160-見誤った者達
「掛かったな」
帝国軍の第四十二先遣艦隊指揮官であるレイ・ハールは、獲物が網に掛かったことで薄く笑う。
「少し偽装した救難信号を出すだけで、船が引っかかっていく。この船を落とせばノルマも達成だ」
「しかし、救難信号の偽装は国際法で禁止では....」
「ここは戦場だ、敵を殺すのに法など関係ない」
レイはそう言うと、ワープアウトしてきた艦を見た。
一般的な戦艦サイズの艦。
識別コードはAD-Astral。
「ソロの傭兵か、まあいい。やれ」
直後。
アドアステラが発砲した。
その一撃は、一瞬で後方にいた駆逐艦に直撃し、シールドを破壊した。
「......駆逐艦狙いか! 全艦、攻撃開始!」
だが。
レイは気付かなかった。
アドアステラが、密かに輸送艦の機関をWDAで攻撃していたことに。
「包囲しろ、ワープさせるな!」
レイは信じ切っていた。
アドアステラが必ず逃げる可能性を。
自分たちを襲っても、何も得るものなどないのだから。
だが、
「なんだ、この攻撃速度は!?」
秒間二発の砲撃が、シールドの破れた駆逐艦をたった10秒程度で猫に弄ばれた段ボールのような無残な姿へと変える。
「全艦、独自の回避機動を取れ! 一度捕まったら終わりだぞ!」
これ程の強い力、長く維持することはできない。
そう勘違いしたレイは、散開するように命じる。
しかし。
レーザー砲、パルスレーザー、ミサイル、ドローン、戦闘機。
それらをフルに使うアドアステラは、駆逐艦、巡洋艦を前菜代わりに平らげる。
蜂の巣のようになった艦の残骸が舞う。
「な、何なんだあれは.....」
その恐るべき火力が、戦艦に向けられる。
「だが、この帝国式アトラー級ならば!」
無駄だった。
レイの希望も、たった十秒で打ち砕かれる。
砕け散るシールド、装甲が剥がれ落ち、内部での爆発で轟沈する戦艦。
アドアステラという怪物を相手にするのに、16という数はあまりに少ない。
「.......反転! 二隻だけでもいい、離脱するぞ!」
「はっ!」
『り、了解!』
急いでレイは、仲間を率いて離脱する。
その判断は確かに正しかったが....
「ダメです、ワープできません! 何らかの妨害を受けている模様!」
「バカな、そんな技術、一隻の艦に積めるはずがない!」
インターディクション発生装置は、戦艦にすら積めるものではない。
それに必要な機構と、エネルギー転換装置が幅を取るためだ。
「......レイ上級士官、どうか我々を置いてお逃げください」
「何を馬鹿な事を。帝国軍人たるこの私が、部下を置いて逃げるわけにはいかない」
「....どうか、救援をお呼びください。我々は構いません、貴方だけが生き延びれば、帝国の勝利です!」
「馬鹿が、そんな事が出来る筈なかろう!」
レイはそう言ったが、部下が指を鳴らすと、数人が立ち上がって彼を拘束した。
「な、何故だ! 裏切ったか! クソ、こんな傭兵一人に怖気付いたと思われるのがどんなに恥か分かっているのか! 死なせろ、死なせてくれぇっ!!!」
「申し訳ございません、レイ様」
「やめろおおおおおお!!」
レイを乗せた脱出ポッドは戦艦から切り離され、ロックオンされる前に離脱したのであった。
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