死にたい彼女 と 死なせない彼 。
「なにやってんの?」
「首吊り」
私がそういらえると、彼はあからさまに顔をしかめて「馬鹿じゃねぇの」と言った。真冬も真冬の白昼堂々。
ロープを括ってついでに首も括る。わん、つー、椅子から飛び降りる。
――前に、
「……なんで邪魔するの」
「それが俺の仕事なもんで」
頬を膨らませてみせると、彼はそれを鼻で笑う。
私はさらに頬を膨らませる。
「もういいよ、ちーくんがおらんところで睡眠薬飲みます」
「薬瓶ぜんぶ没収な」
むむむ、と眉を寄せる。
「…………なんで笑う?」
「顔があまりに滑稽なんでね」
「む」
この人きらい。
※
「なにやってんの」
「おくすりまぜまぜ」
「没収」
ああー、とビーカーを手で追うと、彼はその手を払いのける。
「というか、薬瓶ぜんぶ没収したのに。なぜ持ってる?」
「みーちゃんに借りました」
「あいつ……」
みーちゃんいい子だよ、と言うと、それは知っているけど、と返ってくる。
彼は冷淡なフリして優しい。
「………で」
「はい」
「なんの薬、これ」
「風邪薬と仮病薬(みーちゃん作)」
「なにやってんだよ」
みーちゃんはマッドサイエンティストだからね。
仮病薬を借りるとき。
「毒をいろいろ混ぜてみたやつだから死ぬかも」「ばんばんざい」
彼がゴミを見る目で私を見た。
※
「今度はなにやってんの」
「練炭自殺」
やりかた、わかんないけど。
とりあえず練炭を用意しました。
「燃やせばいいかんじ?」
「燃やすな」
「……水に沈める?」
「なにがしたいんだよ」
はぁああ、と一生分にもなりそうなため息。たいへんだね、ちーくん。
へなへなと座り込む彼の頭をとりあえず撫でて、練炭を手に取る。
「……なにする気?」
「え? これを厄災守りとして崖に持ってく」
「飛び降りるな馬鹿」
ふんっ、と。
厄災守りがはるか彼方まで飛んでいった。
※
「なにやってる?」
「空気を注射すれば死ぬことができると聞いたので」
取り上げられた。
※
「……いちおう訊くけど。なにやってんの」
「包丁でおなかを、ぶすりと」
「苦しいらしいぞ」
「じゃあやめます」
※
※
「ちーくんさぁ」
珍しく今日はまだ自殺をしていない。
――どういうフレーズ、これ。
とまぁ。
彼の手料理をもぐもぐしながら、彼に問いかける。
「自殺止めるの面倒くさくないの?」
「……そりゃあ、まぁ、面倒くさいけど……、死なれたほうが面倒」
「おとーさん私のこと溺愛してるもんね」
「わかってるなら未遂をするな」
やだ。と私がいらえると、これまた面倒くさそうな表情。
カシャ、と写真を撮る。
「なに」
「みーちゃんに送ります」
「やめて」
みーちゃん宛てのメッセージアプリを起動する前に、携帯電話の電源を切られた。
「あーあ、苦しまずに死ねる、優しい自殺法があればなぁ」
「死ぬ方法な時点で『優しい』ではないと思うけど」
「……死は救済だよ?」
「どこぞの宗教みたいな文言やめろ」
たちばな教を信仰ください。なんて言ったらほっぺを伸ばされた。地味に痛い。
「今日はどんな死に方しようかなぁ」
「死ねたことないだろ」
「……実は死ぬたび生き返ってる」
「イエス・キリストか」
キリストいいねぇ、と言ったら、またほっぺた伸ばされた。
ちーくんは私のほっぺを触るのが好きらしい。
「なんでこうも死のうとするかね」
「生きる意味考えるよりも馬鹿なことしてるよ、ちーくん」
「……、……」
「人間いつか死ぬんだからさ、いつ死んでも変わんないでしょ」
「……そんなもんか?」
「おうおう、そうだよ」
ちょっと流されそうになっているちーくんが可愛いので、しばらくそのまま。
と思ったら我に返ったらしく、頭を軽く小突かれた。
「馬鹿言うな」
「……よし決めた。今日はみーちゃんに、ちくわを食べたら死ぬ薬作ってもらお」
「待て、人の話聞いてるか?」
「聞いてますん」
彼が眉を寄せた。
「……蜜柑に、たちばなに薬貸さないよう頼むぞ」
「みーちゃん私のこと大好きだから、たぶんお願いしたら聞いてくれる」
「やめろ」
るんるんで駆け出すと、首根っこ掴まれて、そのまま椅子におすわりさせられた。私は犬じゃない。
「止めれるもんなら止めてみせよ! ちーくん。私は近いうちに死ぬ」
死にたい私に、彼はちょっと不満そうに顔をしかめる。
「死なせないよ」
「やだ! 死ぬ!」
「ティッシュ食うな!」
私たちの戦いは、まだもう少し続きそうです。




