239-ノルスと図書館
全員がショッピングを満喫する中。
中央都市の図書館を訪れていたノルス。
「(....図書館とは、こういう場所なのですね)」
エントランスから中へ入ったノルスは、静謐な空間だとその場で認識した。
入ってすぐの空間は、ツートンカラーの木材が組み合わさった網目状のトンネルになっており、網目の奥には格子状の棚があった。
棚には本がそのまま置かれており、どれもノルスの興味を惹くものだ。
彼が奥に進めば、彼の空間認識能力が、広大な空間を指し示した。
「…これは」
そこはまさに、幻想のような世界だった。
まず目に入るは、壁面にずらりと整理された本棚。
流麗なカーブを描いた本棚は、自分のいた通路へと収束していると、ノルスは気付く。
アーチ状の通路は、円筒状の部屋へと接続されていたのだ。
「(塔のようですね…いや、これは!?)」
まるで、塔の壁面をそのまま本棚にしたようだと思っていたノルスは、中央に空いた吹き抜けに気付く。
その仮説が正しいということが証明され。
見上げれば無限に続くような階層が。
下を見れば、遥か遠くに地面が。
本棚のある階層が、無数に連なっているのだ。
「これは…!」
主人を連れてくるべきだったと、ノルスは後悔する。
今まで見たこともないその絶景に、主人であれば感涙するかもしれないと愚考したためだ。
『何かお探しですか?』
その時。
流線型のデザインを持ったドローンが、ノルスの前に降り立った。
「経済関連の書籍を少し――――オルトス中央部における株式変動について知りたい」
『検索完了です、こちらへどうぞ』
ドローンの後ろを、ノルスはついて歩く。
入って左右にはエレベーターがあり、ノルスはそれに乗って階下に降りる。
途中数人の人間が乗り降りする。
ドローンを連れていない者もおり、慣れているのだと思わせる。
「こんにちは」
「....こんにちは」
時折、挨拶してくる者もいた。
ここは、静謐な空間であると同時に、電子化の完成された世界において、物質的な知識を求める者の学び舎であるのだ。
学友に挨拶するように話しかけてくる人間たちは、ノルスが特異種族であるからと目線を向けてくるわけではない。
遠い星から学びに来たノルスという「人」を見ているのだ。
「(きっと、私などより主人がこの場に似合うだろう)」
完璧にほど近いというのに、更なる完璧を追い求める自らの主人。
それを脳裏に浮かべつつ、ノルスは目的の階で降りた。
『この階層は統計記録書架-67階層にあたります。こちらに、10年前からの上場株式の変動記録を記録した書類が存在しています』
「助かる」
この図書館は、地下1250階層・地上212階層の超巨大な建造物であり、その特質は「王国中の惑星の書籍」が集う事。
それは、翻訳や種族に合わせたマイナーチェンジ等も含むという事だ。
「ありがとうございます」
『御用があればお呼びください』
それだけ言うと、ドローンはその場で静止する。
ノルスは数時間ほど、その場で記録書類に目を通す。
座りたいと思う暇もなかったが、座ろうと思えばドローンが椅子を出してくれる。
「(主人ならば、ここに住むと――――いや、主人であれば、時間を必要としないだろう)」
カルが、星系図を完全に把握していることをノルスは知っている。
彼女の会話に出てくる星系の名前は、「記憶しているが詳細は知らない」という程度であり、数千数万と存在する星系の名前をすべて覚える事が出来るカルに、この図書館の網羅など当然できるものだとノルスは考えていた。
「――――今、何時ですか?」
『17:22です』
時間を聞いたノルスは、ドローンが時間を表示したのを見て本を閉じた。
一日が終わる時刻であり、ホテルに帰るべき時間帯である。
「帰ります、退館時のルールはありますか?」
『ございません、ご利用いただきありがとうございます』
ノルスはエレベーターに乗り、再び地上へと戻るのだった。
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