表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも通りの朝  作者: えみり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/22

業務

朝。


廃墟ビルの扉を押す。


重い音。


鉄の匂い。


 


中は冷たい空気が流れている。


 


天井の梁に、灰色の影。


 


細い体がじっとしている。


片足に体重を乗せている。


もう片方は浮かせ気味だ。


 


羽が少し乱れている。


 


「出社してるな」


 


返事はない。


 


わずかに首が動く。


丸い目がこちらを見る。


すぐ逸らす。


 


床に昨日のパンくず。


 


いくつかはなくなっている。


 


灰色の影が小さく鳴く。


短い、乾いた声。


 


上の窓枠に黒い影。


 


大きい。


動かない。


 


じっと下を見ている。


 


鋭いくちばし。


光る目。


 


風が吹く。


羽が揺れる。


 


灰色の影が一歩動く。


 


黒い影が羽を広げる。


 


ばさ、と重い音。


 


灰色が跳ねる。


 


「落ち着け」


 


声が空間に吸われる。


 


黒い影が低く鳴く。


短く、鋭い。


 


灰色の影が羽ばたく。


しかし高くは飛べない。


梁にぶつかる。


 


粉塵が舞う。


 


「やめろ」


 


黒い影が一度だけ急降下する。


 


灰色の羽が舞う。


 


小さな鳴き声。


 


黒い影はすぐに窓枠へ戻る。


 


何事もなかったように。


 


灰色の影は床に降りる。


 


片足を引きずる。


呼吸が早い。


 


それでも、こちらを見る。


 


「仕事だ」


 


ゆっくり歩いて近づく。


 


灰色の体が硬直する。


 


それ以上は動かない。


 


壁際。


白い顔が椅子に座っている。


 


丸い目。


動かない口元。


 


風で髪が少し揺れる。


 


白い手は膝の上。


 


何も言わない。


 


何も変わらない。


 


ビルの奥で水滴の音。


 


黒い影がまた低く鳴く。


 


灰色が震える。


 


「教育だ」


 


誰に向けたのか分からない。


 


パンくずを拾い、床に撒く。


 


灰色の影が近づく。


警戒しながら。


 


黒い影は動かない。


ただ見ている。


 


静かな空間。


 


羽音。


風音。


軋む鉄。


 


人の声は、ほとんどない。


 


それでも。


 


ここは会社だ。


 


上下関係があって。


教育があって。


評価がある。


 


そういう場所だ。


 


ハトがパンをついばむ。


 


カラスが首を傾ける。


 


人形は、ただ見ている。


 


俺も、見ている。


 


それだけで、回っている。


 


回っているはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ