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鈴鹿静時のオーナーブリーダー物語〜謎アプリを添えて〜  作者: 菅原暖簾屋
熱闘クラシック戦線! ダービーは燃えているか! ー2ー
28/69

射程1555.12フィート

 ゲートが開く。

 桜花賞は阪神ジュベナイルフィリーズとまったく同じコースであり、ズブい流れになることが多い。基本的に中盤から後半にかけて瞬発力勝負を選ぶ馬も少なくない。少なくともグリゼルダレジェンはそうするだろう、新田はそう判断する。

 

 残り1400。


 474メートルの直線ゴール前には高低差が1.8メートルもある急勾配の坂が待ち受けており、他の競馬場に比べると差し馬が届きやすい。

 逆に返せば逃げ馬のレアシンジュや先行馬のグレイトフルエリーは不利を受ける側である。


 残り1200。


(だからなんだ! グリゼルダレジェンの剃刀末脚には絶対に勝てない! 差し追い込みなんて論外なんだ! 競馬はなぁ! 一番最初にゲート出て全力で逃げ続けてハナを譲んなきゃ勝てるんだよ!)


 無論、競馬はそのように簡単なものではない。

 しかし、レアシンジュは新田と天王寺と調教を重ねてマイル距離なら全力で駆け抜けられるスタミナを会得した。

 全てはこの桜花賞で勝つために。


 残り1000メートル。


 残り1156メートル地点のコーナー開始を通り越し、トップをひた走る新田はコーナーを利用して背後を見やる。

 八馬身ほど離れて先行勢のグレイトフルエリーを見つける、その後方は馬群が広がっている。


(ありがたい! 吉騎手がなにかしてグリゼルダレジェンの進入路を潰している!)


 残り800メートル。


 吉の妨害と大逃げがかみ合った結果、グリゼルダレジェンはいつもだったら走り出す4ハロン時点で前に出てくることができていない。

 新田の頭に勝利の二文字が浮かぶ。


 残り600メートル。


(油断するな! 3ハロンの標識を過ぎた! もうすぐ直線だ! 少し息を入れたから全力で追っても体力は持つ! 勝てる! 勝てるぞパル子!!)


 直線に入る。

 勢いに乗ってスピードが増すレアシンジュの負担にならない乗り方で必死に新田は鞭で追う。


 残り400メートル。


(行ける行けるぞパル子! 俺たちが勝てる! あのモンスターホースに!

 先生は言ってたぞ! 安田に出た後はジャック・ル・マロワ賞にいっちょ挑むかってな! フランスの芝でもお前のパワーとスピードなら勝てるさ! 俺たちがこのレースで最強になるんだ!!)


 残り200メートル。


 新田に、足音が聞こえた。

 見なくてもわかる、彼らにとって死神の音。

 レアシンジュも気づいたのか目を使おうとして、


「見るなパル子! 前を見ろ! 俺たちが一着だァ!!」


 鞭を一発入れて、レアシンジュは再加速。

 残り100、残り50。


 そして、新田がウイニングポストに辿り着いたとき。

 横から感じていた風が一歩前に抜けた。


 新田はレアシンジュの手綱を引いてスピードを落としターフビジョンを見上げる。

 7番と15番が写真判定で3着はグレイトフルエリー。二馬身と映し出されている。


 だが、新田にはわかる。わかってしまったのだ。


 新田は目の前を進み、段々滲んでいく、黒地赤玉霰袖白二輪の勝負服に負けたのだと。


「ごめんなぁ、パル子…。また負けたよぉ……。」


 レースが終わり、観客から惜しみなく贈られた拍手は一体誰に送られたのだろうか。

 新田はそれに気づくことはできなかった。

 





ーーーーーーーーーーーー


『今年もこの季節がやってまいりました、3歳牝馬の頂点を決める牝馬三冠のまず一つ目、桜花賞。阪神ジュベナイルフィリーズとまったく同じコースのこのレース、昨年末には本レースにも出場するグリゼルダレジェンが後続のレアシンジュに五馬身をつけて勝つ、実に強い走りを見せてくれました。あれから4か月、チューリップ賞でも争った二頭、そこで好走したグレイトフルエリーが1番、2番、3番人気を分け合っております。

 有力馬が揃う中、一体どの馬が牝馬クラシック戦線のティアラを手にするのか。メインスタンド真正面のゲートに今、18番のオリトドンが収まり。スタートしました!

 前を行くのは当然この馬レアシンジュ! 新田ジョッキー渾身のスタートで早くも五馬身差をつけています。後続には一つ出てグレイトフルエリー、中団十五頭が固まり異様な光景だ! そして最後方には1番人気のグリゼルダレジェンがいる。今回は追い込みの戦法のようです。

 レアシンジュが残り1200メートルを切り、中団は変わらずに固まったままだ! 一体何が起こっているんだ!? なにが起こっているんだ!!? そのままコーナーを回る! ばらけた!? バラバラになった馬群が最後方のグリゼルダレジェンを襲う! なんということだ! 吉騎手アナタがやったのか!?

 バラバラになった馬群を避けるためにグリゼルダレジェンは最大外へ回った! これは大番狂わせか! レアシンジュにグレイトフルエリーが詰める! 残り600だ! グリゼルダレジェンは大外だ! 伝説はこれまでか!? レアシンジュは既に最終直線だ! その後ろにはグレイトフルエリー! その後ろには!? どうした! なぜお前がそこにいるグリゼルダレジェン! 大外のまま三番手にはグリゼルダレジェン! 残り400!

 弾丸のようにグレイトフルエリーとの差を詰めていく! 今抜いた! グリゼルダレジェンが二番手だ! 残り200でレアシンジュと並んだァ!!

 駆ける駆ける並んで駆ける! レアシンジュとグリゼルダレジェンが並んで駆ける! 共にハナを譲らない! 激しい叩き合い! 突き進む突き進む! どっちももう限界だ! 今並んでゴールイン! 続けてグレイトフルエリーがゴールイン!

 熱戦を制したのはどちらだったのか! 写真判定です。お手持ちの投票権はレース結果確定まで大事にお持ちください。


 クラシック戦線の一冠目、桜花賞。実に激しく素晴らしいレースとなりました。続く皐月賞にも期待がかかってしまいますね。

 おっと、結果が出ました。結果は…。

 7番! グリゼルダレジェンだ! 伝説は続いていく! 鞍上の浅井騎手渾身のガッツポーズ! 大きな拍手が巻き起こります!

 どうした新田騎手! 異常発生か? 鞍上で蹲ったまま動かないぞ? いや違う、泣いている、泣いているのか新田騎手! 泣くなニ”ッダ! ギミ”ばがっごよがっだぞぉ!!』





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