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帰世部  作者: 凛快天逸
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第二話 秘密の部屋まで

 転校生がやってきた放課後。

 転校生である章は俺を誘って、一緒に行動することになった。もちろん普段は姉岸とつるんで帰宅するので、俺はまず彼女に少しだけ断りを入れてきた。

「んじゃ、行こうぜ」

 授業が終わって弛緩した空気に満ちる教室内で、章が言った。

「ああ」


 というのも、章と俺は数少ない男子なのだ。いつも女子ばかりの環境で気まずさを感じている俺にとって、彼の存在はかなり安心を与えてくれる。例え彼が転校生であっても、既に友達とも呼べるような関係になっていた。


 章が席から立ち上がると、俺も同じ様に立ち上がった。それから教室を出る。肩を並べて歩くというよりも、章が先導してくれるみたいだ。と言っても、どこに行くのか、そして何をするのかも分からない。

 だがしかしこの転校生には鬼気迫るものがあったので、提案を断る事が出来なかったのだ。

 廊下を歩きながら、俺は肩越しに訊ねる。


「どうして君はそんなに不審者みたいに行動してるの」

 というもの、この転校生は一日中、視線を周辺に巡らせていて今も変わらないのだ。最初の方はクール系だと思っていたら、もしかしたら別属性の人間かもしれない。なんというか、まるでこの世界の住人に対して何らかの欺瞞心でも持っているかの如く、ただ異様な素振りを見せる。

「いや、まあ、色々な」

 章の返答は的を得ないものだった。

 

 何か事情でもあるのだろう、そう思って俺は深追いしないことにした。ときに、人間というものは人には言外出来ない事もある。それは誰だってそうなんだろう。

 それから少し経過。

 先頭を歩く章はある場所で停止した。

「多目的室?」

 僕は普段あまり使わない教室を前に、ポツリと呟いた。


 章は多目的室前で、まず中に誰も居ないことを覗き込んで確認した。そしてさらに再び周辺に視線を走らせてから、周囲に誰も居ないことを視認すると、

「よし、入るぞ」

「え?う、うん」

 まるでスパイのように扉から入っていく章の後に、俺も追従していく。


 多目的室は基本的に誰にも使用されていない部屋である。たまに進路相談とか、そんなイレギュラーな用途で使われる事もあるが、ほとんどは空き部屋として閑散としている。

 今日の放課後も例外ではなく、誰もいなかった。

 そんな部屋を章は迷うことなく、一直線上に突き進んでいく。そして彼は南側の壁際に到着すると、そこで立ち止まり、思考する素振りを見せる。


「な、なにしてるの?」

 果たして俺の推測は当たっていたのだろう。

 この転校生は明らかに異常である。俺はそう結論づけた。一日中キョロキョロしながら生活して、そして挙げ句の果ては壁際で何か考える。これは間違いなくヤバい人だろう、と。 

 そんな失礼な事、いや妥当な推測の元で思考を巡らせていると、俺は壁面に視線を送った。

「そういえば、ここ、何か変だよね」

 独り言を呟きながら、俺は一つの余念に駆られていた。


 多目的室の南側の壁面は他の壁と異なり、ただの漆喰塗りの壁だったり、コンクリートの壁ではないのだ。そしてこの壁だけはなぜが切れ込みが入っている。僕はこれを最初、建築した時のミスだったり、当初建築目的だった部屋が必要なくなり、それで名残としてこんなものが残ったのだ、などと高校一年の時から漠然と思っていた。

 なんて少しだけ懐かしみながら考察をしていると、章が一言言った。


「よーし。どうやらこの世界にもあるらしいな」

「この世界?」

 章の独り言のような台詞の中に変な部分があったので、俺は鸚鵡返しのように訊ねた。

 すると章は壁面から首だけを回して、満面の笑みを浮かべながら、告げる。

「ああ。実はな、帰神、この世界はお前が思っている世界じゃないんだ」

「は?」

 呆れたものだ。ここまで変人だとは、俺も思っていなかった。


「君って、変わってる。それもかなり。俺はそろそろ用事あるから帰ろうかな」

 と言って踵を返し、帰宅しようとした瞬間だった。


「よっこらしょ」

 だがしかし、章はそこで驚きの行動を取ったのである。

 なんと章は、切れ込みの入っている壁に肩を当てると、タックルするように押し込み始めたのだ。傍から見れば、滑稽な姿だ。しかしながら、壁は面白いようにスライドし始めたのだ。そして3つに分かれる壁面の中央部分が半分まで回転すると、隠し扉越しに部屋の内部が垣間見えた。

 

 僕の常識はそこで粉砕された。


「ひゅー。やっぱり結構力いるな。この世界にも物理って忠実に再現されてんのな」

「う、うそ」

 俺は驚愕した。まず今日転校したばかりの生徒がどうしてこんな事を知っているのか。こんな場所に、こんな隠し扉があるなんて、俺ですら知らなかったのに。

 あまりにも異様な状況に立ち竦んでいると、彼が額の汗を拭いながら、振り返って告げる。


「帰宅部へ、ようこそ」


「……」

 俺はあまりの驚きに打たれて、未だに返答できない。

 そんな俺を放っておいて、彼はさらに続ける。

「いいや、言い方が少しだけ間違ってるな」

 彼は一度天井を向いてから、言い方を改めた。


「帰神、帰宅部へ、おかえり」

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