151-ナサトラ星系への旅路
「ねぇ、麗しの人」
「何だ?」
ブリッジで読書をしていた私は、後ろから話しかけられた。
「何を読んでるの?」
「新訳・魔界論。デュレオン・ネイクの新作」
この世界のエネルギー総量は宇宙が熱的終焉では無く熱量の飽和による破滅を迎えると示していて、それはどこか無限の存在する「魔界」よりエネルギーが流入して来ているのではないか、という頭がいいんだか悪いんだかよく分からない本だ。
「ラビも、ハイパージャンプ中は暇なんだし、読書でもしたら?」
「私はいいよ〜...麗しの人と一緒にいられるなら、それでいいし」
ラビも私を散々誘惑しているけれど、揶揄っているだけで私の同意なく襲ったりする気はないようで、ファイスは矛を収めた。
「戦闘機は使えるようになった?」
「うんうん。前使ってたフリゲートと操作感が似てるから」
それなら良かった。
戦闘機が一機出られるだけで、アドアステラの戦力は大幅に増加する。
ドローンではできない事が、戦闘機には出来るから。
「ところで、目的地はどこだっけ?」
「ナサトラ星系。とりあえずそこに向かって、その後周辺星系で依頼を受けていく感じ」
ナサトラ星系が位置しているのは、パールランド地域。
帝国軍との緩衝地帯であり、激しい戦争の舞台でもある。
「ビージアイナ帝国軍か...油断ならない相手だよ」
「交戦した事があるの?」
「まあね。麗しの人となら負けないだろうけれど」
ビージアイナ帝国は、女王ディーヴァ・ビージアイナが治める強大な帝国である。
王国と同じく貴族制だがその結束ははるかに強く、王国軍と拮抗するどころか凌駕することもあるくらいの実力者揃いなのだとか。
とはいえ、流石に先鋒は弱いはず。
「今、帝国軍は積極的に攻め入る姿勢を見せてないから、前線に残っているのは最低限の示威行為のための囮か、張子の虎ばかりだと思う」
「麗しの人、なかなかいい勘を持ってるね」
ラビは神秘的な面持ちで同意した。
ところで、
「麗しの人じゃなくて、カルって呼んでよ」
「どうせ偽名でしょ? 麗しの人♡」
「...」
ラビにバレるとは...
「私の本当の名前は、黒川流歌。だから、逆さにしてカル・クロカワ。文句ないでしょ?」
「分かったよ、カル」
ラビは頷いた。
その時、後ろで扉が開く。
入室して来たシトリンは席に座り、何やら何個ものウィンドウを浮かべて作業を始める。
「シトリン、何してるの?」
『ケイン様のパワードスーツの実戦データを統合しています。それに合わせてスーツのOSを最適化し、常に最良の動きが出来るように調整している最中です』
「なるほど、私のスーツも改良できる?」
『あちらはカスタム式ではないため、専門知識のない本機が行った場合未知の事態を引き起こす可能性があります』
成程。
色々な種族のいる軍人が使うことを想定されたケインのスーツと、私が使うことを想定したスーツでは仕様が違うのか。
なんにせよ、ケインが戦えるようになると常駐戦力が強化される。
ラビがいても充分だけどね、アリアとか非戦闘員を守れる戦力は重要だ。
「白兵戦にならないのが一番なんだけどね」
「それだと、私が全然活躍できないけど、いいの? カル」
「うん、アドアステラが艦隊戦で負けることはほぼないだろうし」
私はそう断言すると、読書に戻るのであった。
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