200-船出
「では、これより出航準備を行う」
私は静かにそう宣言した。
同時にコールが始まる。
まずは私だ。
「操縦桿遅延なし、システムラグ誤差範囲内」
この船の足を担うのは私だ。
これだけはまだラビ以外の誰にも任せられない。
「パワーコア出力安定、ワープドライブ、サブワープドライブの出力安定幅に異常なし。ハイパードライブの出力曲線に異常無し」
ノルスが機関の状態を報告する。
彼のいいところはなんでもすぐに身に付けられることで、機関士として他でも働けるくらいの能力を得ている。
ドライブの出力や温度などから状態を察するのも容易というわけだ。
「変形システム、サブシステム、フォートモジュール、キャッスルモジュールに異常無し。新設部分にエラーなどは見られません」
ファイスが報告する。
技術担当は一応彼だ。
いつか、修理士をどこかで雇わなければいけないとは思っているけれど、今は彼に任せても大丈夫なはずだ。
もともとアドアステラはメンテナンスフリーの単独航行型でもあるからね。
「ドローンの制御システム、異常なーし! 全部のドローンの修理とメンテナンスは終わってるよ!」
ケインが言う。
一応被弾することのあるドローンは修理を経て装甲を修復し、万全の状態を保っている。
消耗品ではあるけれど、消耗品なら消耗品なりに万全の状態を保つ必要がある...らしい。
「お、同じく...ミサイル発射システムに異常無しです」
アリアは担当範囲が狭いけれど、それでいい。
彼女は私の見た限りだと、年相応であまり多くのことは出来ないから。
むしろ幼さからは想像もできないほど賢いとも言うけれど。
『こちらWHITE-RAVEN! メンテナンス終了、燃料・弾薬補給完了!』
ラビからの報告も終わる。
宇宙では何が起こるかわからない、戦闘機の出番がないとは言い切れない。
だから、こうして出発前には必ず備える。
『火器管制・メインフレーム・各種制御システムに異常無し、問題なく出航可能です』
シトリンが締め括り、同時にワープドライブの駆動音が階下から響いてくる。
巡洋艦のアドアステラのワープドライブは始動音がかなり大きい。
航行中はそんなでもないのだけれどね...
「各部コール確認、出航する」
私はステーションの管制室に連絡を入れ、出航の旨を伝える。
『傭兵カル・クロカワ様、安全な航海を』
ステーション管制官がそう答えると同時に、艦体を固定していたガントリーロックが外れる。
無重力のハンガーベイ内に放り出されたアドアステラを、ぶつけないように私はうまく操縦する。
そのまま出港ルートに出た私たちは、数隻の輸送艦を追い越して加速、ステーションの外へと飛び出した。
そのまま数十kmほど飛んで、ベンシア星系へのジャンプゲートを目指す。
「よし」
次の目的地はクランゼス地方の首都的立ち位置にあるケラカ星系。
ちょっと遠いけど、それに見合うものがあると私は思っている。
あとは、休暇みたいな側面もあるしね。
『ワープトンネル目的地まで残り30秒』
まずはベンシア星系へと向かうわけだが、ステーションから近いので直ぐに着く。
アドアステラはゲート前へとワープアウトして...
「...ッ!?」
アドアステラはゲートの目前ではなく、少し離れた位置に停止した。
ゲート前には、全部で六隻のVe‘z観戦の特徴を備えた艦隊が待ち構えていた。
『ロックオン開始...』
「待って、攻撃しないで」
『了解』
私は船の速度を上げ、なるべく静かにアドアステラをゲートへと進ませる。
それを、彼等は黙って見ていた。
『カーゴスキャンを感知』
やはり、攻撃されるか。
そう思っていたものの、意外にもカーゴスキャンだけで済ませてくれた。
やばいものを持ち出さないように...いやでも、それなら撃墜すればいい話だし、一体なんなんだろう?
謎はかえって深まったものの、アドアステラは無事にゲートの起動範囲内に辿り着いた。
『ゲートコントロールシステム、フェーズ2に移行』
アドアステラを捉えたゲートの移送システムが、アドアステラをゲート間の異次元トンネルへと跳躍させた。
こうして、私たちのVe’z星系での旅は終わった。
『継承 行く』
『観測者 選抜 者』
『攻撃 権限 不足』
『放任』
そんな会話を交わしたVe‘z艦隊は、静かにゲートを離れ...ラジンハイエのゲートへ向かってワープするのであった。
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