227-ソフの一日・後編
ソフの仕事は多い。
本来はやらなくてもいい雑事だが、ソフが自らやりたいと志願してやっている事なのだ。
まず、朝のブリッジでの作業。
コンソールの清掃から、床の清掃。
元々はカルかファイスがやっていたことで、コンソールの清掃に関しては各自の仕事でもある。
「ワープはいつ開ける?」
『残り四時間です』
「分かった」
ソフはブリッジを飛び交う指示の意味が分からない。
しかし、この船が星と星を移動するものだという事は分かっていた。
宙に浮かぶモニターに投影された色々な情報に目を奪われつつ、仕事を終えたソフは下へ降りる。
本来、艦内の清掃は自動で行われるため、ソフの仕事は機械の手の届かない部分の清掃である。
戦闘機やドローンの清掃はファイスが行うため、ソフは機関室へ向かう。
機関室のコンソールは、殆ど操作されないものの、ノルスが触るためにソフは一応そこも清掃する。
「次は....」
ソフは幾つもの通路を経由し、風呂場へと移動する。
トレーニングセンターと上下に隣接する風呂場は、自動清掃の範囲内のため、ソフはロッカーや備品の整理をする。
タオルや服を洗濯機に放り込み、洗濯・感想が終わると同時に選別し、各員が利用する場所に戻した。
「あっ、ソフ」
「旦那様...!」
女性用の更衣室を片付けているとき、カルが更衣室に入ってくる。
ソフは頭を下げるが、再びカルによって頭を上げさせられる。
「あ、あの.....」
「頭は下げなくていいから、お風呂は入れる?」
「大丈夫です!」
「じゃ、入るから.....スポブラ洗っておいて....あと、サウナも起動しておいて」
「はいっ!」
カルから投げられた下着を、ソフはしばし眺める。
それから、サウナの操作盤の電源に触れると、すぐに洗濯場に向かった。
ソフにも自由時間はある。
それは、昼から三時間ほどの時間である。
その間、ソフは左舷にある展望室で流れていく星空を眺めるのだ。
しかし今はワープ中のため、ソフは別の場所へ向かう。
そこは、鑑賞室。
少し前にカルが購入してきた、ソフの故郷の惑星を映した、3時間ほどの映像。
それを、ソフは遠い目で眺めていた。
どんなに酷い思い出のある場所だったとしても、それでも。
彼女の故郷なのだ。
「また、ラダリアの映像を見てたのか?」
「旦那様...」
その時。
仮面を付けた状態のカルが鑑賞室に入ってきた。
「(また、あの人と話していたんだ)」
ソフは、カルがユルトと話すときに仮面をつける事を把握している。
それ故に、カルが何をしていたかを即座に理解し、
「ユルト様とのお話はいいのですか?」
「ああ、もう終わった。それより......お茶でもどうか、と思ってな」
「....はい、行きます!」
ソフはカルに続く。
お茶が飲みたい、菓子が食べたい。
そう言いだせる立場にないと思い込んでいるソフにとって、主から誘われるお茶は最良の機会であった。
「ごめんね、働く必要がないのに働かせて」
「いっ、いいえ! 私のような人間は.....」
今まで、何千何百回と口にした、自らを卑下する言葉。
それを言う途中で、その口が止まった。
もう、言わなくてもいいのだと、気付いたのだ。
「.....ごめんなさい、私.....使えない、召使で....」
「ここではもう違うよ、ソフ。私は、あなたを奴隷ではなく、友達として迎え入れたんだから」
「ともだち.....」
ソフは、その単語の意味を知っている。
今まで仕えてきた者や、同じく仕える人間が口にしていた言葉。
「そうそう、友達には遠慮なんて無いし。ほら、これ。パーラの有名な焼き菓子だってさ」
「ありがとうございます....」
ソフは受け取った菓子を口に運び、その味に顔を綻ばせた。
カルはそれを見て、微笑む。
「そういえばソフ、ここで過ごしてみて、何かやりたい事は見つかった?」
「あ.....」
ソフには、仕事とは別に「やりたい事」を探してみてほしいとの話がカルから齎されていた。
その問いに、ソフは.....
「その.....言って叶うかは分かりませんが、その.....今行っている仕事を、そのまま続けたいです。それに....計算も得意です、もっといろいろ、やりたいです」
「主計科って事? いいよ、席も余ってるしね」
こうして、ソフの未来も同時に決まったのであった。
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