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鈴鹿静時のオーナーブリーダー物語〜謎アプリを添えて〜  作者: 菅原暖簾屋
新たなる世代!

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庭先取引・内藤前編

 牧場の年明け一発目は庭先取引から始まった。

 正月ということで時間が取れた鉄工所社長の渡辺さん、地方馬の馬主資格を取ったばかりのコメディアンの内藤さん、レアシンジュの馬主であり写真家の螺子山さんをまず招待して、モウイチドノコイの38とウェスコッティの38を除く二歳馬、39年生まれの一歳馬をお披露目だ。

 

 馬というのは年替わりと共に歳をとる。

 生まれた年を当歳馬、そこから年を越していくと一歳馬、二歳馬となる。そして日本の競走馬として重要なのは三歳馬、この歳の競走馬をクラシック馬と呼ぶ。

 クラシック馬とは一生涯に一度しか走れないクラシックレースを走ることができる競走馬である。この競走に勝つことは非常に誉あることで、故に馬主、調教師、騎手たちホースマンはクラシック競走に勝てる強い馬を求めるのだ。


 なにが言いたいのかというと、うちの仔馬にはそれを狙えそうな仔馬が複頭数いる。

 ありがたい話ではあるが、誰に売るかという問題が同時に噴出する。利益だけのために馬を買う輩はもちろん論外として、クソローテを組ませるような奴も論外だ。優駿連闘させた俺が言うのもなんだが。

 だが、あれは手帳のサポートで大丈夫だと判断した結果の話であるから俺がやったということの前提で責任逃れのローテーションを組むのは許されない。

 親になるのだ、責任は最低限取ってもらわないとな。


 なので、今年は知り合いを優先し庭先取引。マッチングしなかった仔馬を二月に馬主許可が下りる≪桜花ホースレーシングクラブ≫で競走馬登録する。

 牧場の方針としてはよっぽどのことがなければ一度はレースを走らせるつもりなので、現在の一歳馬、二歳馬はほぼ確実に出走させることになるだろう。


 二月に許可、三月にいつの間にか牧場内に増設されていた優駿棟へ彼らを移送する。四月にクラブの一口馬主を募集開始するつもりだ。


 そう、最近全く確認していなかったがミッションをクリアしていたようで真夜中にいきなり≪牧場内に厩舎を増設しました≫って言われたときにゃあ慌てて家から牧場に着の身着のまま走ったわ。

 翌日の大塚さんの全てを諦めたような溜息が蹴られるより辛かった。


 そんなわけで、今は内藤さんを接待中である。

 残りの二人は馬を購入したので山田君と大塚さんが書類作って対応してるからね。


「僕がここにいていいんですかね?」


「俺が呼んだんですから、いいに決まってるじゃないですか」


 いかん、金持ち二人が即決したせいで内藤さんが卑屈になってる。

 数千万ポンと出すあの人たちの財布のひもが緩すぎるだけだから!


「僕あんまりお金ないんですけど…」


「大丈夫だから! 本当に最悪分割払いでいいから!」


「口調がマルチのそれじゃないですか!」


「誰が詐欺師じゃい!」


 ギャーギャー騒いでいると、内藤さんのオブザーバーとして同行していたウィナーズ競馬の放送作家の町下さんが口を開いた。


「内藤さん、まず予算を鈴鹿さんにお伝えするべきだと思います。鈴鹿さんにも譲れないラインがあると思うので」


 WeTube用の撮影カメラを向けつつ内藤さんを諭す町下さん。

 彼は地方競馬で馬を所有しているらしく、内藤さんの相談にもよく乗っているとのこと。確かにこれだけネガティブな意識を持っているならば予算を先に聞いて無理なら無理と言ってあげるのも優しさか…?


「とりあえず…。国産新車一台分ぐらいです…」


 やべぇ、俺がわかんない物差し使われた。


「五、六百万ってとこですかね」


 町下さんがフォローしてくれた。


「なるほど、それならば何を目指すかによって決めますか」


「目指す、ですか?」


「地方競馬で走らせ続けるか、中央競馬の認定レースに勝って中央に挑むかですね」


「そんなことできるんですか!?」


「ええ、登録料の九万円を払えば可能です」


「それなら中央を走らせた方が…」


 甘いんだな、その考えは。


「内藤さん、中央に出るってことは相手の格があがるってことですよ。つまり勝ちにくくなります」


 町下さんが俺の代わりに言っちゃった。


「地方と言っても千差万別ですしね。南関東に最初から所属すると全く勝てなくて預託料さえ稼げないなんてこともあります」


「えー、別の競馬場から南関東に転入はできるんですよね?」


「当然できます。条件付きですが」


「そ、それはどんな条件ですか?」


「簡単ですよ、年齢に応じた賞金を稼いでいれば転入できます」


 その額は二歳で五十万、三歳馬で百万円。四歳からは跳ね上がって五百万を越える。


「そうなんですか…」


「南関東の四競馬場だけは明確に地方競馬の中でもレベルが高いです。賞金も地方の中ではトップクラスなので中央競馬から転入してくる馬も多いですしね。それは内藤さんもご存じでしょう?

 まず内藤さんが選ばなければいけないことは明確な目標を決めること。ようは芝・ダートのどちらをメインで走らせたいかですね。

 芝ならば北海道の門別で認定レースに勝って中央入りが一番早いかと。逆にダート専門を選ぶならば最初から南関東四競馬場のどこかに所属したほうがいいと思います」


「それってなんだか…。目的と手段が逆になってないですか?」


 おそるおそる俺に尋ねる内藤さん。


「内藤さん、貴方の予算では普通は桜花牧場の馬を選ぶことからの馬主生活は無理ですよ」


 真剣な顔をした町下さんが答えてくれた。俺からは言いにくいからな。将来の展望を決めてくれるとこの子がいいってのをオススメしやすい。


「やっぱりそうなの?」


「ここまで育てるまでの餌代や人件費、種付け料を考えたら普通に足出ますよ。そうですよね?」


「まぁ、そうですね。38世代も39世代も種付け料が三百万越えの種牡馬しかつけてないので」


 下手に誤魔化すのもおかしいので事実を告げる。


「じゃ、じゃあなんで僕に馬を売ってくれるんです?」


「そりゃ有名な方が馬主になってくれたら、つられて別の芸能人の方も馬主になってくれて競馬界隈が盛り上がるかも知れないからですよ」


「そんな理由で!?」


「世の中には芸能人がやってるから見るって層が一定数いますから」


「認知されるって重要なことですよ」


 俺ら二人の反論に納得したようなしてないような顔で頷く内藤さん。

 釈然としてないな、あの顔。


「運が良かったと思ってください。とりあえず一晩考える時間を設けますんで真剣に悩んで後悔しない選択をお願いします」


「内藤さん、馬の一生を決める決断ですからね。中途半端はやめてくださいよ」


 頭を抱えて再び悩みだした内藤さんを置いておいて町下さんと雑談する。


「町下さんも地方の馬主ですよね?」


「ええ、内藤さん。とりあえず馬を見ますか? 鈴鹿さんいいですよね?」


「売約済み以外はお見せしますよ」


「それはそれでお財布を越えて気に入った馬を買ってしまいそうです…」


「言った通り最悪分割でもいいですから…。個人的には最初は強い馬を購入して自馬勝利の喜びを知ってもらいたいです」


 出会いは一期一会だからな、真剣に悩んでくれ。





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