043-何者かの回想
『まって!! いかないで!!』
暗闇の中を、一人の少年が走っていた。
その息は既に上がっており、伸ばした手は空を切る。
『わっ!!』
そして、少年は足を滑らせ、床に倒れ込んだ。
彼を助ける人間はいない。
『......お母さん』
彼の横の壁が滲み、病院らしき場所で医療カプセルに入った女性が映し出される。
その息はすでになく、医師らしき男が少年とその父親に謝罪していた。
『ねえ、お母さんはどうして起きないの?』
『アレン......お前の母さんはな、遠い場所に行ったんだ.....』
そんな声が響く。
少年が再び起き上がると、その身体は青年のものとなっていた。
『アレン、結婚相手はまだ見つからないのか?』
『うるせえな、バカ親父!』
映像の中で、アレンと呼ばれた男が、父親を押しのけた。
父親が持っていたアルバムが落ちて、中から大量の女性の写真が飛び出した。
『俺の人生は俺で決めるんだ! だいたい、頭空っぽの貴族女なんて興味ねーよ!』
『アレン.....』
また場面が移り変わり、アレンはどこかの屋内にいた。
『アレンスターだ、よろしくな!』
『......よろしくッス』
アレンスターはTRINIY.のマークの付いた服を着て、目を輝かせていた。
だがすぐに、その光は失われる。
『アレンスターってなんなんだよ、貴族だからって偉そうにしやがって....』
『無能の癖に、解雇できないんだよな.....』
ヒソヒソ、ヒソヒソと声が響く。
それに合わせて、青年は頭を抑えてもがく。
『アレンスター君、君はどうも評判が悪いようだ』
『...そうでしょうか?』
『ああ、そこで――――どうだ? アルキネストに赴任しないかね?』
『アルキネスト星系に? 辺境では...?』
『どうだね?』
『わ、私は....』
『どう、だね?』
拒否などできるはずがなかった。
アレンスターは実質的な左遷を食らい、部下を置いて辺境アルキネストへと追いやられたのだ。
――――だが、それも悪くはなかった。
左遷先の人間達は、アレンスターにも優しく接してくれたのだ。
アレンスターは段々と砕けた性格になっていった。
.......しかし。
『虚しい』
母親を失ったトラウマは、彼にずっと根付いていた。
そのせいで、女性の誰と話しても全く楽しくなかった。
もちろん、相手を見つける努力はしていたが......
『ま、待て!』
そんな時。
見たことのない設計の宇宙船、アドアステラと出会ったのだ。
そして、その主であるカルに――――
素顔を隠した少女に。
「うぉああっ!!」
アレンスターは勢いよく顔を上げた。
そして、今まで見ていたのが夢だと気づいた。
「......おいおい」
時間は既に深夜であり、今から起きていなければならないという事実にアレンスターは打ちひしがれた。
だがすぐに、枕元の水差しから水を飲み、起き上がった。
「.......躊躇うべきじゃないんだろうな」
アレンスターは目を擦ると、窓際を見る。
そこには、母親のエイスターの肖像画があった。
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