210-ユルト登場
数日後。
私たちはケラカⅡにあるステーションへと入港していた。
その目的は、収穫体験で得た果物缶詰が届くのが、ここの支部だからだ。
届くのは二日後。
それまで私達は、ここで何かして過ごす必要がある。
色々アイデアはあったけれど、特に思いつかなかったので...
私は全員を自由行動として、自分は一人、ステーションに二軒しかない飲み屋を訪れていた。
どういう風の吹き回しかと言うと、他の傭兵達の顔ぶれを見ておきたいからだ。
『ゴ注文ハ何ニナサイマスカ?』
「これで」
ぶどうジュースみたいな見た目の飲み物を注文し、私は席に座る。
周囲を見渡すと、傭兵たちが会話しているのが聞こえる。
「.....でよ、襲撃が」
「だけど、海賊の出現率はそんなに高くないだろ?」
「最近増えてんだよ...どこから来たかは分からねえが...」
やっぱり、異常だよね。
ケラカ星系に謎の海賊の増加傾向がみられるらしい。
襲うものもないし、何かやらかせばすぐ星系軍が飛んでくる場所になんで....?
とは思わなくはない。
だけど、実際増えているものは増えている。
それは即ち、襲うメリットがどこかにあるという事だ。
何だろう.....
「オイ、兄ちゃん。そこで座ってねえで話そうぜ」
その時、背後から肩を叩かれた。
振り向くと、浅黒い肌に黒髪をオールバックにした大男が立っていた。
「おい、その仮面.....もしかして、カルじゃねえか!?」
「ゴールド様か! 一人で何やってんだよ、飲むか?」
「酒はいい、情報を寄こせ」
「一杯、奢ってくれよ! 俺たちにとっては、酒一杯の奢りは山ほどの金塊より重いぜ」
これも交際費で落とせるかな?
私はそう思いつつ、仕方なく全員にビールを奢ってあげた。
大麦の生産地でもあるからか、とんでもなく安かった。
「ありがてぇ! 何でも話してやるぜ!」
「助かる」
私が話に耳を傾けようとしたその時。
ドスの利いた声が、背後から飛んできた。
「待ちな」
そちらを振り向くと、そこにはスキンヘッドの黒い肌の男が立っていた。
ユルトの一団....グーンズフリートに混じっていた人だ。
「賊の話なら、ボスに聞いたほうが早い」
「だが.....」
「ボスはあんたを”高い方”にご招待してる。たまにはデートの誘いにも乗ってやれよ、優男」
厭味ったらしい言い方だけれど、”高い方”というのは高級バーの方だ。
アプレンティス傭兵ともなると、一般酒場は使えないんだろう。
「....悪いな、タダ酒って事で楽しめ」
「おうよ、いつか百倍で返してやるぜ、ゴールド傭兵さんよ」
私が出て行く事を表明すると、彼らは落胆した様子だった。
けれど、不満を露にすることはなく、仕方ないといった風でもある。
アプレンティス傭兵がゴールド傭兵を招聘したという事実は、シルバー傭兵が中心の彼等には大きな事実でもあるのだろう。
「よっ」
高い方の酒場に着くと、ユルトはこちらを向かずに手を挙げて歓迎の意を示した。
私はカウンターに進み出て、ユルトの隣に座る。
「酒は飲むかね」
「飲むと思うか?」
「飲まんだろうな、傭兵らしくて助かるぞ」
ユルト・ブラウミュラーは女の人なんだけど、喋り方は女のひとっぽくない。
褐色寄りの肌もあって、白人と黄色人種が中心っぽい王国では異国感が漂う。
「いや、酒に弱いからな」
「ははは! わざわざ言うか?」
「ああ、俺はお前を信じているからな」
「....ふ、面白い」
何が面白いのか分からない。
得体の知れない人物だけど、こうして招待してくれたという事は....
「この星系における、海賊の状況を知っているかね?」
「増えている、んだろ?」
「ああ、増えている。だが、何が狙いかね?」
「さてな。資源になる人は少なく、食糧はそのままでは運搬できない上、売り払う時に足が付く。ここに基地を作っても、直ぐに攻め滅ぼされるだろうな」
「中々鋭いな! その通りだよ」
ユルトは笑うと、度数の高そうな酒を一気に飲み干した。
「ここでは”耳”が多い。......招待しておいて悪いがね、我々の艦隊に赴いてくれないか?」
「構わないが.....」
これは罠だろうか?
いや、罠だったとして、彼女が私にそれをする意味がない。
私は頷き、立ち上がったユルトの後に続いた。
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