172-バーでのひと時
数時間後。
私は、アウトポストに併設されたバーを訪れていた。
仲間たちは全員疲れで全滅、みんなを休ませるためにも、元気な私だけでここへ来たのだ。
「グレッドをひとつ、アルコールは抜きで」
「はい」
トマト風の何かを使った甘いカクテル。
それを、作ってからアルコールを抜くSF世界らしい製法だ。
受け取り、気にせず中身を煽る。
「(客は少ないな)」
当然だが、お客さんは全くいない。
アウトポストには三種類の娯楽施設があり、レストランとパブ、そしてこのバーだ。
それぞれ、「王国宇宙軍 流星亭」「ショットレイ」「ロイヤルハニー」と名がついている。
生き残った者達は再会を祝いショットレイに、王国騎士団達は規律を守っているのか自艦で待機しているようだ。
だが、そんなバーでも私以外に客はいるようで...
「パルトナスを頂きたい、氷は入れないでくれ」
「分かりました」
聞いたことのある声が背後から聞こえてきた。
振り返らず、席に座ったままじっとしていると、
「あちらのお客様からです」
店主が、パルナトスと呼ばれる果実酒を注いで持ってきた。
私はそれを、手で制する。
「アルコールは飲まない主義だ、抜いてくれるか?」
「承知いたしました」
「連れないな、カルよ」
その時、「あちらのお客様」であるクロスが隣に移ってきた。
関わり合いになりたく無いが、貰ったものは一応飲まないと失礼だよね。
「暇なのか?」
「いや何、此度の戦い、疑問に思うことはないか?」
疑問なら、確かに一つあるけど...
何故あのタイミングで王国騎士団が現れたのか、とか。
ローカル通信で「アドアステラを守れ」とか言ってたし。
「あるが、答えてくれるのか?」
「ああ。お前の興味を引きたいのでな」
一体どんな話を聞けるのか。
まあ、どうせ貴族とコネがあるとかそんな話だろう。
「我が名はアーラム・ディクロス・オルトス。これでもこの王国の王太子である」
「...ほう?」
ごめん、ちょっと驚いた。
態度に出てなければ良いんだけど。
「それで? 王太子がどんな用事だ」
「お忍びで傭兵業をしていたが、お前を助けたお陰で存在がバレてな...連れ戻されそうなのだ」
「俺のせいか」
王太子が傭兵業なんて信じられないな。
「信用できないか?」
「当たり前だろう」
私はアルコール抜きの果実酒...つまりジュースをひとくち口に含み、飲み込み。
その間に、クロスは腕の端末から何かの紋章を表示させた。
「これは?」
「平民には見慣れぬか? これは王族しか使うことの許されぬ紋章だ」
「はぁ...それで?」
正直、用事の理由がわからない。
王太子と名乗ることに何のメリットがあるのかな。
「我はお前を勧誘したい、仲間も含めて王宮騎士団に入る気はないか?」
「断る」
私にはお兄ちゃんに会う手段を探すという目的がある。
余計な寄り道は必要ない。
「我がお前に興味があると言ったら?」
「...同性に興味はない」
別に好みのタイプのイケメンでもないし。
お兄ちゃんみたいなタイプが本当のイケメンなんだよ。
「同性の何が悪い? 父上だって、美少年を集めておいでだ」
「だが、俺は嫌だ」
「そうか...我であれば、その仮面の下も愛せるというものであるのに」
「本当に?」
男好きなら、もしかして素顔を見せれば引いてくれるかな。
面倒な奴だし、幻滅してぶっ倒れてくれでもすれば...
「本当に、私が女だと知っても?」
仮面を解除して、彼の顔を直視する。
フィルター越しではない顔は、何だかずっと燻んで見えた。
「......」
「ゴホン」
私は仮面を戻して咳払いする。
そして、バーの店主を呼び止めた。
「何でしょうか?」
「支払いを、彼の分も」
「分かりました」
支払いを済ませると、私は固まってしまったクロスを置いてバーを後にしたのであった。
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