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1話 魔女、想い人の子供と出会う

「ローレル……」

「また会えます。いつでも会いに来てください」

「えぇ。もちろん」

 覚えている。綺麗な金色の髪。彼女の体温。香り。涙を溜めた瞳は綺麗で……。

 私との別れを惜しんでくれる事が嬉しかった。

 けれど……結局、怖くて。戦いが終わり日常に戻れば、私の周りにいる連中と同じようになるのではないか。

 所詮女同士だとか。大人になればなかった事になるのではないか……。好きって伝えたつもりだけど、果たして本当の意味で伝わったのか……。

 ちゃんと確認するのも怖くて……。

 そうして色々な理由を自分で見つけて"あっち"の世界に行く事はなかった。

(『起きてください』)

 耳元……ではなく頭の中で声がする。やたらと可愛い声なのに、感情を全く感じられない不思議な感じ。

 というよりこの声は普通の人には聞こえていない。まぁ、聞こえる様には出来るが普段は私にだけ聞こえる声。

 もう聞きなれた声は無視。

 特別用事があるような身分でもない。好きなだけ寝かせて欲しい。

 それに今日はあの子の夢を見てしまった。猶更意識を失い嫌な気分を忘れ去りたい。

 乱れた毛布をもう一度かけ直した。

『そうですか。なるほど』

 感情が乗った声じゃないのに――長年の付き合い分かる……怒り。

『――――――』

「ぬぁぁぁああ!?」

 思わず飛び起きるた。音にならない音。つまりただの振動。

 それが頭の中で響き、凄まじい頭痛となる。これも私と声の主である彼女が繋がっているが故。

 私の魔法少女としての"杖"。名前はブルーバード。

「何すんのよ!!」

 乱暴に髪をかき上げ、飛び起きた。魔法防壁は常に張ってある状態だけど、私の杖であるブルーバードなら障壁を無視して魔法を発動ぐらい出来るだろう。

「はぁ」

 上半身だけ起こした時、頭痛はさっきまでの痛みが嘘の様に消えていた。危害を加える目的じゃないのは分かってるけど……。

 手段が悪辣だ。

『いくら何でも寝すぎです。一体何度このやり取りをすれば気が済むのです?』

 大きくあくびをして体に掛かっていた毛布を適当に蹴り飛ばす。

「私もね! 言ってるでしょ! 別に仕事ある訳でもない。好きに寝かせてよ!」

『そうですね。巻き上げた金で高級マンションに住み、生活にも困らない。えぇ、えぇ。酷い生活です。ならばせめ規則正しい生活をしてください。……すでにお昼です。いい加減にしてください』

 大きくため息をついてベットから起き上がる。

 昨日は一人孤独にテロリストと戦った正義の味方に言うセリフか。もう少し労ってもいいでしょうに。

「はぁ……」

 言い合いをして眠気は飛んでしまった。 寝すぎると頭が痛くなるので、ここらで起きておくのが正解かもしれない。

 幸い昨日の連中のお蔭でしばらくは金には困らない。

 リビングに行き、冷蔵庫を開けてペットボトルのお茶を取り出し飲み干した。

『服着てください』

「うちより高いところないし、大丈夫でしょ」

 でもまた寝るならいいけど、裸でうろうろするのは家の中とはいえ変態ちっくかね。

 抜き散らかしたシャツから適当な物を取って羽織った。

『あと涙を拭いてください』

「! んん」

 指摘されて初めて気が付いた。慌てて袖で拭う。

『またローレル様の夢ですか』

 キッチンカウンターの外側、バー風に並べてある椅子に腰かけて黙る。

 ブルーバードは私と契約した魔法道具で、魔力を介して繋がっているらしい。らしいというのは魔法の杖に関して、私には分からない事が多いからだ。魔法自体は欠かすことなく鍛錬しているけど……。

 それにしても私の内面が筒抜けなのはどうにかならないのか……。

『あの方は王女と言う立場です。一時、心が通じ合ったからと言って大人になれば別れざる得なかったでしょう。……トワ。貴女もそれが分かっていたから会いに行けなかったのでしょう?』

 長年の唯一の友の言葉は的確過ぎて黙るしかない。

『さっさと忘れて結婚相手でも探したらどうです? 女性は30代ぐらいまでが子供を産める適齢です。もちろん現代に置いては子供を望む年齢に昔の様な価値観はナンセンスです。しかし生物上どうしても様々な危険が伴ってくる事も真実です』

 また無駄な知識をネットから吸ったな……。

「私が男嫌いなの知ってるでしょ」

『もちろん知ってます。しかし最近は伯母様からも時折そのような話があるではありせんか』

「結婚ねぇ……まだ23で考える事かナ……」

 カウンターに適当に放置されていたポテチを口に入れる。うぅ……湿気てる……。

『家庭を持ち、戦いを忘れるべきでは?』

「…………」

 またこの話だ。中学、高校の事を言っているのは分かる。

 小学校高学年で経験した命がけの戦いは日常をチープにしてしまった。

 クラスメイト達の中身のない会話とあまりに楽観的過ぎる日々に嫌気がさしてしまったのだ。

 小腹が空いて冷蔵庫を開けるけど、何もない。

 そもそも自炊は滅多にしないので食材は入ってないんだった。

「一人で十分。それに中学も高校も成績優秀で卒業したんだから文句言われる筋合いはないョ」

『学校とはただ好成績を収めればいいと言う訳ではありません。人間関係構築も重要なファクターでしょう』

 ジーンズとパーカーを着て、玄関に移動する。

 どうしてこんなに説教くさくなったかね。

 出会った頃はこんなでもなかった気がするけど……。

 心配してくれてるのは分かるから強く怒るのもただの癇癪の気がする。

「今更でしょ。ホント。十分一人で生きていけるし、大学も成績だけ見れば上位だし」

『はぁ……』

 息なんてしてないクセにわざわざため息を吐くとは。

 似たいようなやり取りを何度したか分からないのでこれ以上は相手にせず、適当なサンダルを引っかけて外に出た。



「そろそろ寒くなるな。少しコンビニ遠いのが不便なのよねぇ」

(『貴女が、人の少ない所がいいといって探し回ったのでは?』)

 ブルーバードと喋っていると独り言をぶつぶつ言っている人になるので、脳内での会話に切り替える。

(今度はコンビニが一番下の階に入ってるマンションにする。その上で静かな場所)

 私の言葉に呆れたのか、返事はない。

 別に無言になられたからと言って不安になるような関係でもない。静かになって丁度いい。

 最寄りのコンビニに到着。全くやる気のない店員の「いらっしゃいませー」を聞きながら、かごに食べ物を放り込んでいく。適当なお菓子。飲み物。

「ぐぅ。100番くじ新しいの出たのか。全部引こうかな」

 しかし毎回安易に全部引いて置き場所に困る。後々考えて特別欲しかったかな、となる事も多い。

 ここは我慢してロボの食玩にしておこう。

「袋つけますかぁー?」

「あ、はい」

 大きな袋2つになった買い物を見つつスマホの電子決済で支払う。

「ありゃょうございやしたー」

 凄い適当だな。まぁ、コンビニのバイトなんてそんなもんか。

「収納にぶち込みたい……」

 収納魔法の事。自分の魔力で構成した空間に物を入れて置ける便利魔法だ。

 魔法は奇跡を操る、と師匠が言っていたっけ。魔力というエネルギーで事象を操作する。だから基本的にどんな事でも出来る、と。

(『周囲に人の反応があるのでやめてください』)

「わかってるって」

 よくアニメなど、人前で魔法を使ってはいけないなんて制約を見るけどそんな縛りは特にない。

 今ここで大規模な魔法を使って破壊活動しようが咎める人はいない……まぁ、警察とかそんなのと戦いになるとは思う。

 人前で魔法は使えるけど面倒な事なるので使わない、が正解かもしれない。

 収納空間に荷物を入れる事をあきらめ、両手に荷物を抱えて歩き始めた。

「ッ!?」

 帰ってゲームでもするか、といつもと変わらない事を考えている時だった。

 その感覚は久々に感じるモノ。

 魔力の流れだ。

(『魔力を感知。これは……!』)

 ブルーバードも同時に呟く。

 私達の居るこの世界をロゥ界と呼ぶ世界がある。私から見て異世界。魔法使いが存在するオーバー界と呼ばれる世界。

 そのオーバー界で魔法術式を学ばなければ魔法は使えない筈……。

 現在ロゥ界で魔法を使えるのは私だけ……。魔力を持っている人は存在するが、不活性状態であり直ぐに分かる。

 今感じるのは活性した魔力。ちゃんと魔法を使える魔法使いだろう。

 思わず走り始めていた。

 感じられる魔力を忘れる筈がない。

「ローレル!」

 魔力を追い、どんどん路地の奥へ走っていく。

 そして――ビルの角を曲がり、魔力の元へ辿り着いた。

「?」

「!」

 勢いよく走り込んできた私に驚いたのか、金色の髪の女の子が振り向く。

「あ……」

 そこにいたのは……かつて共に戦ったパートナーのローレルではなかった。

 年齢は合ってる。いや、合ってない。

 彼女と私は同じ歳。別の世界に住んでいるからって時間の流れが違う訳じゃない。幾ら幼く見えたとしてもあの頃のままなのはおかしい。

 だからこの子はローレルとよく似た金髪の女の子だ。落ち着いて見ればローレルみたいな緩やかなウェーブでもない。

 私がどうするべきかと固まっていると目の前の子も私をジッと見ていた。

(『この魔力……。ローレル様の? いえ……しかし……。トワの……』)

 ブルーバードは訳の分からない事を言ってるし……。

 恐らくこの子はオーバー界から来たのは間違いない。

「おねぇさん……トワさん?」

「! 私を知ってるの?」

 少女は懐から写真を取り出し、私に差し出す。その写真は随分くたびれていたけど、私も見慣れた物だった。

 収納魔法から私も写真を取り出す。その写真も随分くたくたでよれよれでごわごわしている。

 二人の少女が仲良く映った写真。

 どちらの写真もそれぞれ違う時間を生きてきたのだろう。映る一人は私。その私に後ろから抱き着く様に笑顔を見せる女の子がローレル。

 その写真を見て思わず顔が緩む。この頃はいつも一緒に行動していたっけ。……マズイ、目の前に女の子が居たのを忘れていた。

「んん! なんで貴女がこれを?」

「おねぇさんにお願いがあって。その為に必要だと思ってママの物を借りてきたんです」

 ――――――……。

 女の子が何か言っている事が理解できなかった。

 ん?

 ママ? この写真はローレルの持ち物。私に子供は居ない。つまり残った方の子。この子はローレルの……?

 は? 少し整理しよう。

 子供はある日ポンッと出てくる訳じゃない。

 相手が必要だ。

 ローレルの相手……。

 その誰かを想像してしまわない様に私は意識を強制的にシャットアウトする。

『トワ!? 貴女は!!!』

 フ、許して。こんなの意識を保てる訳ない! 夢だ。そうに違いない!!




「ん……」

 ゆっくりとソファから体を起こす。

 うん。

 酷い夢だった。

「はぁ」

 がしがしと頭を乱暴に掻いて不快な夢を思い出さない様にする。

「何時?」

『13時40分』

 叩き起こされてからそんなに経っていないらしい。

「あ、おねえさん。起きた?」

「――――」

『また気絶は許しませんよ。私が貴女の体を動かして家まで戻ってきたんですからね。ちゃんと現実を向き合ってください』

 ブルーバードは……というより魔法使いの杖には持ち主の体を動かす事が出来る。本来は意識がない時に、体を守る為……だが体を勝手に動かされる事を嫌って許可してない魔法使いも多いらしい。私は酔いつぶれた時に便利なのでいつもお世話になってる。

 そっと視線をリビングに移す。幼女はいつの間にか出されたコップを持ってテーブルの椅子に座っていた。たぶん、ブルーバードが私の体を使って出したのだろう。

 ……余計な事を。家に入れないで警察にでも任せればよかったのに……。

『十中八九、彼女はオーバー界から来た人間です。この世界で魔法使いは貴女一人。ならば我々に用があるのは明らかです。というより普通に貴女の事を知っていたのですから、事情を聴くべきです』

 ぐぅ……。

 どこかの紫のロボットの指令みたいに組んだ指に額を当てる。

 指の隙間から女の子を盗み見た……。

 似てる。

 昔のローレルに……。

 そっかぁ……。と、しみじみ。

 私は今現在のあの子の姿を知らない。

 きっと誰もが振り返る美人になっている事だろう。

 そしてそんな美人を放っておく訳がない。

 ましてはお姫様。

 イケメン王子と幸せな結婚生活をぉぉぉおおお!

 脳内で100回はその野郎を切り刻んでやったぜ!

『そしてローレル様に嫌われましたね。いえ、旦那を殺したのです。仇として杖を向けられているかも……』

 ゴメンぇぇぇん!

 許して!!

「はぁはぁはぁ……」

 イケない、近頃ブルーバードとしかやり取りしてない所為か一人で身悶えしたりして完全な不審者だ。

 いい加減、現実逃避をやめて目の前の幼女から事情を聴かねば。

「えぇぇと……。そのぉ……」

 人と喋るのってどうだったっけ……。

 女の子は小学生高学年くらいだろうか?

 私が魔法少女を始めた時期と同じくらい。

 知らない人と喋る機会なんてないからねぇ!

 一番交流のある人物はテロリストとかチンピラとかなんだよナ。それも一方的に喋って相手の話聞かないし。ってかその後相手は一生喋る事が出来なくなるし……。

「そうね。君、名前は? 私の事は知ってるみたいだけど、一応……十月翔和」

「わたしの名前はクローディアです。クローディア・シャル・ゼプリス。トワおねぇさんの事はママが話してくれました。大切な人だって」

 大切な人……。

 泣きそうだわ……。

「お願いがあるとか?」

 私の言葉に表情を曇らせるクローディア。

「ママの結婚を止めて欲しいんです!」

 結婚!

 衝撃がががが。

 くそぉ、今すぐ気絶したい。

『許しません』

 くそぉ……。優しくして。

「まずは、ちゃんと事情を説明してくれるカナ」

 頷くクローディア。

 真剣な表情は確かにローレルと重なる。かも?

「わたし……たぶんシェイド様の子だと思うんです」

 いきなりだね!

「…………」

『シェイド。前回のこちらの世界、ロゥ界の大戦の折にバックアップをしてくれた方ですね。中々の魔法使いであり、ゼプリス王家の信頼厚い貴族の子息だった筈』

 思い出した。いたねぇ、そんな奴。

 すっかり忘れてた。

 あの野郎か!

「それが?」

「おねぇさん、泣いてますけど大丈夫ですか?」

「大丈夫。お話続けて?」

 促すと私の顔を若干気にしながらもポツリポツリと話を再開した。

「ママにパパの事を聞いても亡くなった、と言うんです。けどわたしはママの態度とか、シェイド様とお話している中でシェイド様がパパなのかなって感じて。色々事情があるんだろうと詳しくは聞いてませんが……。だけどシェイド様も近くに居てくれるから、わたしは満足だったんです。でも……近頃バールデェイ帝国との関係が悪くなって……戦争にならない様にママが帝国の人と結婚する事になってしまって……。わたしの前ではいつも通りだったけど……人目のない場所では元気がなくて……。だから親友でママと同じくらい強いって聞いたトワさんにママの結婚を止めてもらおうってお願いしに来たんです!」

 聞きたくなかった……。

 うぅ、そういえばシェイドは顔が良かったと思う。

『男性の美醜など分かるのですか?』

 恋愛対象じゃなくても美醜ぐらい判断できるわい!

 何?

 今日は私を殺す日?

 悔い改める日なのか!?

『普段の生活を思い出しながら悔いは改めてください。しかし……随分複雑な事情の様ですね』

 腕を組んで唸る。確かに複雑のようだ。

 オーバー界は分かりやすくラノベぽい世界で王国制の国も多い。私自身は2,3回行った程度で詳しくはない。

 それに……言いたくないけど……。

「別の世界に居る私よりシェイドに頼んだ方がいいんじゃないかしら? 彼はなんと?」

 正直、私は今でもローレルを忘れられない。

 けどローレルはすでにシェイドを選び、事情があって公にしてはないみたいだが子供もいて……オーバー界で自分の生き方をしている。

 クローディアの話から今でも親友とは思ってくれているみたいだが、今更私が出て行って引っ掻き回すのもどうだろうか?

「そもそも何で別の国へ嫁に?」

「大国のバールデェイ帝国の第二皇子がママを気に入ったからって、強引に話を進めているみたいです……。ママも帝国に攻められない様に了承したようで」

「国の為に、って事かぁ」

 ジェイドは何やってんだ!

 子供まで作って置いて自分の奥さん差し出すとかクソだわ!

『国が無くなるというのはトワが思っている以上に重要で、重いのだと思いますよ。更に武力で勝ち目がない場合などでは猶更突っぱねるのは難しいでしょう』

 確かに私に国の事とか分かんないけどさぁ……。

『それより…………貴様! いつまで黙っているんです! いい加減、貴女から事情を説明したらどうですか! フェア!』

「え! フェア!?」

『相変わらずキンキンうるさいね……。ポンコツ』

『なんですって!?』

 聞こえて来たのはブルーバードと同じ様に無機質な声。けどブルーバードより低い声は随分久しぶりに感じる。

『久しぶり、トワ』

 クローディアが自身の胸元に手を入れて取り出したのはブルーバードと同じくシンプルなひし形の宝石が嵌る碧のペンダントだった。

「ちょっと、契約者を変えたの!?」

 子供の前だと言うのも忘れて言葉に怒りが混じる。

 だって……。この"杖"の契約者は……ローレルなのだから。

 "杖"は一人としか契約しない。契約者が変わる時は、契約者自身が契約を破棄するか、死んだ時だけなのだ。

『違うよ。未だに我の契約者はローレルだ。まぁ、この子にある程度の補助はしているけど』

 フェアの言葉を聞いて少し安堵する。私たちの"杖"はそれぞれこのロゥ世界で作った思い出の品で……。その思い出をあっさり手放されていれば立ち直れなかったかも……。

『大体クローディアの説明通りかな……我が口を挟む意味を見出せなかった』

 そういえばコイツは無口だった。

「そもそも……なんで抵抗もせず従う感じなの? ローレルなら一人でも十分戦える筈でしょ」

 ローレルはふんわりな雰囲気だけど、強い。幾ら国と言う力に脅されても抵抗出来る筈だ。

 昔誰に言われたか忘れたけど、私やローレルの魔法使いとしてのランクは最上位で、それは一人で国すら滅ぼす事の出来る強さだと言っていた。

 ん? と首を捻る。

 もしかして……子供だからって適当言われた? だとしたらそんな与太話信じてた私ってアホか?

 けど口から出た言葉は消えない。笑われるかもしれんと冷や汗が頬を伝う。

『もちろん戦えるよ。ローレルやトワなら一人で国を相手にしても負けない。それだけの魔力量と強さがある。けどその強さでも全員を守る事は出来ないんだ』

 認識が間違ってなくて安堵している私の前で、フェアの話を聞いていたクローディアが肩を落とす。

「国の人達を傷つけたくないってママが言ってました」

 額に手を当てて天井を仰ぎ見る。余計な物を守るから動きが取れなくなるのよ……。

 でも会っていなくても変わってないローレルに嬉しくなる。

(変わってないのね……)

「事情は分かった。少し時間をくれない?」

 クローディアは何か言いかけたけど、小さく頷き何も言わなかった。

 母親に似て空気が読める子だわ。母親を助けたいだろーに。

 

 フェアにクローディアは任せて私は自室に引っ込む。

『で? どうするのです?』

 ベットに体を投げ出して天井を見上げる。

「向こうに行ってもさぁ、やっぱり辛いよね……」

 ローレルの望まない結婚を阻止して、今度は本当に好きな男と添い遂げる為の手助けをしてやることになるのか。

『ちゃんといえ――「それやめて」』

 スンって感じで黙るブルーバード。たっく……。くだらない事ばっかりネットで拾ってくるんだから……。

『答えは出ているのでしょう? 貴女の杖たる私には分かります。例え自身の恋心が報われないとしても、友としてローレル様を見捨てる貴女ではありませんから』

 「はぁ」

 流石長年の相棒だ。私より私の事を知っているらしい。

 少しだけ目を閉じる。

(私はあの子が好きで……。幸せになって貰いたいと思ってる。それが私自身と一緒に生きる事でなくても)

 それに一人はもう慣れたしね。幸いにもしゃべる相手には困らない。

 一度ため息を吐き……勢いを付けてベットから体を起こして、そのままリビングに入った。

「よし。行くわよ、オーバー界」

 私の言葉で目に見えて表情が明るくなるクローディア。

「! ありがとう、おねぇさん!」

 腰に抱き着いてくるクローディアを受け止めて、頭を撫でる。

 指に絡む金色は懐かしさを覚えると同時に新鮮さを感じた。

 うん、子供が出来たなら親友に報告ぐらいしろとドついてやろう。

 覚悟は決まった。

 ………………。

 と意気込んでみたはいいものの……。

「オーバー界のアンカー自体はあるけど……」

 アンカー……転移魔法の目標地点となる。そのアンカーが打たれた場所に転移できるのだけれど……。

 使ってないアンカーは魔力切れで消えてしまう。そもそも場所を忘れていたりもする。

 一応、オーバー界のアンカーは消える前に魔力を注いではいた。

『今は特定の場所ではなくオーバー界そのものになってますね……』

「……どこに出るんだろうナ……」

 細かい地点指標はなくなり、世界そのものにアンカーが付いている。

 オーバー界に行く事は出来るけど、どこに出るのかは分からないという事だ。

 つまり、石の中とかに出る可能性が出てくる。コワイ!

「あ。クローディアのアンカーは?」

 クローディアのアンカーを利用すればリスクを取る必要がないはずだ。うん。いいアイデアだ。とクローディアを見下ろすと困った様に眦を下げた。

「その……ゴメンなさい。わたしはママの魔力が残ったフェアの力で転移を使ったんです……。魔力切れに伴い設定されていたアンカーは消失してしまったみたいで」

『元々ブルーバードにアンカー設定していた』

 あぁ、それで。

 ローレルと一緒に行動していた頃とは違う場所に住んでいるのに、なぜ私の近くに転移できたのか不思議だったがブルーバード自体にアンカーを打っていたらしい。

 私もフェアに設定しておけばよかった。いや、結局ここあるので無意味か……。

「……なら博打か。変な所に出ないとイイナー」

 遠い目をしてしまう。昔転移が下手だった頃、制御を間違えて海底に出てしまい慌てて魔力防壁を張った覚えがある。あれは死ぬかと思った。

 現在は転移も磨き上げている。

『限定商品を買うために遠方へ行ったり、熱いからって北国に行ったりですね』

 うるさい。どんな使い方をしようとも練度上げになってるんだからいいの。

「と、いう事で安全は保障できません」

 そういうとクローディアがクスクスと笑う。

「大丈夫です! おねぇさんなら大丈夫な気がします!」

 おぉ……謎の信頼感。

「よし。じゃあ行こうかしら」

 クローディアが頷いて私の手を握った。

「はい!」

 私の彼女の小さく細い手を握る。

 こう懐かれるとかわいくなるね……本来ガキは嫌いなんだけど。

 別世界への転移は難しい。

 久しぶりに本気の魔法を使う為、意識を集中する。

「魔法の補助はお願い」

『了解』

 ブルーバードの補助もあって魔法を構築していく。

「わぁ……」

 私の部屋の中に巨大な魔法陣が浮かび上がり、淡く光り輝く。その光景にクローディアが感嘆した声を上げる。

 頭の中で作った容器に魔力というエネルギーを注ぎ込む。

『術式完成』

「転移魔法、発動!」

 フッ、と体が浮く感覚。

 その後には……。

「………………」

 猛烈な勢いで落ちていた。

 周りは突き抜けるような青。

 青い空。風切り音。

 つまり……落ちているのだ。

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 転移の際に離れたのか、クローディアがワタワタと手をバタつかせながら慌てている。

「世話の焼ける……」

 空に放り出されたぐらいで大げさな。

 私は地中とかじゃなくて安堵していたのに。

『失礼、急いでください。すぐに地上に激突します』

 丁度無重力に近い感じの中、腕を組んでクローディアの方を眺める。

「空を飛べばいいじゃない?」

『浮遊の魔法ですか? あれは重力の操作に関係する魔法なので使える人は少ないのです。見てないでクローディア様を助けてあげてください』

 顔を上に上げると地面が近かった。人間は頭が重いので落ちていると頭が下になるのだ。

 短距離転移でクローディアを抱っこ。そのまま転移で地上に降りた。

「!?」

 クローディアが固く閉じていた目を開けると今度は口をパクパクとさせ始めた。

「ご、ごめん。怖かった?」

「はい……。いえ、それよりもトワおねぇさんの魔法がデタラメ過ぎて驚いてます」

 そうかな?

 私の世界では比較対照がいないのでよくわからない。

 でも褒められるのは嬉しい。

「そう? フフ。流石私と言ったところカナ」

「誰だぁ?」

 と私が気分良くなってるところに突然出てくるおっさん。

 しかも一人じゃなくて大量に。

「盗賊!?」

 クローディアが体を固くしたのが腕から伝わってくる。

 確かに言われてみればスタンダードな盗賊スタイルだ。

「何か用?」

 こんなおっさん達に用はないんだけど……。

「へへへ、どっから来たんだぁ?」

「すげぇ上物だ」

 どうやら私達は盗賊の拠点に落ちて来たらしい。ゾロゾロと身なりのよろしくないおっさん達が集まってきた。

 それぞれに剣や槍を持っている。

「あー……私は用事が合ってこっちに来た訳。見逃してやるからとっと消えな?」

「おいおい、お嬢さん。状況が分かってないみたいだなぁ」

 ざっと20人くらいだろうか。

 大きくため息が出る。

 どこの世界でもこの手の連中がいるんだよね……。

 まぁ、オーバー界のお金がなかったから丁度いいか。

「いいところ見せる機会かもね」

 クローディアを地面に下ろして、後ろへ隠す。

「貴女がお母さんを助ける為に頼った女が役に立つのか。見てて」

 後ろにいるクローディアへウインク。

「さぁて、久しぶりに変身しますか!」

 ブルーバードを待機モードから杖モードへ。

 光の粒子が辺りを包んで……再び集まって大剣へと姿を変える。

 そして光の粒子は私の体にも集まってくる。

 戦い様の衣装、アサルトローブ。

 魔法少女の衣装と言えば分かりやすいか。

 光の粒子は弾け、アサルトローブを身にまとい、空中に浮いていたブルーバードの柄を手に取る。

「はじめましょう! 私の戦いを!」

 かつての様にポーズを決めたのだった。

 と同時に胸元が弾ける感覚。

「あん?」

『と、トワ――……』

 普段は無感情なブルーバードが戦慄したように呟く。

「お、おねぇさん……」

 それはクローディアも同じらしい。

 うん。

 視線を下へ向けるのが怖い……。

「おいおい、痴女か?」

「もしかして営業じゃねぇか?」

 げらげらと笑われる。

 そぉと下へ視線を落とした。

 胸元はぱっくりと空いてるし、スカートはパッツパッツ。

 全部が酷い。

 そういえば……アサルトローブを来たのは何年前かな?

「ッ!?」

 慌てて収納魔法へ突っ込んである適当な服へと変えた。

「しくじったぁぁぁ!」

 合う訳がない!

 だって小学生の頃の衣装じゃない!

 真剣な戦いは小学生以来である。

 つまりサイズもデザインも魔法少女の頃のままなのだ。

「ああぁもう! 恥かいたじゃない! 死ね!」

 こうして私はローレルの子の前で大恥かいてしまった。

 盗賊どもぉ。

 悪いけど、八つ当たりさせてもらうからね!

読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、評価やコメントいただければ嬉しいです。

タブですが、「こんなタブがあった方がいい」など意見があれば参考にさせていただきたいです。


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