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流行

作者: 明家叶依

 記者のインタビューを受けた一人のアーティストの発言が、サングラスをかけた写真と共に雑誌に掲載されると、世間の反響が大きかった。


 世間的に認知はされつつも、あまりテレビでは見かけないような人。


 それでも、たまに音楽番組に出演すると反響が大きかった。その人と記者との交差していく一文の中に「趣味は散歩しながら本を読むことです」という異様な一行があった。


 私はその雑誌が発売されて二週間ほど経ってから、本屋でその記事立ち読みしていたのだが、ここ数日、異様に歩き読書をしている人がいるのはそのせいなのかと理解した。


 SNSでも話題になっている。『真似をしてみた』などと、読んでいる本と風景をバックに自撮りをする女子大生の写真は様になっている。


 けれど、いい評判ばかりではなかった。


『道を歩いていて前を見ていないからぶつかってくる。その上、ちゃんと謝らない。その後も別の人にぶつかっていた』とか『なんか……一般人が変に真似するのって寒いわ』とか、いろんな書き込みがある。


 私自身、こちら側の、迷惑を被っている人間の方で、真似をしようなんて思わないけれど、さすがに『歩きタバコの方がましだったわ』というコメントには笑ってしまった。


 本棚に雑誌を戻して、店の外に出ると、改めて異様な光景が私の目に映った。


 ここまで、一人のアーティストが反響を呼ぶことができるという事実に驚きが隠せなかった。


 所詮一人の人間くらいに思っていた。


 しかし、往来する人々が、皆本を持って歩いている。若者の読書離れが解消されたことに関してはとても功労者だが、交通規制においては、迷惑甚だしい事である。


「お、田中じゃん」


「美香、お前もやってんのか?」


「うん。なんか知らんけど、ネットで話題になっててさ、皆やってるし、いいんじゃね? ほら、周り見てみなよ、逆にアンタ浮いてるよ?」


「いや、前見て歩かないとあぶないだろ」


「なに? 説教? 前見てるし。第一本なんて読んでない。読んでるふりしてるんだよ。流行りに乗り遅れたくないじゃん。読んでるふりして、隙間から前見てる。あ、バイト行かんと行けないから急ぐわ」


 私は彼女のなんとも猫背で、本を真剣に読んでいます、みたいに早足で歩くみっともない後ろ姿を見送っていると、スマホに通知が届く。


 開くと、ネットニュースの動画で、この、今世間を騒がせている歩きながらの読書をやめるようにと、アナウンサーが話している。まあ、こんな声かけ一つで、納まるほど流行というのは甘くはない。過ぎ去るのを待つのが得策だと思った。


 流行とは気まぐれなもので、それから二週間足らずの間に終息した。


 私は昨夜、高校のテスト勉強をしている途中で眠ってしまっていて、朝、教科書を読みながら歩いていると、隣に並んだ美香が「アンタ、まだそんな事やってんの? 皆とっくにやめてるし」と嘲笑した。


 私はため息を深く吐いて立ち止まった。一度流行になった後に、その行動をすると、その流行に遅れた者のように思われる。


 面倒くさい世の中だ。


 勉強くらいさせろ。

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