129-温度差も湿度も高い
依頼を完了した私たちは、PORSへと戻った。
ここでの生活を経験すると、お兄ちゃんも連れて行きたくなる。
お兄ちゃんは贅沢は大嫌いだから、あんまりいい顔はしないだろうけれど...いつもは私だけが行っていた分、お兄ちゃんにもこういうところで自由に過ごして欲しいとは思った。
「はぁ...」
『ご気分が優れませんか? 水分が不足しているのかもしれません』
「大丈夫。それより、高温だけど...シトリンは大丈夫なの?」
『ワタシたちは元々、100度までなら問題なく行動できるようになっています。ワタシは旧型ですが、その辺りの耐久性にご心配いただく必要はありません』
シトリンはそう言い切った。
場所はサウナである。
私が入ろうとしたら、シトリンも付いてきたのだ。
共有サウナは割と仲間たちと出会う事が多くて、会っていないのはついにノルスだけとなった。
「サウナの中で水分を摂っても、かえって暑く感じるだけだから」
『なるほど...有機生命体の感覚はワタシには分かりませんが、そういうものなのですね』
「そう、そういうもの」
シトリンも変わったなぁ。
前は会話というよりはセルフレジの進化版とやり取りをしているような感じだったのに。
やっぱり、カナード製の謎パッチの影響なんだろうか?
「それにしても、表情が多いよね。シトリン、それは何パターンあるの?」
『分かりません、人の表情データを読み取って変化させていますので...』
シトリンの顔はディスプレイになっていて、HUDとして使うこともできるけど、基本的には顔を表示している。
この顔が、とても表情豊かなのだ。
笑うだけでも数パターンあるし、焦っているときは口調こそ焦っていないが表情に変化がみられる。
本当に、見ていて飽きないなぁ....
「ところで、シトリンの強化計画についてなんだけど」
『ワタシを、ですか?』
「うん」
私は前々から、艦内防衛にシトリンを使おうと思っていた。
バトルドロイドやメンテナンスボットの指揮権を任せたり、単体での戦闘能力を高めたり。
『ワタシをアップグレードするより、最新型を導入された方がよろしいかと.....』
「私もそう思ったけどね、シトリンは仲間だから。シトリンを無視して新しいアンドロイドを導入するのは無理だよ」
『.....そうでしたか』
既にシトリンの古かったボディは、スリーパードローンの技術の応用で修復されている。
カナードから託された、無機物構造体疑似生体化プラスミドとかいう謎のアンプルで修復した。
一本を実験室の床に落として割ったので、残りは一本だけだ。
一応これの効果としては、シトリンが未知のコンポーネントに対して適応しやすくなるといったもので.......
「あ、あれ?」
その時、私は急速に自分の視界が遠ざかっていくような感覚を覚えた。
そして、自分が今までどこにいたかを思い出す。
『マスター!!』
「だい、じょうぶ.....」
けれど、私は抗うことなく意識を手放した。
次に目覚めると、医務室の医療ポッドの中だった。
すぐにハッチが開いて、シトリンが覗き込んできた。
その顔は、泣き顔だった。
『マスター......ご無事ですか!?』
「うん、大丈夫」
『気を付けるべきでした.....マスターの健康管理は、ワタシの役目ですのに....』
「....シトリン」
私は起き上がって、シトリンを抱きしめた。
シトリンは察したようで、姿勢を低くしてくれた。
まだ余熱が残っているようで、シトリンの体は少しだけ暖かかった。
「もしこの先の戦いで、私の命が危なくなって、そばにシトリンがいたら.....」
私は一つだけ頼みごとをする。
それはシトリンにとっては重いものになるかもしれないけれど.....
「私に、とどめを刺して」
『....な、何故ですか?』
「負けたら、終わりだから。私にとどめを刺したことを、お兄ちゃんを探して必ず伝えて。お兄ちゃんなら、死んだ私の事なんてどうでもいいと思うけれど」
お兄ちゃんの役に立てない私なんて、死んだところでお兄ちゃんにとっては痛くも痒くもないだろうから。
『....................................はい』
私に抱きしめられながら、シトリンは頷いたのだった。
長い沈黙の後に。
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