115-素 顔
こうして、ネセト星系は奪還された。
私たちの艦隊は、そのままアルカのスターゲートを潜り、陣地を構築する....はずだった。
しかし、アルカ星系は少し様子が違うようだ。
「アルカ星系のステーションと連絡が取れたが、どこも全く問題がないようだ....ただし、待ち伏せにあって艦隊は大体全滅している」
「つまり、この星系は占拠されていない?」
私は疑問に思った。
奴らの法則に従うなら、この星系にもあるステーションを巣として潜伏する筈。
「いや....全く分からない、そもそもこの星系のスリーパードローンがどこに集結しているのかも分からない」
「それで」
私はとりあえず疑問を棚に上げて、尋ねる。
「どうして俺は、お前と食事をしている? 仲間はどこへ?」
「お前の仲間たちは、豪華な戦勝ビュッフェスタイルのディナーにご案内した」
「俺もそちらに行きたいのだが?」
「惑星環境下で作られた超自然食材のフルコースに、何か文句でもあるのか?」
この世界では、惑星環境下で無農薬栽培された野菜や無調整環境下で育った畜肉、魚介類は超高級品だ。
私の収入でも、毎日三食食べてたら一瞬ですっからかんになる。
「どうして、俺をここに?」
「勝利の英雄様が、あの中に現れれば確実に食事など落ち着いて楽しめないぞ?」
「そうか」
私は運ばれてきたプレートの上の料理を見る。
一般的な料理のように思えるが、素材が高いんだよね。
「......」
暫く無言で食事を続ける。
というか、久々にトマト味以外の料理を食べたような....
トマト風の何かの缶詰の備蓄だけは、三か月分くらいある。
「ジスト星系は研究機関が多いからな、培養肉や人工肉の種類も多い。だが、結局は本物の肉には勝てない....面白いと思わないか?」
「感情の問題だろう、培養肉の素材は自然素材の畜肉だし、人工肉はバイオテクノロジーによる肉に遥かに近いものだ、味も風味も、食感も変わらない」
私の回答に、シラードは暫く食事の手を止める。
「つまりは、物の価値とは結局人間の感覚によるものだと?」
「貴族様は、こういう話は不快か?」
「いいや、面白い視点だと思ってな。こう贅沢を続けると、高級とはどのようなものかと悩むことも多いんだ」
「そうか....」
私はシラードの意図が掴めず、スープに手を付ける。
その時。
「お前、女だろ?」
「.....!」
唐突にシラードが、核心をついてきた。
「...いきなり何を」
「たまに通信で、声が変わるから疑問に思ってたんだよ。こうして何度か招いて動きを見たが、流石に綺麗すぎる」
観察されていたのか。
道理で、ディナーに招いたり私的に話したりするわけだ。
「で、どうする? 俺の正体を喧伝するか?」
「いいや? どうせお前のことだ、女だとナメられるとか、面倒が多いとか思って隠してるんだろ?」
「そうだが....一番の理由がある」
「ほう、聞こうか」
シラードの意表を突くため、私はとある理由を語る。
「かっこいいからだ」
「へぇ....ッ!?」
シラードの意識が一瞬そちらに向いた瞬間、私は椅子を蹴倒して銃を抜く。
「俺をやる気か?」
「アレンスターにも続き、貴族というのは本当に面倒だ、どうしてわざわざ隠しているものを引き出したがる?」
男が女性に向ける視線は、とても嫌なものだ。
「あぁ、俺がお前をエロい視線で見るとでも言いたいのか?」
「勿論」
「俺はそんなに趣味の悪い男ではない」
「......そうか。ならいい」
私はニケをしまう。
その時、扉が開いて衛兵が入ってきた。
「シラード様、如何いたしましたか!?」
「いや、大したことではない。俺が彼に失礼なことを言ってしまっただけだ」
「....そうですか、失礼いたします」
衛兵は去っていく。
その背を見送る私に、シラードは言った。
「俺は趣味の悪い男なので、男装してまで日の目を見るお前に興味があって、少し驚かせてやりたかっただけだ。済まない」
「こちらこそ、銃を向けてしまった。貴族にするべき行為ではなかった」
「顔を見せてくれたら、不問にしてやってもいいぞ?」
「仕方ない.....」
その日、私の顔を知る者が一人増えたのだった。
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