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いつも通りの朝  作者: えみり


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12/22

出社

朝。


ネクタイを締める。


少し曲がっているが、結び直す。


鏡の中の自分は、いつも通り会社員だ。


 


廃墟ビルに入る。


鉄の扉が重く鳴る。


中は冷たい。


 


「おはよう」


声をかける。


 


天井の梁のあたりで、小さな影が揺れる。


落ち着きのない新人は、いつもそこにいる。


今日は姿がはっきりしない。


 


床を見る。


昨日渡したパンくずが散らばっている。


いくつかはなくなっている。


 


「来てはいたんだな」


 


返事の代わりに、ぱさ、と音がする。


高いところで何かが移動する気配。


 


上司は突然来る。


黒いコートのような影が、窓枠に止まることがある。


今日も外の縁に黒い影が見える。


じっとこちらを見下ろしている。


 


「おはようございます」


 


鋭い鳴き声のような音が、風に混じる。


叱責の合図だ。


 


新人の“席”の近くに、灰色の羽が落ちている。


細くて柔らかい。


 


拾い上げる。


 


「無理するなって言っただろ」


 


天井近くで、ばさばさと不安定な羽音。


すぐに止む。


 


階段の踊り場に、引きずったような細い跡。


足跡にも見えるし、何かを擦った跡にも見える。


 


「……怪我か?」


 


答えはない。


 


奥の壁際。


経理は今日も椅子に座っている。


白い顔。


丸い目。


いつも同じ表情。


 


だが、少し横に傾いている。


 


「ちゃんと座れよ」


 


そっと体を起こす。


軽い。


背中は冷たい。


 


埃がついている。


払ってやる。


 


彼女は何も言わない。


でも、責めない。


いつもそうだ。


 


「報告する」


椅子に腰かける。


 


天井で、黒い影が一度だけ大きく羽ばたく。


新人が慌てて飛び立つ音が重なる。


 


ぶつかる音。


 


何かが落ちる。


 


思わず立ち上がる。


 


「落ち着け!」


 


声がビルに反響する。


 


階段を上がる。


 


踊り場。


灰色の羽が数枚。


 


窓が半分開いている。


外の光が差し込む。


 


縁に黒い影が止まる。


こちらを見ている。


 


「追い込むなよ」


小さく言う。


 


黒い影は、低く鳴くような声を残して飛び立つ。


 


静かになる。


 


遠くで、新人の弱い羽音。


飛び方が不安定だ。


 


「飛べるだろ」


 


自分に言い聞かせるように。


 


下の階に戻る。


経理は微笑んでいる。


何も変わらない顔。


 


「問題ない」


 


風が吹き抜ける。


紙切れが転がる。


羽が揺れる。


 


人の声は、ほとんどない。


 


でも会社は、ちゃんと動いている。


 


俺がいるから。


 


……いる、はずだ。

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