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死にたい彼女 と 死なせない彼 。

作者: 茅野うつぎ
掲載日:2026/01/11

「なにやってんの?」

「首吊り」


 私がそういらえると、彼はあからさまに顔をしかめて「馬鹿じゃねぇの」と言った。真冬も真冬の白昼堂々。

 ロープを括ってついでに首も括る。わん、つー、椅子から飛び降りる。

 ――前に、


「……なんで邪魔するの」

「それが俺の仕事なもんで」


 頬を膨らませてみせると、彼はそれを鼻で笑う。

 私はさらに頬を膨らませる。


「もういいよ、ちーくんがおらんところで睡眠薬飲みます」

「薬瓶ぜんぶ没収な」


 むむむ、と眉を寄せる。


「…………なんで笑う?」

「顔があまりに滑稽なんでね」

「む」


 この人きらい。



「なにやってんの」

「おくすりまぜまぜ」

「没収」


 ああー、とビーカーを手で追うと、彼はその手を払いのける。


「というか、薬瓶ぜんぶ没収したのに。なぜ持ってる?」

「みーちゃんに借りました」

「あいつ……」


 みーちゃんいい子だよ、と言うと、それは知っているけど、と返ってくる。

 彼は冷淡なフリして優しい。


「………で」

「はい」

「なんの薬、これ」

「風邪薬と仮病薬(みーちゃん作)」

「なにやってんだよ」


 みーちゃんはマッドサイエンティストだからね。

 仮病薬を借りるとき。


「毒をいろいろ混ぜてみたやつだから死ぬかも」「ばんばんざい」


 彼がゴミを見る目で私を見た。



「今度はなにやってんの」

「練炭自殺」


 やりかた、わかんないけど。

 とりあえず練炭を用意しました。


「燃やせばいいかんじ?」

「燃やすな」

「……水に沈める?」

「なにがしたいんだよ」


 はぁああ、と一生分にもなりそうなため息。たいへんだね、ちーくん。

 へなへなと座り込む彼の頭をとりあえず撫でて、練炭を手に取る。


「……なにする気?」

「え? これを厄災守りとして崖に持ってく」

「飛び降りるな馬鹿」


 ふんっ、と。

 厄災守りがはるか彼方まで飛んでいった。



「なにやってる?」

「空気を注射すれば死ぬことができると聞いたので」


 取り上げられた。



「……いちおう訊くけど。なにやってんの」

「包丁でおなかを、ぶすりと」

「苦しいらしいぞ」

「じゃあやめます」




「ちーくんさぁ」


 珍しく今日はまだ自殺をしていない。

 ――どういうフレーズ、これ。


 とまぁ。

 彼の手料理をもぐもぐしながら、彼に問いかける。


「自殺止めるの面倒くさくないの?」

「……そりゃあ、まぁ、面倒くさいけど……、死なれたほうが面倒」

「おとーさん私のこと溺愛してるもんね」

「わかってるなら未遂をするな」


 やだ。と私がいらえると、これまた面倒くさそうな表情。

 カシャ、と写真を撮る。


「なに」

「みーちゃんに送ります」

「やめて」


 みーちゃん宛てのメッセージアプリを起動する前に、携帯電話の電源を切られた。


「あーあ、苦しまずに死ねる、優しい自殺法があればなぁ」

「死ぬ方法な時点で『優しい』ではないと思うけど」

「……死は救済だよ?」

「どこぞの宗教みたいな文言やめろ」


 たちばな教を信仰ください。なんて言ったらほっぺを伸ばされた。地味に痛い。


「今日はどんな死に方しようかなぁ」

「死ねたことないだろ」

「……実は死ぬたび生き返ってる」

「イエス・キリストか」


 キリストいいねぇ、と言ったら、またほっぺた伸ばされた。

 ちーくんは私のほっぺを触るのが好きらしい。


「なんでこうも死のうとするかね」

「生きる意味考えるよりも馬鹿なことしてるよ、ちーくん」

「……、……」

「人間いつか死ぬんだからさ、いつ死んでも変わんないでしょ」

「……そんなもんか?」

「おうおう、そうだよ」


 ちょっと流されそうになっているちーくんが可愛いので、しばらくそのまま。

 と思ったら我に返ったらしく、頭を軽く小突かれた。


「馬鹿言うな」

「……よし決めた。今日はみーちゃんに、ちくわを食べたら死ぬ薬作ってもらお」

「待て、人の話聞いてるか?」

「聞いてますん」


 彼が眉を寄せた。


「……蜜柑に、たちばなに薬貸さないよう頼むぞ」

「みーちゃん私のこと大好きだから、たぶんお願いしたら聞いてくれる」

「やめろ」


 るんるんで駆け出すと、首根っこ掴まれて、そのまま椅子におすわりさせられた。私は犬じゃない。


「止めれるもんなら止めてみせよ! ちーくん。私は近いうちに死ぬ」


 死にたい私に、彼はちょっと不満そうに顔をしかめる。


「死なせないよ」

「やだ! 死ぬ!」

「ティッシュ食うな!」


 私たちの戦いは、まだもう少し続きそうです。

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