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鈴鹿静時のオーナーブリーダー物語〜謎アプリを添えて〜  作者: 菅原暖簾屋
秋の大勝負! 白熱ジャパンカップ!
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年末テレビ特番 ジョッキー座談会2039 前編

 ここは銀座の高級鮨店、馬処。

 毎年年末のこの日には今年一年大活躍だった騎手が呼ばれ、多忙の中で語れなかったことを語りつくすそんな日。

 さぁ、今年のゲストはーーー?



吉:こんばんは。


 トップバッターで入口を開けて入ってきたのは今年もリーディングトップだった吉武騎手。今年で十七回目を迎えるこの番組で唯一皆勤賞の天才ジョッキーだ。


大将:いらっしゃい! どうぞカウンターへ。


吉:どうもどうも、今年もよろしく。


 大将が熱いあがりを吉に提供し、吉も喜んでそれを啜ると次のゲストが。


館岡:おっすおす、おやっさん久しぶり。


 二人目は館岡宏典。吉に次ぐ出演回数を誇るゲストだ。


大将:いらっしゃいませ。どうぞ吉さんのお隣に。


館岡:おう、他に誰が来るか聞いてるか? 吉。


吉:さぁ? まー、あの二人は来るでしょう。


館岡:そりゃそうだ。来なきゃ今年の振り返りできないもんな。


 がははっと大口を開けて笑う館岡にあがりを出す大将。

 会話の邪魔にならないように配慮するその姿は名店の主にふさわしいものである。


浅井:お邪魔します。


新田:こんばんは。


館岡:お、今年の顔の二人が来たな?


吉:典さんも僕もいいようにやられましたからねー。


新田:うわ、この番組って凄く圧かけてくるんですね(笑い)


浅井:大先輩と圧迫面接しながら飲むんですか(苦笑)


大将:まぁまぁ、後輩弄りはそこまでにして。どうぞお二人もカウンターへ。


 笑いながら浅井美香と新田良治の二人はカウンター席に座り、大将からあがりをもらう。


館岡:後は誰が来るんだろうな?


吉:あー、川地君とか海老名君とかですかね?


 ガラガラと入口が開き、入ってきたのは沼付≪ぬまつけ≫兼騎手。


沼付:残念、俺でした!


館岡:兼か! あー悪い、考えもしなかった。


沼付:ひっどい!


 あははと全員で大声をあげて笑う。大将は彼にもあがりを出し、切り出した。


大将:これで、ご予約のお客様は全員ですね。


吉:え? 五人? 少なくない?


館岡:いつもなら六人ぐらいいるよな?


大将:へぇ、今日は新入りがいますんで。多くのお客様がいらっしゃり粗相をするといけませんから。(笑い)


吉:大将、笑いが抑えきれてないよ。


新田:一体何が…。


大将:それでは新入りを呼ばせていただきます。おーい。


 厨房から、ぬっと出てくる割烹着姿の鈴鹿。


吉:ぶっ。


館岡:はっはっはっはっは! そうきたか!(爆笑)


浅井:ああ…。(諦観)


新田:油断してましたね。(諦観)


沼付:あ、初めまして。


鈴鹿:どうも、新入りです。副業でブリーダーをやってます。


新田:副業!(爆笑)


浅井:閻魔様に舌引っこ抜かれますよ。


大将:大物です。


吉:んふっ。


館岡:そりゃそうでしょ。(苦笑)


沼付:今年の競馬界の顔みたいな人ですよ。


ーーーそれでは今年一年を振り返っていきましょうか。


浅井:ディレクターさんから進行指示が来ました。


新田:大丈夫なんです? あの人、ガッツリ日本酒飲んでますけど。


吉:いつものことだよ。


沼付:肝臓が鉄でできてるからあの人。


ーーーまず、クラシック競走から振り返りましょうか。


大将:新入り、読み上げ頼む。


鈴鹿:へい、今年のクラシック競走の勝利馬を読み上げます。

 桜花賞・グリゼルダレジェン。皐月賞・レイリーヒッグス。優駿牝馬・グリゼルダレジェン。東京優駿・グリゼルダレジェン。菊花賞・アーヴルテラス。以上の競走馬です。


沼付:いつ見ても優駿連覇が狂ってる。


館岡:俺は桜花賞より前哨戦のチューリップ賞が死ぬほどきつかったことが一番印象に残ってる。


鈴鹿:やはり四頭大逃げはきつかったですか?


吉:G2なのに走り終わった後は身体が千切れそうでしたよ。


新田:大逃げに慣れていた僕でも位置取りがいつもと違って、体重移動を細やかにしないといけなかったのでフラフラでしたね。


浅井:あのレースの後に本格的に背筋鍛え始めました。


ーーー外から見るとよくわからなかったんですが、かなりのハイレースだったんですねえ。


新田:パル子、ああ、レアシンジュのあだ名なんですけど。彼女で逃げるとレースコントロールしやすいのであそこまできついことは殆どなかったですね。


沼付:そんなに一緒に走ってないけどさ。グリゼルダレジェンがいるとペースが狂うんだよね。


大将:そうなんですか?


吉:うん。最後方にいるとプレッシャーが凄いんだよ。大将も凄腕の料理人が真剣に火加減とか見てるとき存在感があるって分かるでしょ? あの感じかな。


大将:なるほど、あまりに集中しすぎて視線が周りに圧をかけてるんですね。


館岡:そんな感じだわ。俺たちは慣れてるからいいんだけど、奴さんパワーもあるから前に出る時の音で馬がビビるのよ。あれが一番きついな。


新田:あー…。桜花賞の時にゴールライン手前でそれになりましたね。パル子がグリゼルダレジェンを見ようとして微妙に失速したんですよ。その差で負けました。


浅井:大声出しましたもんね、聞こえてました。グリちゃん完全に無視して前だけ見てましたけど。


沼付:ゾーンにでも入ってたのか? 本当にすごいな、あの馬。


浅井:吉さんはお分かりになると思うんですけど、操縦しやすいんですあの子。賢さは現役ならトップじゃないですかね。


沼付:羨ましいわ。(嘆息)


吉:俺と兼はね…。


ーーーミスター気性難ですもんね。


館岡:がっはっは! そのとーり!


浅井:でも凄いですよ。私、沼付さんのお手馬に乗れる気がしないですもん。


新田:死にたくないです。


沼付:おい! 流石にちゃんと走ってくれる馬もいるよ!


館岡:そっち数えたほうが速そうだな。(笑い)


沼付:否定はしませんけど。(笑い)


ーーー皐月賞を獲ったのはその沼付さんでしたが。


沼付:あー、レイリーヒッグスはね…。新馬、ホープフル、弥生賞、皐月といって完璧だったんですけどね。


鈴鹿:私はホープフルステークスの時に遠からず壊れるなと思ってましたね。


大将:そうなんですか!?


吉:大将、キャラがもう。(笑い)


ーーーそれは何故でしょう?


鈴鹿:脚の筋肉ですね。レジェンが今年まで怪我がなかったのは、ケアもありますが四肢の肉がとても柔軟性が高いんです。だから多少の無茶をしても大丈夫だった。

 でも、レイリーヒッグスは太ももは柔らかかったんですが肝心の衝撃を和らげる脚の筋肉がそこまででもなかったんです。ダメージが癒えないままそれが積み重なった結果が引退ですね。私としても、彼の一件があったからレジェンに対して敏感になってる部分もあります。


吉:だから今回の半隠居に?


鈴鹿:ええ、総合的に判断して半年に一度ならいけると判断して。


館岡:中央としてもそっちのほうがありがたいでしょうね。


浅井:私としてはとても物悲しいですが…。


沼付:十年単位でジョッキーやる俺たちにと比べたらやっぱり競走馬は別れていくものだからね。新田も浅井ちゃんも彼女たちが一番キャリアの中で印象に残るかもしれないけどさ、綺麗に別れられるってありがたいことだよ。


吉:うん…、そうだね。死に別れだけは避けなさい。抜けない棘が刺さったままになるよ。


館岡:そうだな。吉なんか女房以上に入れ込んでたからな。


吉:やめてくださいよ。(苦笑)


全員:(爆笑)




 


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