236-フードコート
後はどこを見るかという話になって、当然ながら私達は、中央にある超巨大なフードコートに向かった。
コロニー中央部を占領するかたちで広がるフードコートは、途轍もない規模で広がっており、
「こういう形で利用するのか、面白い」
浮遊してついてくる、机型のドローンを皆が連れている。
私達は人数が多いので、私とラビに追従させる。
「食べ歩きって訳だね」
「楽しみ~」
流石にご飯時だけあって、フードコートには人が溢れている。
そんなに多く食べられるわけではないので、チョイスは正確に。
「この記事はどうでしょうか? 種族ごとにおすすめの店がまとまっています」
「いいね」
ラビがノルスと何かやっている。
すぐに、私の端末にも情報が送られてきた。
「流石に人間族は対応する店が多いな」
「少数民族はね....」
ラビやノルスのような人種は、比較的人間に沿った食事が出来る。
ただ、ファイスなどはどうしても食性に引っ張られ、仲間の中にはいないものの、肉が食べられない種族も当然いる。
彼らに合わせて、様々なものが供されるのが、このフードコート最大の利点と言えるだろう。
私みたいな人間種は、基本なんでも食べることができる。
ただし、口内が耐火性のある人種の溶鉱炉焼きなど、そういったものは無理だけど。
「ねえねえカル! これとかどう! 海賊の夢、ノーグだってさ!」
「ちょっと重すぎるような...もうちょっと野菜めなのがいいかな」
「うーん、わかった!」
ラビはめっちゃノリノリで、温度差が凄すぎる。
いや、勿論....ケインとソフは今にも飛び出しそうなので、冷静なのは私とファイス、ノルスくらいのものだ。
「ノルスは何か特別な好みとかあるの?」
普段、ノルスはあまり食に拘らない。
だいたいサンドイッチとかを好んでいて、肉野菜どっちが好きなのかも私は知らない。
「自分は.........その、軽く食べられて、栄養価の高いものであれば....」
「成程....じゃあ、それを探そう」
「はい」
幸いにも、それはすぐに見つかった。
デプトニュと呼ばれる、手で持って食べられるグラタンのようなものだ。
それを三個購入し、食べるノルスは、傍目にはいつもと変わらないようだったが...
私には、なんだか嬉しそうに見えた。
「カル、これ一緒に食べよう!」
「うわっ、いつの間に!?」
その時、ラビが串焼きらしき何かを突き出してきた。
私は咄嗟にマスクの操作を行なって口だけ露出させ、その先端に刺さった野菜だけを齧り取った。
「うん、美味しいな」
「でしょ!」
ラビは何やら嬉しそうな様子だ。
嬉しいならよかったけど、何か含みがあるような気がしてくる。
「ねえ、カルは好きなものってあるの?」
「.....いつも食べてるやつだよ」
あれは、お兄ちゃんが最初に作ってくれた料理と似た味だから好きなんだ。
トマトを使って、何かスープみたいなものを作ろうとしたお兄ちゃん。
私はお兄ちゃんとは違って、一回で成功させてしまった。
それを何とか台無しにしようとしたけど、お兄ちゃんに見抜かれて怒られた。
お兄ちゃんより完璧な料理が出来たら、お兄ちゃんはもう料理を作ってくれないかもしれないから。
あの時は幸い許してくれたけれど、それからもお兄ちゃんに一歩及ばない料理の腕アピールは続けた。
最初に成功したことを続けない妹なんて不要だと言われたら嫌だったから。
「他のものはどうなの?」
「言い出したら切りがない、分かってるはずだろう」
お兄ちゃんに出来ない料理はなかった。
でも、それはお兄ちゃんの経験に裏打ちされたもので、私はそれらをより美味しく作る事が出来た。
私はお兄ちゃんが努力していることを知っている。
だからこそ、お兄ちゃんが作っていない料理以外で何が好きかと言われたら、一様に「好き」としか言いようがない。
知らないし、興味もないのだから。
「.....だが、ラビが好きなものは、俺の好きでもある」
「...うん、ありがと」
ラビは湿っぽく笑ったけど、私はその笑みの裏にあった失望を僅かに感じ取った。
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