110-フルコース
数時間後。
センティネルの将官用レストランに、私たちは集合していた。
既にメニューを決めてあり、
『食前酒(私たちが飲めないのでカット)』
『ディーゴのローペ風シシラ(前菜)』
『ターパ(スープ)』
『クトリア(魚料理)』
『ピロエットル(肉料理)』
『ナカロ星系風サラダ(サラダ料理)』
『キロマーサ(デザート)』
という、正確には順番も役割も違うけれど、フルコースのような料理が振舞われた。
私たちはそれを頑張って食べる。
この世界でもナイフとフォークが健在でよかった。
流石に多民族国家だけあって、厳しいマナーとかは特にないようだ。
「ディーゴ星系から仕入れたソースを使った前菜だ、楽しんでくれ」
「美味いな」
「...ぼく、これあんまり好きじゃないかも」
ケインが見た目より幼いことは説明済みなので、誰も目くじらは立てない。
むしろちょっと辛めなソースは、ファイスやアリアにも不評そうだ。
私は食べるけど。
「君はどこの生まれなんだ? なんでアレンは君を重用する?」
「別に、アレンスターとはただの友達だ。生まれは.....済まないが黙秘する」
「そういえば、ディラボーンの生まれという線もあるな」
知らない名前が出てきた。
後で調べたところ、大昔に大きい勢力に喧嘩を売って滅んだ国の首都星系の名前らしい。
「これはどこのスープなんだ?」
「これはオルトスの一般的な伝統料理だな」
「おっと」
ターパは何かのポタージュといった様子だった。
特に抵抗もなく平らげる。
「ところで、そのマスクの下は見せてくれないのか?」
「見せる理由がないだろう?」
演技するために毎日発声練習をしているのに、マスクを脱ぐ理由はない。
例え未来の世界だろうと、”女性”と”男性”では扱いが全く違う。
どうせシラードも、私が女性だと知ったら態度を変えるはずだ。
「クトリアはフォービュラの名産だな、過去に持ち出しが横行して、規制法が施行されるまでの間に、他の星系でも養殖がされてしまったんだが....原種は人気が高いぞ」
「そうか」
確かに、白身魚特有の崩れやすさを持った魚料理で、日本料理でよく使われる御酢みたいなソースが掛かっている。
思えば、高い料理はお兄ちゃんは食べたことがないんだよね。
いつも私を一人で行かせて、お兄ちゃんはインスタントラーメンで済ませてたから。
成人して自分で働くようになったら、そのお金でお兄ちゃんをフレンチに連れて行くのが私の夢だった。
「ピロエットル、本当に人気だな」
「食べたことがあるのか? まぁ、ガゼラークの伝統料理だからな」
シラードは、ピロエットルの発音について、ピーロ↑エットルが甘辛肉。ピロウ↓エットーが揚げ鶏肉という蘊蓄を私たちに語ったが、私はそれに興味がなかった。
この辺で私はお腹がいっぱいになって来たが、年相応のアリアを除いた全員はまだまだ食べられるようだった。
黙々とサラダを食す。
「ナカロ星系と名はつくが、ナカロ星系はもう存在しない。ビージアイナの侵略で併呑され、ガジアズ星系と名を変えてしまった...だが、ナカロの料理人はその名が忘れられないよう、この組み合わせのサラダにナカロ風と名を付けたんだそうだ」
「ビージアイナ...確か、オルトス王国の数ある敵対国の一つだったな」
「そうだ。冷酷にして残虐な女王ディーヴァをトップに、弱肉強食をモットーに生きる強力な国家だ。奴らは占領地に対して一切の容赦はしない。住う者は皆奴隷にされ、民族・文化・風習・宗教は全て塗り潰される」
ビージアイナ帝国。
その名が出る時は、決まって私の出自が疑われた時。
オルトス人は彼らを憎悪するけれど、そこには明確な理由が存在しているのだろう。
「さあ...デザートだ。そちらのお嬢さんのお気に召すかな」
「う...」
アリアはあまり甘いものが好きではない。
嗜好の問題ではなく、何かしらのトラウマがあるみたいだ。
「キロマーサはキロマイア皇国の伝統的なデザートだ。実は俺も食ったことが無い、機会がなければ食べられないが、今回はたまたま流通に乗っていたものを確保した形になるな」
キロマイア皇国とオルトス王国は離れすぎているため、殆ど流通には乗らないそうだ。
キロマイアでしか採れないハーブを利かせた氷菓であり、かなりの高級品らしい。
私はそれを前にして、目を輝かせる。
結構美味しそう。
「あの...ご、カル船長、これをどうぞ」
「ああ、ありがとう」
一応外では、ご主人様呼びはさせていない。
アリアからキロマーサを受け取り、私は慎重にキロマーサにスプーンを突き立てた。
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