表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

再会

その日は、会社を早く出た。


上司は来なかった。


新人は無言。


経理はいつも通り微笑んでいる。


静かすぎる。


 


駅前のコンビニに寄る。


いつもの店員が無表情でレジを打つ。


「お疲れさまです」


俺が言う。


店員は軽く会釈するだけ。


常連だから、余計な言葉はいらない。


 


外に出たとき。


「……三上?」


背後から声がした。


振り向く。


 


高校の同級生だった。


少し太った。


スーツ姿。


名札がついている。


 


「ああ」


名前がすぐ出てこない。


でも顔は覚えている。


 


「久しぶりじゃん。何年ぶり?」


「そうだな」


適当に笑う。


 


「今なにしてんの?」


自然な質問。


 


「会社員」


即答。


 


「へえ、どこ?」


 


一瞬、間が空く。


「……市内」


嘘じゃない。


市内だ。


 


「俺はさ、商社入ったんだよ。転勤ばっかでさ」


饒舌だ。


自信がある声。


 


「忙しそうだな」


 


「まあな。でも給料いいし」


笑う。


 


視線が俺のネクタイに落ちる。


少しよれている。


 


「帰り?」


 


「ああ」


 


「この辺、会社あったっけ?」


軽い調子。


でも言葉が刺さる。


 


「あるよ」


短く言う。


 


「どのビル?」


 


「……言っても分からないと思う」


 


同級生が少し首をかしげる。


 


「そういやお前、昔から一人でいるの好きだったよな」


笑う。


悪意はない。


 


「今もあんまり変わってないだろ」


 


その言葉が、少しだけ胸を刺す。


 


「いや、部下いるよ」


口が勝手に動いた。


 


「へえ、上司?」


 


「いや、指導してる」


 


「すごいじゃん」


軽い拍手。


本気じゃない。


 


そのとき、同級生の視線が俺の腕に止まる。


引っかき傷。


昨日、たけるにつけられた跡。


 


「どうしたそれ」


 


「仕事」


即答。


 


「大変なんだな」


笑う。


同情半分。


 


スマホが鳴る。


同級生のだ。


「悪い、彼女からだ」


画面をちらっと見せる。


女性の名前。


 


「じゃあな、また」


 


去っていく。


迷いのない足取り。


 


その背中を見送る。


 


彼女。


部下。


会社。


普通の言葉が頭の中で反響する。


 


俺は間違っていない。


ちゃんと働いている。


ちゃんと守っている。


 


でも、さっきの「どのビル?」が離れない。


 


夜道を歩く。


足音がやけに響く。


 


向かいの家の前を通る。


灯りは消えている。


カーテンが閉じている。


 


俺は立ち止まらない。


立ち止まらないほうがいい。


 


でも、視線は自然と向いてしまう。


 


胸がざわつく。


母親の言葉。


同級生の笑い。


 


“関わるな”


 


俺は何も間違っていない。


 


……よな?


 


塀の向こうで、何かが動く音。


 


振り向く。


暗闇。


 


今日、たけるの姿は見えない。


 


妙に静かだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ