5話 二人目の転校生は美女
蝉しぐれの音はスポーツバイクの音によって掻き消された。
どうやらまたしても遅刻者がいるらしい。というのも既に時刻はホームルームの時間に突入しているのに、誰かが駐輪場辺りで自転車を停めているのだ。呆れたものだ。
俺の教室では、もちろん全生徒は集っていた。その中には昨日やってきた転校生である章も含まれる。恐らく今日も新しい転校生がやってくるなど、俺の思考の片隅にもそんな可能性が入る隙間などなかった。
廊下から鼻歌が聞こえてくる。これは担当教師のものだ。
というかいつも思うのだが、先生っていつもホームルームの時間を知らせる鐘がなった後に登場するのだが、あれって実は遅刻なのではないか。
などと思いながら、俺はただ章の後頭部を凝視していた。これといった理由はないのだが。それでもなぜか、視線が惹きつけられる。
「今日も転校生がやってきます!」
ガララと扉を引きながら、鯵剣がやってきた。今日もなんと転校生という大ニュースを持ってきた。流石に2日連続なら、あまり盛り上がらないだろうと、高を括っていると。
「うそ!」
「今日もだって!」
「やっぱりイケメンかな?」
「そうだって!間違いない!」
「じゃあ、やっぱり救世主かな!?」
「うんうん!」
どうやら彼女たちは変わらず盛り上がっている。
「うっそー。2日連続だってよ、帰神」
隣の姉岸が告げるので、俺が返した。
「なんか凄いね」
言いながら、俺は章の後頭部を眺める。彼はどうやら全く驚いていないらしい。ということはやはりこれも章は既に知っているのだろう。
「えっと、すこし遅れるらしいので、早速出席の確認しますねー」
鯵剣が出席簿を取り上げながら宣言。
「相原」
そして出席の確認が開始。
それから一分経過。
盛り上がりを見せる教室に、一人の少女が姿を現した。
「す、すいません!お、遅れました!」
と言いながら入ってきたのは、まさかの美女だった。ありゃ、これはイケメンでもない。なので教室は盛り下がりを見せるだろうと看破すると。
「きゃーーー!!!」
予想外の熱狂的な反応に俺は絶句した。
「かわいい!!!」
「え、あの人、モデル!?」
「まるで人形みたい!」
という感じで女子たちは別のベクトルでの興奮を見せた。そして俺も内心で喜びを見せていた。だって彼女は平均的な女子よりも圧倒的な美貌を誇っているのだ。
「ほらほら、入ってきてー」
「はい!」
溌剌として返事をしながら教卓に移動。
カツカツカツ。
という心地よい音を鳴らしながら、鯵剣は黒板にチョークを走らせる。黒板には、綾瀬瀬那と記述された。そこで俺は名前に何か間違いがあるのではないか、と幾ばくかの邪心を持って推測したが、その名前の持ち主によってたちまち否定された。
「私の名前は、綾瀬、瀬那って言います!えっと、父さんの仕事の事情で、あ、違う!えっと、その、お母さんの仕事の事情で転校生してきました!よろしくお願いします!」
「転校生してきました?」
辛い過去を匂わせる文面に対して、俺は口の中で言葉を鸚鵡返しした。自己紹介の中で彼女は何度もコケながら、それでも完了させた。
そして彼女は俺の机の前の隣、つまりは俺の左斜め前、つまりは章の隣に座った。
一日が開始した。