269-恩人への敬礼
こうして、主に傭兵カルの働きによってラーハヴェクは壊滅した。
首領と副首領を同時に失ったことで、地上にいたラーハヴェク勢力も仲間割れで弱体化し、TRINITY.による一斉検挙を逃れることはできなかった。
事件を解決し、仲間を手中に取り戻したカルは、現在どこに居るのかといえば...
「また勲章が増えた」
「良かったね、カル!」
場所はオストプライム庁舎大ホール...の控室。
既に勲章の授与式を終えた後であった。
今回はカルに、TRINITY.から「金眼捜査協力勲章」と「金翼突撃勲章」を授与されていた。
さらにオストプライムの管理者からは「ワンマンアーミー」と「ゴッドフリート」の二つのエンブレムを貰ったカルは、英雄と多くの人間から持て囃されて舞台を立ち去った。
「だけど、勲章が欲しくて戦ったわけじゃない」
カルは不満げに呟く。
とはいえ、勲章の授与が今回の戦いについて要らない詮索を防ぐためのものであるとも理解していた。
パラライシスリンクの存在が明るみになったり、要人の死亡の原因がカルたち一行にあるとすれば責任問題に発展するからだ。
「シャトルの手配はしてる?」
「屋上からだよー、正面から出るとマスコミがうるさいしね」
「わかった」
二人は屋上に上がる。
吹き付ける風は、屋上に張られたシールドで防がれ、高空だというのに気圧差も寒さも風邪もない空間がそこにあり、ただオストプライムを一望するのみであった。
「ここでもいろいろあったね」
「色々で片付けちゃうんだ、やっぱりカルってすごいね」
カルはシャトルにラビと共に乗り込んだ。
シャトルは浮き上がり、宇宙へ向けて旅立つ。
だが向かう先はアドアステラではない。
「二人はオストⅦステーションにいるって」
「ああ、わかってる」
今回死亡した中で、反社会組織に属するタイプの人間の遺体が移送されたのが、第七ステーションである。
そこにソフとアリアは行っていた。
「ダラト人が人助けをするなんてね...」
「あるいはソフとアリアには、悲しい過去を塗りつぶすだけの強さがあるのかもしれない」
カルは呟く。
まだ立ち直ったばかりのソフと、足取りの覚束ないアリア。
その二人が、犯罪者の心を動かしたのだ。
「だけど、完全に悪なら心も動かなかった。ダラト人に都会での居場所がなかったのも一因だったんだろうね」
「種族差別は消えないからね...」
かく言うラビも、種族差別に苦しんで来た身の上がある。
勿論、ダラト人のような醜悪な見た目というわけではないものの、無意識に潜む悪意を感じ取ってきたのだ。
「別にさー? 私だってー、カルみたいな女の子と好き好きしたいだけなのにー。ケモノくさいとかさぁ、色々言われてたんだよ?」
「...」
「無視しないで〜カル〜」
カルは黙る。
それに対して、ラビはカルに抱きついて懇願するのだった。
カルとラビががアリアとソフが居る場所に着くと、二人は黒い服を着てそこに立っていた。
ソフとアリアの眼前には、簡素な死体収納ケースが置かれている。
「その人が、二人を助けてくれた人?」
「...はい、アレブリュートさんです」
「そうなんだ」
カルは二人の前で、アレブの遺体に頭を下げた。
「ありがとう、あなたのお陰で失わずに済んだ」
カルはアレブの生前の姿を知らない。
それでも、二人の言動から悪くは扱っていなかったと察していた。
だからこそ。
「二人から約束は聞きました。いつかあなたの故郷を訪れます」
約束は果たす。
その言葉を聞いた時、ソフは自然と頬を涙が伝うのを感じた。
たった一週間程度の付き合いだというのに、アレブは二人に身を捧げ、二人はアレブの死に涙した。
たった一瞬の邂逅が、アレブの人生にとっての最大の救いになったのだ。
救世主に救われた信者がその命を投げ出すように、アレブは何の躊躇いもなく二人のために戦ったのだ。
「名もなき戦士よ。その果ての旅路に幸福があらんことを」
そう言って祈ったのは、ラビだった。
普段見せない、神聖なその様子に、ソフもアリアも目を奪われた。
両手を合わせるように重ね、目を閉じ祈る。
それを終えれば、ラビはカルに向き直った。
「行こっか」
「...ああ」
カルはソフとアリアをそれぞれ見る。
マスクの下に隠された表情は見えない。
しかし二人も、頷いてその後に続いたのだった。
面白いと感じたら、感想を書いていってください!
出来れば、ブクマや高評価などもお願いします。
レビューなどは、書きたいと思ったら書いてくださるととても嬉しいです。
どのような感想・レビューでもお待ちしております!
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




