反射的に振り返ると、さっき下半身を切り落としたはずの敵が剣を持って襲いかかろうとしていた。

 アデルは咄嗟に防御態勢を取ったが、相手の勢いにやられ地面に押し倒された。

 そのまま、不利な体勢で刃のしのぎ合いをさせられる。


(こいつ……上半身だけだぞ!

 なんでこんな力が残っているんだ!?)


 相手には、「敵を殺す」ということしか頭にない。

 目も虚ろでただ唸るだけ。

 その状態でアデルの首めがけて、どんどん剣に力が込めていく。



 アデルは完全に舐めていた。

 窮地に追い込まれた人間を。

 どうしてそこまで必死になるのか、全く理解できない。

 だがそんなことを考えている間にも、アデルはじりじりと押されていく。



 ヴェベールは急いでアデルを助けようと、必死に走った。

 刀を一本召喚し、敵の頭に狙いを定めて構えた。

 だがその時、遠くから発砲音のようなものが聞こえた。

 そして――


「――ぐっ!?」


 ヴェベールの右太ももに、銃弾が貫通した。

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