073-”戦いと覚悟”
決戦に備えて、私は艦内整備を行うことにした。
まず向かったのは、機関室。
「何をされるのですか、主人?」
「機関部のリミッターを解除する」
「...なんと」
正確には、パワーコアの出力をより上昇させる。
この処置を行うことにより、シールドにより多くのエネルギーを回すことができるようになる。
だが勿論、デメリットも存在する。
それは、パワーコア室の隔壁が融解した場合、機関室は放射線で満たされることになる。
とてもじゃないけれど、近づけない。
だからこそ、これは非常事態用のショートカットとして設定しておく。
「よし、終わり。いつでもコンソールから起動できるようになった」
「.........」
ファイスは珍しく、何も言わなかった。
次に私たちは、格納庫へ向かう。
ドローンの入れ替えを行うためだ。
今現在、格納庫には、
リーパー 遮蔽ドローン
ブリッツシージ 高機動ドローン
デュヴァーン TractorAnchorLaserドローン
パラノイア ワープ妨害ドローン
クロウグラップ サルベージドローン
オルトロス 超高性能ドローン
アイギス 防衛ドローン
の七機が存在しているが、高機動戦が予想される今回の戦いでは、ぶっちゃけ使わない。
なので、
エインへルイ 高機動ドローン
ブリッツシージ 高機動ドローン
エリシウム 高機動ドローン
サジタリオン 固定砲台ドローン
ウォーハンマー 対構造物ドローン
オルトロス 超高性能ドローン
ミカエル 高機動リペアドローン
へと入れ替える。
いくつか混じっている高機動ドローン以外のドローンには、それぞれ役割がある。
サジタリオンは固定砲台型ドローン、つまり動かずその場に浮遊した状態で、自動攻撃を行うドローンである。
その分威力は他のドローンより高く、射程も広い。
ウォーハンマーは、構造物のシールドや装甲に対して至近距離から実体弾で砲撃を行うドローンである。
そしてミカエルは、ドローンやアドアステラに対して高速で追随し、リペアを行うドローンだ。
「くっ...重い...」
「お手伝いします」
頑張ってドローンを台に乗っけて、倉庫にある別のドローンと交換する。
その作業を終えたら、次は左右翼部分へ。
MSDとスマートミサイルランチャーの回路を交換して、オーバークロックに耐えられるように変更する。
「......次は砲台だな」
「主人!」
その時、ファイスが叫んだ。
私が振り返ると、ファイスは悲しそうな顔をしていた。
「どうしてあなたは、一人で戦おうとするのですか?」
「一人で? 皆がいるだろう」
「違います! 星系軍を盾にするなり、あのミサイル艦の友人を呼ぶなり...こんな、死に向かうように準備を整える必要があるのですか!?」
ファイスは必死に見えた。
だからこそ、私も自分なりの結論でもって答える。
「...まず、今回のワープでは中性子星が大きく関わってくる。ワープコア強度の高いアドアステラなら、ほぼ誤差なくワープできるけれど、他の船は違う」
連動ワープというのを使えば、強度を共有できるそうだが、アドアステラには付いていない。
「それから、施設周囲には夥しい数のノイズが映った...恐らくセントリー砲台が設置されている。」
アドアステラだけならいいけど...
「星系軍は基本的に、救援が来るか数的有利を獲得する前提で機動性が低く、防御力が高い。中性子星のせいでワープができなくなる以上、離脱もできず動く的になるだけだ」
それは、アルゴの船も同じ。
最初はどうでもいい奴だったけど、義理堅いし、駒としては見捨てたく無い。
「だから、私は行く」
「待ってくださいッ!」
素早く進路に回り込んだファイスが、私の進行方向の壁に左腕を突き立てた。
どん、と重い音がした。
「...私は、ロートラの狼人です。調べました、狼とは、群れのボスに従うものだと...ですがッ!」
気付けば、ファイスの頬が湿っていた。
泣いているのだ、あのファイスが。
「あなたが死ぬかもしれない選択肢に進む度、この胸が...刺されたように痛くなるのです! どうか...私を置いて、遠い場所に行かないでください...!」
「ファイス...戦いとは覚悟だ」
私は彼に寄り添うことはできない。
いつかはお兄ちゃんを追い、異世界へと戻るのだ。
その時、隣にファイスはきっと居ないだろう。
「いつだって、私の尊敬する人は...負ける戦いに、勇敢に挑んだりはしなかった...」
それは、お兄ちゃんの事だ。
この気持ちは、盲信じゃ無い。
確かな思いと共にある、確信だ。
「だから私も、この戦いに負けるとは思っていない」
「何故...そう...言い切れるのですか...!」
「もし私が死んだら、悲しむ人がいる。だからこそ、全てを万全にして挑む...お兄ちゃんが通った道だ。お兄ちゃんは勝って帰ってきた!」
勿論、お兄ちゃんだって万能では無いかもしれない。
私のために、敗北の背中を見せたくなかったから、見栄を張っていただけかもしれない。
だから、どうした。
人間は信じたいものだけを信じる。
だから私も、兄の道を往く。
「...すまないな、ファイス」
「...はい、ですが...この問いにはいつか」
ファイスは少し不満そうだったが、それだけで彼の忠心は揺るがなかったようだ。
私は最後の調整をするべく、砲塔室へ向かった。
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