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報告不足

朝、会社に着くと静かだった。


いつもより、音が少ない。


窓際の席に新人が座っている。


背中が丸い。


「おはよう」


声をかけると、肩が跳ねる。


「あ……おはようございます」


振り向く。


目の下が少し暗い。


「腕はどうだ」


包帯が巻かれている。


昨日より分厚い気がする。


「……平気です」


短い。


視線は机。


 


「ちゃんと休んだか?」


うなずく。


でも指先が震えている。


 


デスクの横に立つ。


「まだきついなら巻き直すぞ」


手を伸ばすと、椅子ごと少し下がる。


距離を取る。


無意識だろう。


「だいじょうぶです」


早口。


 


経理がぽつりと言う。


「少し腫れているように見えます」


声はいつも通り静か。


新人の呼吸が一瞬止まる。


 


「ほら、やっぱり」


俺は包帯に触れる。


「動くな」


軽く押さえただけなのに、体が固まる。


 


そのとき。


ドアが勢いよく開く。


上司だ。


足音が荒い。


視線が新人に向く。


 


「進捗」


低い声。


新人が立ち上がる。


椅子が倒れそうになる。


「い、今まとめてます」


声が裏返る。


 


上司が一歩踏み出す。


空気が重くなる。


羽ばたくような音が耳に残る。


 


「焦らせないでください」


俺が言う。


自然に前に出る。


新人の前に立つ。


 


上司の目が細くなる。


しばらく睨む。


新人が背後で震えているのが分かる。


 


「指導不足だ」


低い声。


俺に向けられている。


 


「問題ありません」


即答する。


「ちゃんと見ています」


 


上司がデスクを強く叩く。


書類が落ちる。


新人がしゃがみ込む。


 


「大丈夫だ」


俺は肩に手を置く。


昨日と同じ感触。


硬い。


「俺がいる」


 


上司が突然、新人の方へ大きく手を振り上げる。


威嚇。


風が強く動く。


新人が頭を抱える。


 


「やめてください」


俺の声が強くなる。


 


しばらくの沈黙。


やがて上司は背を向ける。


去り際、低く言う。


「結果で示せ」


 


ドアが閉まる。


 


床に白いものが落ちている。


細くて軽い。


新人の足元だ。


 


「怪我してるのに無理するからだ」


俺はそれを拾う。


軽い。


指でつまむとすぐ曲がる。


 


新人は何も言わない。


ただ、机に顔を近づけている。


 


「怖かったな」


うなずく。


 


「でも大丈夫だ」


包帯にもう一度触れる。


少し湿っている。


 


「守るって言っただろ」


 


経理がこちらを見ている。


微笑んでいるように見える。


何も言わない。


 


午後、入力ミスが増える。


新人の手が思うように動いていない。


「ほら、集中しろ」


声が少し強くなる。


 


「すみません」


小さな声。


 


「謝らなくていい」


でも、ちゃんとやらないといけない。


守るためには、強くならないと。


 


夕方。


窓の外で影が横切る。


一瞬だけ。


黒い。


 


新人の席に、小さな灰色の羽が落ちている。


どこからだろう。


 


今日もちゃんと守った。


怒られたのは俺だ。


それでいい。


新人は弱い。


だから俺が必要だ。

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