103-『オマエノ ノゾミハ ナンダ?』
片腕を失ったカナードだったが、その動きはほとんど変わらない。
カルは防戦一方であり、ファイスはコンバットバトンを捨て、その膂力でカルのサポートに回っていた。
「無駄! 無駄! 無駄だっ!!」
カルは弾き飛ばされ、ファイスは地面に叩きつけられる。
左腕の骨が折れているために、うまく受け身が取れないカルは、地面を転がることで衝撃を分散する。
だが、勝機は全く見えない。
「無駄なことはやめたらどうだ!」
「無駄ではないから、やめる気はないな!」
カルは再び、カナードの足元を銃撃して配管を破壊。
カナードはその勢いを受けて吹っ飛ばされた。
「やるね――――だけど、見えているよ!」
「くっ!」
動体視力すら上がっているカナード相手に、カルは難なく捕らえられる。
「まったく.....不意を突かなければ武器も効かないというのに、よく頑張るね――――君は」
「不意さえ突けばいいんだろう?」
「もう突くことさえできないだろうね」
カナードはカルの首を握り、持ち上げる。
いかにカルが常人ではありえない技量を持っていようとも、重機並みの力で首を絞められれば、ただ死に向かうしかない。
だが。
「貴様あッ!!」
ファイスがカナードに組み付き、その強靭な咢でカナードの肩に噛み付いた。
「.....痛いじゃないか」
「くっ.......!」
カルは苦し気にファイスを見る。
牙がほとんど通っていない。
「お前は.....それで.....いいのか?」
「構わないさ」
最早どんな言葉もカナードに届かない。
つまり、挑発して抜け出すことは不可能。
そう判断したカルは、その場でマスクの解除スイッチを押した。
マスクが解除され、カルの顔が露になった。
「え.....君は......!」
「ハァッ!!」
折れた左腕を無理に動かしつつ、カルは再び至近距離でのカルセールを放った。
最後の一発であり、これで倒せなければ――――
「お......驚いたよ......君は女性だったのか」
「......っ」
避けられた。
カナードは撃たれた胸を再生させていく。
狙っていた腕に当たらなかったのだ。
カルはカルセールを優しく仕舞い、傷む腕を抑えて立ち尽くす。
「それで、私は可愛いかな?」
「勿論.....と言いたいところだけどね、見慣れない民族だからかな.....僕には少しわかりにくいところではあるよ」
会話は続いているが、カルの焦りは最高潮に達していた。
自分は負傷し、ファイスの力をも超越したカナード。
カルセールはエネルギー切れ、ニケではカナードに傷を付ける事はできない。
アドアステラの砲撃では、この研究施設まで砲撃は届かず、外部からの援護も期待できない。
背後にいるアラッドすら、生きているかどうかも分からない。
「............ちなみに、降伏すると言ったらどうなるかな?」
「勿論、命だけは助けてあげるよ。そこの犬コロと混ぜて獣人にしてあげようか?」
「.....」
勿論、そんな事をされたなら....兄に不気味だと思われるに違いないと、カルは冷や汗を流す。
「兄に嫌われそうだね、それは....」
「安心していいよ。君の兄とやらも、いずれは僕の作った兵器で死ぬんだ」
「死ぬ?」
カナードにとっては、今までの会話と同じノリで発した発言だったのだろう。
だが、返ってきたのは――――地獄のように冷たい声だった。
「何も間違ったことはないだろう? 君の兄だって人間に過ぎないんだから」
「お兄ちゃん、はぁ......!! 死なないッ、絶対に!」
「無駄だと、言っているだろう?」
カルは理性を失ってニケを連射するが、そのうちエネルギーが切れる。
カナードには一切の傷がない。
「いい反応を見せてくれたよ」
直後。
カルは不思議な感覚を味わった。
自分に向かって肉薄してくるカナードが、ゆっくりとした動きになり始めたのだ。
「――――?」
『オマエノ ノゾミハ ナンダ?』
視界が白く染まり、再び”あの声”がカルの耳に届いた。
『オマエノ ノゾミハ ナンダ?』
「強くなりたい――――お兄ちゃんを守りたい.......仲間たちを...悲しませない力が欲しい!!」
そして。
カルの声を聴いたナニカは。
『ソンナコトデイイノカ』
と、不思議そうに尋ねた。
だがカルは、迷わなかった。
直後――――
『ナラバ、授ケヨウ――――何ヨリ、大キナ”力”ヲ――――!!』
「うぉおおおおおおおおおお!!!」
カルは慟哭した。
それに頼らなければ打破できない現状を。
そして――――不甲斐ない自分に向けて。
「――――さようなら」
時が動き出す。
カナードが振り上げた拳がカルに迫り――――
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