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鈴鹿静時のオーナーブリーダー物語〜謎アプリを添えて〜  作者: 菅原暖簾屋
秋の大勝負! 白熱ジャパンカップ!
57/69

戦のあとの宴はノーサイド

「負けました」


 浅井騎手が落ち込んだ顔でレジェンの馬房に戻ってくる。凹んでるなぁ。


「浅井騎手、負けではありませんよ」


「ですが」


「あれを負けとするのは彼女たちに失礼ですよ。おやめなさい。

 両者が勝者なのです」


 うんうん、タイム差なしセンチ差なしなのに負けもクソもないわな。そもそも競馬のレース結果は相対的な勝利判定なんだから同着なら両者勝者は当たり前だ。

 つーか、頑張ったレジェンたちをないがしろにされてるみたいで腹が立つからこれ以上浅井騎手がごねたらキレます。


「そう、ですよね。分かってるんです。でも、最後だからこそキッチリ白黒をつけたかったなぁって」


「まぁね、それはそうだが結果は結果だよ。

 1600のマイルなら今回の結果にはならなかっただろう、逆に2000以上ならグリが圧勝だっただろう、安田にレアシンジュが勝っていなかったら斤量差で結果は違っただろう。

 競馬にたらればはつきものだけどね? 全てが終わった後に話のタネにするのはいいさ。だが悔んじゃいけない、一生後悔するよ。もっとうまく乗れたはずだったってね。

 だから、「いいレースができた」で、もうこのレースを終わらせなさいな。レジェンの競走馬生活は続くんだからさ」


「鈴鹿オーナー…。分かりました! 次は後悔しないようなレースにします!」


 よし。

 ? 羅田さんはなんで俺を見つめているんだ? なんか顔についてんのか?


「いえ、久しぶりに真面目なオーナーを見たもので面喰らってしまって」


 おーし、宴会の時は覚悟しとけよ。ウザがらみする中間管理職みたいな絡み方してやるからなぁ。






ーーーーーーーーーーーーーーーーー





 レースの翌日である日曜の夜。

 

「むっはぁ! 鈴鹿さんこの酒うんまぃなぁ!」


「それは新潟の酒造家の馬主さんから頂いた米焼酎ですね。人気で買えないらしいですよ」


 天王寺さんがアヒャアヒャと言いながら、会場である桜花島の公民館の広間で飲んだくれている。ちなみに今のやり取りは既に五回目だ。


「先生、飲みすぎですって!」


「ばっきゃろー! こんないい酒滅多に飲めねえんだぞ! 良治オメーも飲め!」


「ちょっと、抱きつかないでください…。クッサ! 酒臭いですって!」


 天王寺被害者の会代表の新田騎手は今日も大変そうだ。

 別の所を見ると。


「いきなり有名になってしまったもので新興のクラブの馬を預かってくれないかと山のように来てしまって…」


「羅田先生も大変ですなぁ…」


 妻橋さんと羅田さんが隅のほうでしんみりと愚痴りあっている。あそこだけ空気が重いな。流石にあれにウザがらみは無理だ。


「沙也加さんのネイルはどちらでされてるんですか?」


「これは尾根さんがやってくれてるの」


「そうね、意外と簡単よ?」


「いいなぁ、私は職業上できませんから羨ましいです」


「付け爪はねぇ…。アタシも自分にできないから沙也加で遊んでんのよ」


「そういう!? やけに丁寧にしてくれてるなって思ってたら遊んでたんですか!?」


 浅井騎手と大塚さんと尾根さんの美人三人組は部屋の中央で食後のコーヒーを啜りながら雑談している。あそこは姦しいな。あの中に入ったら百合カップリング厨にチェストされそうだから止めとこ。

 お、マスターだ。


「料理をお持ちしました」


「出張料理ありがとねー。なにができたの?」


「チーズとん平と山芋鉄板です。花蓮さんが枝豆と鶏皮ポン酢和えを持ってきます」


 見事に酒飲みの当てだ。

 いや、お腹いっぱいだからそれぐらいでいいのか? 俺さっきオムライス食ったしな。


「はーい! カワイイカワイイ花蓮ちゃんがおつまみ持ってきましたYO!」


「おーう嬢ちゃんこっちにくれや!」


「はいはーい! 天ちゃんにお届けでーす!」


 天王寺さんと牧島は秒で仲良くなった。ノリが一緒なんだよな。なお新田さんの気苦労は倍になる。

 俺は大皿からチーズとん平を食べる分だけ小皿に移して、山田君の元に行く。


「おーい、生きてる?」


「僕はもうダメかもしれません…」


 駄目だ。山田君は昨日のレースで脳を焼かれている。ネットの掲示板でレースの後に徹夜でお祭りやってたらしいからな…。

 あと数日はこのままだろうなぁ。


「しゃちょー! とんぺーおいしい!」


「あら梨花ちゃん、よかったねぇ」


 今しゃべりかけてきたのは柴田さんの娘の梨花ちゃん。柴田さんに似なくて可愛らしい子だ。今年七歳になるらしい。

 柴田さんは間の悪いことに不幸ごとで欠席だ。

 お嫁さんもそれに同行しているので、俺たちがついでに梨花ちゃんの面倒を見ると言ったら、しきりに感謝しつつ船に乗って本土に向かっていった。

 柴田さんは手を出したら覚悟しておいてくださいって言ってたけどな。七歳に手を出すってなんだよ。


「梨花ちゃーん! 唐揚げあがったよぉ!」


「わーい!」


 牧島は子供に受けがいいから正直いてくれて助かってる。

 本人に言ったら図に乗るから死んでも言わんが。


「…ん、時間か。山田君、交代の時間だよ」


「ふわー…」


 本当に大丈夫かこいつ。

 宴会とはいえど牧場を空にするわけにはいかないので、前半は俺と山田君が先に楽しみ、後半は交代して厩務員ズがまとめてこちらにやってきて宴会を楽しむ二交代制にしておいたのだ。

 いつも苦労かけてるからね、たまには羽目を外させよう。


「じゃあ羅田さん、天王寺さん、新田騎手、浅井騎手。俺と山田君はここらで牧場に戻ります。後から来るスタッフも可愛がってあげてください」


「おう! 任せとけ!」


「任せたい…」


「鈴鹿さんお疲れさまでした」


「オーナー、お疲れ様です」


 よし、帰るべ。






ーーーーーーーーーーーーーー





「じゃあ、僕は溜まってる仕事してるので何かあったら知らせてください」


「うん、よろしく」


「よろしくー!」


 はい、現在夜も更け二十時。何故か梨花ちゃんも牧場に来てしまった。

 まぁ、大人ばかりでつまんないだろうからって、なんとなく誘ったら乗り気でついてきてしまったのだが。

 夜飼いはもう済ませているので時折様子を見に行くだけだから、せっかくだから梨花ちゃんと夜の散歩を楽しもうか。


「梨花ちゃん、お馬さん見ようか」


「うん!」


 つーわけで、厩舎に向かう。目標は秋華棟だ。


「しゃちょー! はいちーず!」


「うん? おわ」


 梨花ちゃんがいつの間にか手に持っていたスマートフォンで俺の写真を撮った。その際フラッシュが目に刺さり怯んだ。

 これは言っておかないといけないな。


「梨花ちゃん、これからお馬さんに会いに行くけど注意しないといけないことがあります」


「はい! 分かりました!」


 まだ言ってない。


「スマートフォンのフラッシュはお馬さんが嫌がります。だから写真を撮るときはフラッシュを焚かないように。出来るかな?」


「はーい! 人の嫌がることはしません!」


 ええこや。どうやったらウホウホの実の全身筋肉人間からこの子が生まれるんだ。生命の不思議。


「じゃあ秋華棟から回ろうか」


「はーい!」



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