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2. 剣聖セルジュ・ドラクロワ

 拠点の中心では、今回の戦いの作戦会議が行われていた。

 中心にはセルジュ・ドラクロワ中将、その周囲には参戦する指揮官が集まっている。

 皆地図とにらめっこし意見を交えた結果、高度な戦略はなしで、正面突破で挑むことにした。


「……作戦会議は以上。

 明後日、すべての部隊が整ったその時に奇襲をかける。

 全員持ち場に戻れ」


「はっ!」


 指揮官達は一斉に敬礼した後、ぞろぞろと自分が居るべき場所へと帰還した。



 残されたセルジュは目頭を押さえて、肩をゆっくりと落とした。

 そうして少しだけ力を抜いてから部下に後片付けを指示し、沸かしたお湯をコップに注いだ。


「中将、お休み中失礼致します。

 ジャン・ヴェベールと名乗る兵士が面会を希望しております」


「……ジャンがか?」


 セルジュは粉末コーヒーをお湯に溶かしながら、声を掛けてきた部下の方に振り向いた。

 弟子とはいえ、彼は場を弁えるタイプだ。

 余程のことがあってわざわざ来たのだろう。

 そう判断し、セルジュは「通せ」と短く命令した。

 彼が来るわずかの間でコーヒーを堪能しようとしたが、想像以上に甘かった。


「ちっ、これだからインスタントは……

 便利だから重宝しているが、全く苦味が足りん。

 やはり豆はマンデリンに限るな」


 ボソボソと愚痴を漏らしていると、2人の人間がテントに入ってきた気がした。

 そこでコーヒーを啜りながら振り返った時、予想外の人物がヴェベール拘束されていて絶句した。


「――」


 驚愕と呆れが入り混じった父親の視線を感じ取り、アデルは肩を一瞬震わせた。

 凄く気まずいらしく、彼は一向に目を合わせようとしない。

 対してヴェベールは怒りながら笑っている。

 セルジュは真顔になり、カップを荒々しく近くの机に叩きつけた。


「……ジャン、一旦外に出ろ」


「はい、もっちろん♪」


 ヴェベールはノリノリでテントの外に出た。

 おもしろ半分ですぐ足を止めて耳を澄ませた。



 しばらく、無音の状態だった。

 やがて何か細くて軽いものが転がったような音がしたと思うと、セルジュの低い声が聞こえた。


「ドラクロワ家の家訓、覚えているか?」


「……『強き者を縛ることを禁ず』」


「ならその木刀を取れ。

 俺に勝ったら見逃してやる」


 再び静寂に包まれた。

 恐らくアデルは迷いながらも、ゆっくりと木刀を構えたのだろう。

 戦い盛りの彼にとって、この上ないルールだからだ。

 少し間を置いた後に、木と木が激しくぶつかる音が何度も聞こえてきた。


 しかし物が壊れる鈍い音が響いた後、鞭のように何かを叩く音に変わった。

 その中には、アデルの大きな悲鳴も混じっている。

 どうやら勝敗はついて、一方的にボコボコにされているようだった。


「あーあ、そうなるの分かり切っていたのにぃ。

 オレにもろくに勝てないくせに、剣聖と呼ばれる先生に勝てるわけないじゃん。

 ただでも実力と知識が完全には身についていない学生なんだからさ。

 ほんっと、アデルって無鉄砲だなぁ」

 

 ヴェベールは口笛を吹きながら、セルジュの鬱憤が張らされるのを待った。




 数分後、ようやくテントの中が静まり返った。

 ヴェベールが中の様子を伺いながら入ると、正面に木刀で肩を叩くセルジュがすぐ目に入った。

 その前には正座したアデルがいて、頭に大きなたんこぶができていた。

 やはり、圧倒的なアデルの敗北のようだった。


「結局、どうするんですか?」


「……」


 ヴェベールに見守られる中、セルジュはぬるくなったコーヒーを一気に飲んだ。

 直後木刀を投げ捨て、机に腰を預けて眉間にしわを寄せた。


「……アデル、貴様がここに来た理由は?」


 正直今さら聞くのかと思った。

 だがそこに突っ込むことはせず、アデルが返事するのをヴェベールは待った。

 アデルは元気を失った状態で何かぼそぼそと呟いた。

 あまりにも声が小さくてセルジュが睨むと、アデルは一瞬ぎょっとして声量を大きくした。


「……俺はもう子供ではない。

 国王から護衛任務を任されるほどの実力がある。

 学校で学ぶべきことはもうない。

 もう一人前の兵士だ」


「……はぁ」


 セルジュとヴェベールは茫然とするしかなかった。


 確かに14歳にしてみれば、アデルはかなり強い。

 でもそれはあくまで実力の話。

 精神力、教養、判断力……何もかもがまだ足りていない。

 そんな彼が戦場に出れば、すぐにやられてしまうのは明白だ。

 

 なのに、父親に怒られた今でも懲りないようだ。

 彼の性格を考えれば、そんなに反省もしていないはず。

 そんな子供を死地に送り込む人間なんているだろうか?


「今回の戦いは短期決戦なんですよね?

 だったらどこかの木に括り付けて、終わった後に一緒に帰還しても良いのでは?」


「その必要はない」


 予想外のセルジュの発言に、ヴェベールは不可解な顔をした。

 セルジュは最前線で戦いたがるため、ずっとアデルの面倒を見るつもりもないだろう。

 だとしたらアデルをどうするのか、ヴェベールはいい考えが浮かばなかった。


「せっかくの機会だ。

 この阿呆に戦場の厳しさを教えてやる。

 ジャン、アデルの面倒を見ながら戦え」


「……はぁ?」


 思わず変な声が出るヴェベールに対して、アデルは目を輝かせ始めた。

 流石の無茶ぶりにヴェベールは首を横に振ったが、セルジュは撤回するつもりはなさそうだ。


「訓練の一環だ、アデルと一緒に戦果をあげろ。

 そして徹底的にこやつの甘えを取り除け」


「いやいや、正気ですか!?

 初戦でアデルを庇いながらって……

 いくら何でもないでしょ!?」


 しかしセルジュはさっさと戻れと言わんばかりに手を振り始めた。

 こうなってしまえば、セルジュはてこでも動かない。

 ヴェベールは渋々、彼の命令を飲み込んだ。

 そしてウキウキするアデルを引っ張りながら、テントを後にした。

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