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はっきりと

次の日の夕方。


家の前で靴を履き直していると、

玄関のチャイムが鳴った。


珍しい時間だ。


母が出る前に、俺が扉を開ける。


 


立っていたのは、あの子の母親だった。


昨日より近い距離。


目は、まっすぐこちらを見ている。


 


「少し、お話できますか」


声は落ち着いている。


でも硬い。


 


「どうぞ」


自然に答える。


何も悪いことはしていない。


 


家の外で向き合う。


母は少し離れた場所で様子を見ている。


 


「娘に、あまり話しかけないでいただけますか」


単刀直入だった。


 


「迷惑でしたか?」


冷静に聞き返す。


 


「娘は、怖がっています」


静かな声。


 


胸の奥が、わずかにきしむ。


「何もしていません」


即答だった。


「昨日も、ぶつかっただけです」


 


「帰り道で待ち伏せされていますよね」


 


「偶然です」


言い切る。


事実だ。


偶然だ。


 


母親の目が揺れない。


「娘は、あなたが通る時間を避けようとしています」


 


一瞬、言葉が詰まる。


でも整える。


「誤解です」


 


「“怖くない”と言ったそうですね」


 


「あれは安心させようとしただけです」


 


母親は、はっきりと言った。


「安心していません」


 


沈黙。


風が吹く。


 


そして、ゆっくりと、決定的な言葉。


 


「娘に関わらないでください。それだけです」


 


空気が止まる。


 


「俺は守ろうとしているだけです」


気づけばそう言っていた。


 


母親の表情は変わらない。


「守る必要はありません」


 


その言葉が、妙に刺さる。


 


「……俺は危険じゃない」


小さく出た声。


 


母親の目がわずかに揺れる。


同情と警戒が混ざる。


 


「これ以上続くようなら、然るべきところに相談します」


 


警告だった。


遠回しではない。


 


母親は静かに頭を下げ、背を向ける。


扉が閉まる。


鍵の音。


ひとつ。


 


後ろで母が言う。


「やめなさい」


 


「何を?」


 


「関わるの」


 


「誤解されてるだけだよ」


少し強くなる。


「俺は何もしてない」


 


母はそれ以上言わない。


でも目は、さっきの母親と同じだった。


 


部屋に戻る。


胸の奥がざわつく。


 


関わるな。


それだけです。


 


そんなに悪いことをしているのか。


 


窓の外を見る。


向かいの家の灯り。


カーテンの向こうに影。


 


拒絶された。


でも、間違っていない。


 


間違っていない。

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