序章 かつての魔法少女……今は……魔女
百合モノになります。
不定期更新の予定ですが、よろしくお願いします。
年数で言えば10年も経ってない。そんな昔。
その時期、確かに世界は人知れず滅亡の危機に瀕していた。
だが二人の少女が命を懸けて戦い……世界は守られる事になる。
一人はこの世界出身の少女。もう一人は異世界から来た少女。
戦いの中。戦いの間にある日常。二人は唯一無二の絆を育んだが戦いが終わると住む世界の違う二人に、やがて別れが訪れた。
いつかの再開を願い、涙ながらに抱き合う二人。
その約束は果たされるまま……現在。
「なんだコイツ! 誰なんだよ! イカれて――ぎゃあぁぁぁ!」
「撃て! 撃てぇ!」
「うぎゃぁぁぁ!? 俺の腕がぁぁぁ!」
窓が塞がれたある一室は世間と隣合わせの筈なのに説明できない地獄が広がっていた。
長い黒髪に切れ長の瞳。口元のホクロが年齢以上の色気を醸し出している。しかし意思の強そうな瞳も今は眠たそうに半分閉じられていた。
屈強な男の腕を切り飛ばした女は手に半透明な素材で刃が構成された大剣を肩に担ぐ。近くにいた別の男が銃を構えようとしたのを横目に見て……次の瞬間には男が縦に真っ二つになる。
その移動の速度は男達にとって瞬間移動としか認識できない程高速だった。
まるで魔法のようだと震えて錯乱気味に男が呟く。リーダーらしき男は必死に応戦しろと命令を下すが、既に組織としての統率はない。
その後もアサルトライフルを持った、荒事に慣れているであろう男達がなすすべなく切り刻まれていった。
一方的な殺戮を行った女は、血の匂い漂う場所に不釣り合いすぎる程ラフな格好をしている。無地のTシャツにジーンズ。足元はサンダルというラフ具合。
無地のTシャツは先ほどの殺戮にあって返り血の一つすらない。
「生きてる奴は?」
気だるそうに血だまりを眺める黒髪の女以外が倒れ伏した後、誰も居ない空間に向かって女が呟く。
『ナシ。全く嘆かわしい……』
生命の途絶えた空間に、しかし返す言葉があった。声は女の持つ剣から発せられており、嘆かわしいと言葉で言っていても無機質でどこまでも平坦だ。
「なんで?」
『かつて麗しの魔法少女が、今やテロリストやチンピラ相手の追い剥ぎとは……。魔法少女が大人になれば魔女になる。なるほど、納得してしまいます』
剣の鍔部分は大きな宝石の様な綺麗な石があり、その部分から声がしている。その声にうんざりした表情を浮かべた女は剣を空中に放り出す。剣は地面に倒れる事なくフワリと空中に浮いて止まった。
「うるさい。正当な報酬なんだよ」
緩慢な動きで男達の装備や物資をはぎ取り、その後に手に持っていた物が一瞬光って消える。
「テロリストってなんでこんなに金持ってるのよ? まぁ私としては助かるけどね」
呆れ果てながら活動資金だったであろう金を先ほどの様に虚空に消していく。
空中に漂う剣に視線を向けた女はさっきの話の続きだけど、と手を動かしながら話を続ける。
「この国ってお気楽でしょ? 戦いません、守るだけって。そう言えば攻撃されないと思ってる。最初から強盗しようって来てる相手が聞く訳ない。そんなお気楽な連中は安寧を得る。私はゴミ掃除してお金を得る。非常にいい関係でしょ?」
『一般市民を守るというのまではいいですが、その後が余計かと』
「私だって生活があるのヨ」
きょろきょろと周囲を見回し、金になりそうな物がないと見るとドアに近づく。
「さて、帰るよ」
宙に浮いていた剣は光の粒子になると女の元に集まり……シンプルなひし形の宝石が揺れる蒼色のピアスになった。
男達から流れ出した血がまるで川の様に流れる室内に女が手を突き出す。突如室内は燃え上がり……全てを無へ帰すのだった……。
十月翔和かつてこの世界を救った魔法少女は……立派な魔女になっていた。
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