096-天才の言い分
カルはまず、ファイスと共に背中合わせに立つ。
戦闘ボットは、カルに変わらず照準を合わせているからだ。
「舐められたものです」
「だったら、実力で証明してみせるんだな」
「お望みとあらば」
ファイスは警棒を突き出し、内部に仕舞われた部分を突出させる。
そして、猛然と戦闘ボットに襲いかかる。
だが、ファイスでは戦闘ボットに勝てず、押し負ける。
「近接格闘を専門として作られたドローンだ。お前では勝てないな」
カルはカルセールを抜き、戦闘ボットのコアを撃ち抜く。
崩れ落ちた戦闘ボットだったが、カルにもう一機が襲い掛かる。
「おっと」
カルは途端に、人間離れした動きを見せる。
即座に社長室の椅子を持ち上げ、投げたのだ。
いくら椅子とはいえ、何十キロもあるそれを、空のダンボールでも持ち上げるように。
そして、一瞬センサーを混乱させてから、カルセールでもう一撃。
コアを撃ち抜かれた戦闘ボットは沈黙する。
「君たちは強いね...本当に強い」
「だろう? 肉体強化など必要ない、そう思わないか?」
「だがね...君の言い分は、“才ある者”の言い分だ。僕たち凡たる者の言い分ではない。努力すれば、学べば...そんな事は、戯言でしかないんだ!」
「だが、才ある者が肉体を強化すれば、結局同じ事だ」
「それでいい。争う事ではない、肉体強化をした時点で、才ある者は敗北しているのだからな!」
話にならない。
そう判断したカルは、脱出ルートを見計らう。
ファイスにさえ乗って仕舞えば、天井付近まで一気に跳び上がれる。
だが。
直後、カルの体は吹っ飛ばされていた。
「がはっ...!?」
「主人!」
「才ある者は皆、無駄な誇りなど持たないのだろう。だから僕は、この一方的な感情にケジメをつける時が来たと感じているよ」
「既に実を結んでいたのか」
カナードの右腕は、不気味に肥大していた。
「いいや違う。これは僕の個人的な肉体改造に過ぎない...身を守る程度、だがね。変異パターンの安定性を掴むまでに、数千人を消費したよ」
「そうか...それで、使い心地はどうなんだ?」
「最高さ!」
直後、カルは跳躍していた。
そこにカナードが殴りかかるが、カルは拳を身を捻って回転する事で回避し、そのままの勢いでカナードに蹴りを叩き込んでいた。
「グブゥウ!?」
「俺の兄は偉大だった。きっと、この時のために違いないだろう」
「その身のこなし...相当な武術の使い手かッ!」
茶帯。
黒帯。
カルは、かつて得たものたちを思い浮かべる。
だが、そんなものは兄の寵愛に比べれば大したことではない。
兄の寵愛を受けたいばかりに、兄の課した試練を全て乗り越えた彼女。
「甘えるな! 才だけで覆せるものなどない! 全ては究極の努力...それさえあれば、才だけの者などすぐに倒せる!」
「世迷言を!」
カナードは机を投げ、カルに飛び掛かる。
だがカルは、手刀で机を叩き落とし、それを足場に跳躍する。
「はああっ!」
「グゥウウッ!!」
綺麗な跳び膝蹴りが決まる。
カルは再び床に降り、再度跳んで拳を振るう。
「ガアアッ!」
とても、着地直後から放たれたとは思えない重い一撃が、カナードの顔面を直撃した。
バァンと人体から鳴りそうにない音が響き渡り、カナードは倒れる。
「な...何故...」
「努力もなしに、肉体だけ強化して天才に至るだと! それこそ世迷言だ!」
天才という言葉に関しては完全にブーメランだが、カルは微塵も気付いていなかった。
「だ...だがね...僕は主張を曲げる気は無いよ...いくら、君たちが現実を突きつけても...ね」
「ああ、そうだな」
「だから僕は、往生際悪く...逃げさせてもらおう!」
「何!?」
直後、部屋の壁が開き、
カナードは、宇宙空間へと飛び出して行った。
「待て、待て...!」
カルは叫ぶが、ファイスに身体を抑えられる。
流石にファイスの怪力には勝てず、カルたちはカナードを逃してしまったのだった。
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