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帰世部  作者: 凛快天逸
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第一話

 蝉しぐれの音は、ママチャリの音によって掻き消された。

 既に時刻は朝の8時を過ぎている。俺を含めて、1年三組の教室には全生徒が集まっている。つまり今は登校時間ではなくホームルームの時間であり、誰かが遅れて登校してきた事を意味する。


「こんな時間に誰だ?」

 俺は、隣の席に座る幼馴染である姉岸あねぎしまいに、話しかけた。

「さあ。誰か遅刻してきたのかな」

 なんて事を話していると、廊下から鼻歌が聞こえてくる。この陽気な声調には聞き覚えがある。


「なんと今日は転校生がきまーす!」

 ガララという音を立てながら扉を引っ張って、大ニュースとともに、担当教師が教室に入場してきた。

「転校生!?」

 突然のニュースに一生徒が声を上げた。


「ええ!」

 鯵剣あじけん理子りこという名前の担任教師は、数学の先生であり、かなり若い。女子大生のような風貌でありながらも、かなり教え方が上手で、生徒たちからの人気もある。

 だかしかし、その肝心な転校生の姿は見られず一人である。ただ虚しい。

「でも、その転校生ってどこに居るんですか。誰もいないじゃないですか」

 という生徒からの指摘に、教師は、

「あ、そうそう。少しだけ遅れてくるらしいわね」

 そうらしい。


 そんな間、教師は淡々とホームルームを開始した。

「それじゃ、出席取るからー」

 だがあまりのニュースに、教室中は興奮していた。


「ええー!誰だろう」

「イケメンかな?」

「天才かな?」

「それとも、救世主?」

 転校生という話題に盛り上がりを見せる教室。


 俺と姉岸と彼女の女子グループもそれにつられて、熱心に議論を交わしていた。

「て、転校生だって」

 俺の言葉に、姉岸は、

「誰なんだろう」 

 あまり興味はなさそうだった。


 それから一分経過。

「えっと次は、帰神きじん雷田らいだ君」

 出席確認が進んで、俺の番にまで回ってきた瞬間。

「はい」

 と返事をすると、扉ががらがらと引き開けられる。


「す、すいません。遅れました!」

 言いながら、教室に入ってくる一人の生徒の姿があった。

 間違いない。彼が転校生だろう。

「あ、やっときた。ほら、こっちきて」 

 教師が教卓前にこいと、手でジェスチャーする。


「うわ!イケメンじゃん!」

「ホントだ!でも天才かな?」

「いや、どうして天才じゃなきゃいけないのよ」

「ならやっぱりと、救世主とか?」

「だから、どうしてそんなだいそれたものじゃないといけないのよ」


 などど女子生徒たちから既に転校生は様々なレッテルを貼られていた。

 しかしながら実際、彼はイケメンだった。まさにアイドルのように美男子という感じの身なりと顔だ。それに服の上からでも分かるぐらい結構筋肉がついている。彼は女子にモテるであろう。




「えっと、ごめんなさい、帰神君。それじゃ途中なんだけど、転校生の紹介をしますねー」


 カツカツカツ。

 という快活なチョークの音が黒板を連続的に打ちつける。黒板には、福尾章という文字が担当教師によって綴られて、その名前の持ち主が教卓の前に立って、自己紹介を開始する。


「あっと、俺の名前は、福尾ふくおあきらっていいます。ちょっと父の仕事の都合で転校してきました」

 という質素な自己紹介だった。

 だが教室は沸いた。

「そうなんだ!ねえ、君って彼氏いる!?」

「そうそう、君ってアイドルに似てるって言われない!?」

 などど教室中は俺以外女子だけなので、やはりイケメンがくると、こうやって盛り上がるのだ。既に場は限界まで沸騰している。


「ほらほら、関係のない質問はしないの!」

 先生が生徒の淫らな関心を諫める。

「はーい」

 そこで教室の女子たちはがっかりして、しょんぼりした。

 静まり返った所で、先生が転校生に向き直して、こういった。

「えっと、これはあくまでただの純粋な質問なんだけどさ。君は年上の女性に対してどんな意見を持っているのかな?」

「は?」

 担任教師の謎の質問を聞いて、章は度肝を抜かれていた。


「やっぱり先生も興味あるんじゃん!」

「きゃははは!!!」

 と前回よりも教室は盛り上がりを見せた。

 そして。

「はーい。それじゃ、章くんは、底の席で良いわよね?」

「あ、はい」

 という感じで、章の席割りも決まり、移動を開始した。


「よろしくね、章くん!」

「ど、ども」

「君って、何部してたの?」

「ど、ども」

「ねえ、君って、本当にイケメンだね!」

「ど、ども」

 章が机と机を移動する間も、質問と激励攻めにあっていた。だが彼は全く興味がない素振りを見せている。ただキョロキョロと視線を合わせずに、飄々としているのだ。なんてクールなやつだ。女子には興味ないらしい。

 

 そして章が俺の机の前に到着すると、なぜか俺に視線を向けてきた。

「……」

「ん?」

 がんでもつけられたのか。

 という感じで一瞬、防御本能を発揮させてしまった。

 

 その時、出席の確認が再開。

「えっと、それじゃ、帰神君。今日も出席してるわよね?」

「あ、はい」 

 と担任から先程も出席の確認も取られたのに、もう一度名前を呼ばれてしまった。


「どうかしたの?章くん?」

 担任は異常に気付いた。転校生である章が、俺の前で停止しているのだ。

「あ、いや、なんでもないです」

 とそこで章が視線を俺から引き剥がした。


「?」

 だがその視線はあくまでも挨拶的な意味合いだったらしく、攻撃的な意図はなかったらしい。章はそのまま俺の前の椅子に座って、前を向いた。


「なんだったんだ?」

 俺は疑問を浮かべる。すると、姉岸が耳打ちしてきた。

「イケメンだけど、変だよね、ちょっと」

 早速、失礼である。

「さあね。緊張でもしてたんじゃない?」

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