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触れすぎた手

夜は少し冷えていた。


塀の向こうに、たけるの姿が見えない。


「たける」


呼ぶ。


返事がない。


いつもなら、少し遅れて顔を出すのに。


 


裏手に回ると、物陰にしゃがみ込んでいる。


膝を抱えて、体を小さくしている。


「どうした」


近づくと、びくりと肩を揺らす。


目が合った瞬間、視線を逸らす。


 


「こっち向けよ」


手を伸ばす。


たけるは後ずさる。


でも塀に背中が当たって、それ以上下がれない。


「……だいじょうぶ」


小さな声。


震えている。


 


腕を押さえていることに気づく。


「怪我してるのか?」


袖をつかむと、強く抵抗する。


「やめて」


はっきり言った。


でも力は弱い。


引くと、布の下から血がにじんでいる。


細い裂け目。


擦り傷より深い。


「何やってるんだよ」


思わず言葉が強くなる。


たけるはさらに体を縮める。


 


「放っておくと悪くなる」


正しいことを言っている。


俺はしゃがみ込み、腕を引き寄せる。


「やだ」


今度ははっきり。


でも、逃げようとする動きは遅い。


 


「動くなって」


肩を押さえる。


細い体。


力を入れなくても動きを止められる。


でも今日は、妙に抵抗が強い。


「落ち着け」


声が低くなる。


 


消毒液をかける。


たけるが息を詰める。


「いたい」


涙がにじむ。


でもこれは必要な痛みだ。


「我慢しろ」


腕を押さえつける。


暴れた拍子に、足が俺の膝を蹴る。


「だから動くな」


少し強くなる。


 


包帯を巻く。


きつめに。


外れないように。


「これでいい」


たけるの呼吸が荒い。


目が赤い。


涙か、風のせいか。


 


手を離す。


数秒、動かない。


それから急に立ち上がる。


よろける。


包帯の端が引っかかる。


それでも走る。


 


「おい」


呼ぶが、振り向かない。


闇の向こうへ消える。


 


地面に落ちたボタン。


たけるの服のものだろう。


さっき袖を引いたときかもしれない。


強く掴みすぎたか。


でも仕方ない。


暴れるからだ。


 


家に入ると、母が顔を出す。


「またあの子?」


「怪我してた」


「……泣いてなかった?」


「消毒しただけだよ」


少し間が空く。


「嫌がってなかった?」


「子供だからだよ」


言い切る。


 


部屋に戻る。


腕に細い引っかき傷。


爪が当たった跡。


「元気だな」


小さく笑う。


 


たけるは弱い。


だから俺がやらなきゃいけない。


嫌がるのは、分かってないからだ。


痛いのが怖いだけだ。


本当は感謝している。


 


夜更け。


外で何かが倒れる音。


短い悲鳴のようなもの。


気のせいだ。


ちゃんと手当てした。


俺は間違ってない。


守っただけだ。

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