086-厄介事
「何か頼むか?」
「茶でいい」
「分かった」
何も頼まないのも問題だ。
私はよくわからないお茶を注文し、アラッドはこの世界でのコーヒーを注文した。
「さて....何から話せばいいか」
「結論を言え」
「......結論から言えば、俺の弟を探す手伝いをしてほしい」
「報酬は?」
私は問う。
別にお金に困っているわけではないけれど、支払い能力のない人間の”お願い”は信用できない。
「.......一般的な護衛任務の報酬で行くなら、40万MSCだ」
「話にならないな」
こっちには急ぎの目的があるのに....
「俺は金を求めて依頼を遂行しているわけではない。だが、こちらにも最低限、目的を休んでその仕事をする報酬を要求する権利はある」
「........一括じゃないとだめか?」
「当たり前だ」
アラッドは暫く悩む。
その間に、頼んでいた飲み物が配膳されてきた。
私はマスクの下部分を開き、茶を飲む。
......苦っ。
「...君はどうやら、ジスト星系についてはよく知らないようだな」
「ああ。ジスト星系の茶はこんなに苦いのか」
「俺はジストⅥの生まれでね...そこが原産地なんだ」
私はアラッドが教えてくれたように、お茶に角砂糖を放り込む。
ちなみに、技術の進んだこの世界では、基本的に嗜好品に使われる砂糖は体内に蓄積されにくい種類の砂糖らしい。
スイーツに興味はないが、前世の女友達たちなら喜んだかも...?
「分かった。一括で100万MSC。......これでどうだ?」
「駄目だな」
私は首を振る。
求めているのはお金じゃないんだってば。
「何ならいい!?」
「そもそも、俺に頼るより....アルゴとかいう奴がいるだろう」
ゴールド傭兵を雇うと、とんでもないお金がかかるらしい。
だからこそ、シルバー傭兵の上位である私に頼んでいるんだろうけど....
お金に簡単に釣られる馬鹿なら、アルゴが筆頭だろう。
事実、ライズコンソーシアムのアホ依頼を受けて死にかけてたんだから。
「.........あの輩は信用できない。口は軽いし、金で裏切る可能性もある」
「そんなに弟というのは、大事に巻き込まれているのか?」
「そうだ」
そこから、アラッドは少し逡巡しながらも弟の情報について話してくれた。
弟の名前はソーラルといい、二週間前に失踪したらしい。
失踪の原因は、彼の乗っていたらしい観光船が海賊に襲撃されたこと。
何やら両親と死別したらしい彼にとっては、弟は何より大切な存在なのだそうだ。
「...それでよく、報酬額をまけて貰おうと思ったな」
「......弟を学校に通わせるには金が必要なんだ。シルバーの稼ぎなら、なんとかいい大学に行かせてやれそうなんだ」
「そうか...なら、一つ条件を出そう」
私は彼の前をマスク越しに見る。
「俺も、報酬額をまける気はない。だからこそ...お前の弟が大学に行けたなら、二倍にして返してやる」
「...憐れみか?」
「違うな、学があることは重要だ。どんなに狂った世界でも...」
だからお兄ちゃんは、私に学びを、学びの楽しさを教えてくれた。
ものを知っていれば、たとえ騙されても騙し返せるし、理不尽な目に遭っても倍の理不尽で返せる。
「お前は...変な奴だ」
「弟を助けるために、知りもしないシルバーに声を掛けるお前に言われたくないな」
こうして、話は終わった。
私は目的から外れ、この変な男に協力することになったのだった。
弟に献身する姿が、お兄ちゃんと重なった。
だから私も、いつか...完璧で何の障壁もないお兄ちゃんに、恩返しを試みるのだ。
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