表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帰世部  作者: 凛快天逸
9/19

最後の部室使用日

 秘密の部屋にある部室に訪れる最後の日。その日の放課後、部員全員が集まって会議をしていた。議題は脱出計画の概要の説明と、その他だった。


 「でも、既に俺たちの計画はバレてるんだよ。それなら、どんな作戦を練っても、意味あるの?」

 というのが俺の疑問だった。俺はテーブルの前に座っている。

 そこで答えたのは、対面に座る章だった。

「もちろんだ。なんせ俺たちには、秘密の作戦があるんだからな」

「秘密?それってどんなのなんだ?」

「まあ、聞いて驚け」

 すると章は布を取り出したのだ。


「布?」

「いいや、これは垂れ幕だ」

「あ、そうだった」

「ほら」

 章が手渡ししてきたので、俺はそれを受け取る。普通の布よりもかなり分厚く、頑丈である。だが表面には何も記載されていない。つまりこれはどこかの部活に属するものじゃないのだろう。


 だからと言って何なんだろう。別に垂れ幕なんて、特に役に立つようには思えない。

「でもこれがどんな役割を果たすの?」

「おっと、こいつも必要だったな」

 と言いながらさらに奥から持ってきたのは、糸だった。

「糸?」

「ああ。でもこれはただの糸じゃなくて、金属糸だ」

「ふーん」

「ほら」


 同じく手渡された金属糸を受け取る。かなり細くて、しかし強度が強く、余程の力が働かなければ途切れる事はなさそうだ。そして何よりも長い。

 垂れ幕と金属糸。それが意味するものとは。

「うーん。やっぱり、わかんない」

「そうか。まあ、これは結構、発想として難しいからな。別に仕方ないさ」

 と言いながら、章は垂れ幕と金属糸を取る。

「んじゃ、説明していくぜ。そうだな、まずはこれを持ってっと」

「うんうん」

 頷きながら、俺はただ説明を聴いていた。


「垂れ幕の上部分にまず糸をとっつけるだろ。それからさらに下の部分にも別の糸をつけるんだ」

「それって何の意味があって?」

「下に通す糸はな、なんと校庭の門辺りにある木に巻きつけるんだ。屋上から壁面に伝わせて、校庭を通り、そして最終的に木の頑丈な部分にグルグルってな」

「うん」

「そうすると、屋上から垂れ幕を放つ時、どうなると思う?」


 とクイズを出されたので、俺は脳内でシュミレーションしてみた。

 垂れ幕の上には糸がついているので、もちろんそれは屋上の端から吊るされるだろう。でも下の部分の糸は、離れた校庭の木に繋がっているから、そのまま垂れ幕は壁面に沿って垂直に垂れるのではなく、滑らかに、まるで空中に架かる橋のようになるはずだ。


「あ!!!」

 そこで完全に理解した。

「そうか!これで屋上から地上に移動できるんだ!」

「ビンゴ!」

 という俺の回答に、ぱちんと章が指を鳴らした。

「そうなんだ。垂れ幕は最高の脱出用具として使用できる」

「天才だ、章。君は天才」


 と褒めちぎると、そこで章は衝撃的な事実を公表したのだ。

「いいや、それは間違ってくるよ」

「え?」

 まさか天才の上に、謙虚なんて。このイケメン天才、謙虚は、一体どこに非の打ちどころがあるのだろうか、などど思考を巡らせていると。


「この計画は帰神が既に考案していたものだ。ただその記憶を未だに思い出せないだけさ」

「……」

 絶句した。まさか、こんな名案を俺が創り上げていたなんて。

 

「まあ、そういうことだな。まずは適当に俺たちが逃げるふりをしながら街に躍り出てから、一旦引き返して、校舎に逃げ込む。そして屋上まで限界まで釣ってから、垂れ幕で逃げるってわけよ」

「完璧じゃん」

「お前のお陰でな」

「どうも」

「いえいえ」

 そこでなぜか握手。


「でもこれって誰が作業するの?」

 という俺の質問に、答えのは、


「俺が木に巻き付ける作業をやる」

「僕が金属糸の糸の長さを計算する」

 豪田と数野が順に。

 そして最後に、瀬那が手を上げる。

「私が屋上で垂れ幕を貼り付けるわ」


 ようやく秘密の計画の概要の説明が終了。


「だから何かさ、記念に垂れ幕に書き込もうって」

「は?」

 突然の章の提案に、俺は頓狂な声を上げた。


「後、俺たちの帰宅部ってさ、意外と名前が的確じゃないと思うんだ」

 と言ったのは、誰でもない帰宅部副部長の章だった。

「それって、どういうこと?」

 俺が言うので、章が答える。

「だってさ、帰宅部って自宅に帰るからそう名前がついてるじゃん。でも俺たちは自宅じゃなくて、元の世界に帰ろうとしてるんだろ?」

「あ」

 瀬那がぽんっと手を叩いた。


「だから、この際に部活名を改名しよう」

 章はそのまま筆を持って、垂れ幕に書き込んでいく。

「えっと、帰宅部の宅の部分を変更してっと」

「ほうほう」

 他の部員が興味深そうに眺めるのを感じながら、章は書き込みを続けていく。


「出来た!」

 筆を置いてから、章は垂れ幕を取って、それを披露した。


 パチパチパチ

 というまだらな拍手の後。


「おう、悪くないな」

 帰神の感想

「うん、まあ妥当よね」

 瀬那の感想

「ちょっと字の歪みがあるね」

 数野の冷静な的確。

「もうちょっと字面の強さが欲しかったな」

 豪田の主張。

 という事で満場一致で部活改名。


「でもまだ余白あるよ」 

 数野からの指摘が入った。

「あ、ほんとだ」

 章は特に気にしていなかったようで、そこまで気づかなかったようだ。

「んじゃ、こういうのはどうだ?」

 すると章はそのまま誰の承認も得ることもなく、筆を取って、スラスラと書き込んでいく。


 そこには。

 ”帰世部 記念 初部活動 ”

 と記載されていた。


 そこでみんなが立ち上がって、テーブルの中央に手を伸ばし始めた。

「絶対に、みんなで帰世するぞ!」


「「「「「「おー!!!」」」」」


 そして、帰世部が発足した。



「後、もう一つだけ」

 帰世部員たちが部室から出ようとすると、章が告げる。

「これから俺たちは部活動に励む」

「部活動?」

「ああ。だって帰神、この世界であんまり運動してないだろ?」

「してない」


 そう指摘されると、その通りである。元の世界では薄っすらと帰宅部の部長として、まあ結構普段から運動はしていた。だからそこそこ体力や持久力にも自信はあったのだ。

 でも運動と脱出の2つに、一体なんの関連性が。

 などと思考を巡らせていると、章がその隙間を埋めてくれた。


「脱出する為には、結構長い道のりを走る必要性があるんだ。だからある程度体力をつけてからじゃないと厳しい」

 という章の指摘に、まず答えのは、瀬那だった。

「え」

「え?瀬那、どうしたんだ?」

「私さ、実はここで体重増えたんだ。どうしてか、知ってる?」

「は?さ、さあ?」

「この世界って、虚構じゃない?だから私、罪悪感じずに、暇な時はずっとジャンクフードばっかり食べてたんだ」


 瀬那の回答に、数野と豪田、そして帰神もあまり批判することはなかった。なぜなら、誰でも似たような行為はしていたのだ。

 気持ちはわかる。味も味覚も如実に再現されているから、ついつい食べすぎてしまうんだ。


「まあ、そういうことだな……とにかく、この世界でも筋肉という部分は再現されているから、これから部活動として放課後校舎周りを円周することに決定な」

 という章の独断に、誰も異を唱える者はいなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ