106-彼の言い分
『やぁ。君は、僕を倒したようだ――――だからこそ、あの男の本性を知るべきだろうね』
そんな言葉と共に、記録は始まった。
あのいけ好かない男の言葉は、軽いようでいてずっと重かった。
『僕の生まれはジストプライム。カスクレイ家に生まれた。軍部の重鎮である父は、僕に対して厳しく当たった。でもそれは、母親の急逝もあったんだろう。彼には子供の育て方がわからなかったのだと、今は思うよ』
彼は、愛されずに育ったようだ。
だが何より、彼にとって屈辱だったのは――――軍人の才能がなかったことだろう。
運動能力は低く、瞬発力といった知覚能力も低い。
『IQは高かったけれど、父は”カスクレイの血筋は軍人に”という考えを曲げなかった。結果として僕は、軍人になった』
軍人になり、軍に勤務するようになったそうだ。
父親のコネも使えず、軍人として一から勤務すればその軟弱な精神も鍛えられると、ゼーレンは思っていたらしい。
『酷いものだったよ。貴族の中でも位が低く、能力が低い僕は酷いいじめに遭った。才能を生かせない場所で、体も精神もボコボコにされたのさ』
そして、軍隊からなんとか脱出したカナードだったが。
父がカナードに投げかけた言葉は、「なんと軟弱なのだ」「生きている資格もない」といった心無い言葉だった。
『その言葉で、僕は家を出たよ。見返してやるつもりもなかった、ただ自分の頭にある何かを形にしたくて、起業したのさ』
事業は次々とうまくいった。
カナードはそれでも、父親に愛を求めたが、にべもなく断られた。
『結果として、僕の事業は軍に大きな影響を与えるようになった。父親も僕には強く出られないようになったけれど、僕と父の道は完全に決別した』
そして彼は、悪の道に走った。
『ある時、僕は遺跡から発見されたというスリーパードローンの研究を始めた。そしてすぐに、疑似生体兵器という結論にたどり着いたよ。それを人体に応用できるか、何度も何度も試したさ』
しかし、すぐに行き詰った。
そう簡単に研究が進むなら、既にほかの研究者が形にしているだろう。
『仕方ないので、機械方面でも研究を進めた。それによって生み出されたジェネレーターやパワーコアなどの装置は、軍部に飛ぶように売れた。ビージアイナ帝国に押され気味だった王国が盛り返したのは、ライズコーポレーションのおかげでもある。』
そのうちライズコーポレーションは複数の企業と合併し、事実上の併呑を行ってライズ・コンソーシアムへと変わった。
『規模が大きくなったことで、僕は裏社会に触れる機会があった。その際に、違法奴隷に触れて――――思ってしまったんだ。人に対して実験を繰り返せば、この技術を完成に近づけられる――――ってね』
それは禁忌の発想だった。
カナードは違法奴隷を初めは少し、そのうち大量に購入し、動けないようにした彼らに大して注射やインプラントを施し様子を見た。
その殆どは死ぬか、苦しみ抜いた上であの研究施設の培養層の中で永遠に苦しみ続ける存在になった。
『そのうち、遺伝子の操作技術の応用で人とそれ以外の生体組織を接合する手段も思いついた。僕はキメラを作り、それを裏社会で売買することで研究資金を得た』
奴隷を買うのも、素材を集めるのもお金がかかる。
なので、簡単に済むキメラ制作で稼ぎ始めたそうだ。
『裏で得た金は、コンソーシアムに流してマネーロンダリングをしていた。君が依頼完了の際に受け取った金も、そうかもしれないね』
「野郎.....なんて事を.....」
資金洗浄の片棒を担がされていたとは。
とはいえ、露見しなければ問題はないだろう。
私に非はないし....
『最終的に、ほぼ完成に至ったインプラントによって、僕は人を超えた。だが、セーフモードとはいえ、僕は君に圧倒された。正直言って、これが惚れた、という感覚だったのかもしれないね。僕は君への対策を万全に練った。もし僕が負けて、これが君の手に渡るなら、と考えてね...これを送ることにするよ』
その時、データの自動解凍が始まる。
そのフォルダの中には、カナードの研究成果やその設計図などが入っていた。それから、何かの追加パッチも。
『君の乗員のアンドロイドに使うといい、戦闘型だけではなく、多機能型...それこそ、人間に程近い感情を持つことができるだろう』
「どうして、そこまで...」
『君は今、どうしてそこまですると思ってるんだろうね。...僕にも分からないさ、これは僕が生きている間に遺す、君への慰謝料さ...それから、このビデオは自動で消滅する』
「あっ」
直後、ビデオが勝手に削除され、追加でいくつかのデータが解凍された。
その中にある、『After Deleted』というデータを開くと、声が再び流れ出した。
『父上に見せる用の編集済み歴史ビデオと、ライズ・コンソーシアムの株券を同封しておくよ、君への追加慰謝料というわけだね...では、死後の世界で待っているよ』
それだけ言うとビデオは終了し、またもや自動で消えた。
同封されていた株券データは、配当だけでステーションが一個買えそうな程だった。
「流石に身に余るな...アラッドにも半分渡しておくか」
あの二人も無事だったらしい。
今は、ソーラルを入院させて、キメラから元に戻す治療をしているそうだ。
足はもう元には戻らないそうだが。
治療費の足しにでもして貰おう。
「やれやれ...報酬の先払いは期待できそうにないな」
アラッドは当分、私に報酬なんか払える状態ではなくなるだろう。
私も、困っている人から多額の報酬を受け取るのは少し辛い。
「...そうだ」
私はアラッドに、『今回の件、報酬は貸し一つだ。精々弟を治してやれ』とメールを送った。
そして、急激に襲ってきた眠気に抵抗できず、ベッドへ横たわるのだった。
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