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純潔の聖女セーラ闇女王と化す

 聖女伝説。


 怒り狂った女神は、セーラの魂を聖水で注ぎ、自ら何度も何度も禊ぎ直す。

 澄み渡る白き濁りの無い魂へと。


 聖女の行進※original


 この国を束ねるジュリアス王は、聖女セーラーに絶大なる信頼を置いていた。

 ありとあらゆる災厄困難を未然に防ぐ、絶対不可侵の力を持つ最強にして地上最上の聖女である。

 人々は聖女の祈りの度に、感謝と歓喜の声をあげる。


 穢れなき白き衣を纏うセーラー。

 ブロンドの長い髪を隠すヴェール。

 白き神官服に正義の儀仗を右手に持つ。

 聡明な蒼き瞳はすべてをも見通し、小さな唇から発せられる声は聴く者をうっとりとさせる洗練された音であった。

 誰もが羨望と希望を抱く完璧(パーフェクト)聖女であった。


 今日も聖堂で一心不乱に祈りを捧げる聖女を見ようと、多くの民が聖堂へと訪れた。


 突如、打ち破られる癒しの静寂のち喧騒。


 早鐘が叩かれる。

 人々は混乱へと陥る。


「ヤツがっ!ヤツらが来たぞぅっ!」


 ゴブリンの群れ群れ群れ。

 城壁の周りを取り囲み、ゆっくりとやゆっくりと人間どもを蹂躙しようと迫っていた。


 祈りを捧げていた聖女が閉じた瞳をあけ立ち上がる。

「うろたえるな、慌てることはない。我らは神と共にあり絶対防壁(パーフェクトバリア)

 瞬時に城壁の周りに光の壁が発生し、外の脅威を遮断する。

「神雷」

 続いて聖女は御業にて、ゴブリンの群れに雷の鉄槌を下す。

 慌て逃げまどうゴブリンたちに、城兵たちは歓喜のおたけびをあげる。


「聖女万歳」


「聖女万歳っ!」

 セーラーの起こす奇跡は、民の人心を掌握するのに十分たるものだった。

 


 それを利用するだけ利用するのが為政者、いつしかジュリアス王はセーラーの聖女の力を戦争に用い、魔物、隣国を次々と討伐侵略していった。

 ナロウ歴1919年、ついにジュリアス王は悲願である異世界統一を果たしたのだった。 

 こうなると次なる脅威は内なる者、類まれなる力を持つ聖女セーラーとなるのは必然というものだろう。

 王は入念に聖女排除計画を練る。


 まずは、側室としてセーラーを迎え身も心も我が物にする懐柔案を思いつく。

さすれば、おのずと脅威は去る・・・しかし、王の考えは安易で甘かった。

「私は純潔を誓った身、陛下への輿入れ無上の喜びなれど、断固として拒否いたします。なお、無理矢理とならばその場で命を絶つ所存」

 セーラーは毅然と言い放った。

 王は聖女からは丁重に断られ、赤っ恥をかかされた。

 聖女憎し、王がそう思うようになれば、より強硬で陰湿な策をとるのは自明の理であろう。


 ジュリアスは、不遜たる態度の罪で、セーラーから聖女の地位を剥奪し地下牢へと閉じ込めた。

 彼女はそんな不遇な目にあいながらもこの国の為に祈った。

 いつしか粗末な食事も与えられなくなり、誰しもが聖女の存在を忘れていってしまっても、セーラーはひたすら祈る。

 その祈りが続く限り平和な時代はいつまでも変わらない。

 ジュリアス王の御世は安泰と誰もが思っていた。



 数十年の時が経った。

 祈りを捧げるセーラーに、何者かが声をかける。

 誰もいない地下牢で声だけが聞こえる。


「なんのために」


「いつまで、こんな事を続けるの」


「私は騙されている」


「気づいてるんでしょ。だったら・・・」


「もういいじゃない」


「目を覚ましなさい」

 

 自らの内なる声にセーラーの魂はついにうなずいた。

 そして祈りを止めた。


 終りの日は突然やって来た。

 国の加護が消えた。

 次々と反乱する平定した国々、ここぞとばかり略奪を繰り返す野盗とゴロツキ、魔物たちは、ここぞとばかりに好機を見逃さない。

 わずか一週間、城は陥落した。

 ジュリアスは玉座から引き下ろされ、処刑台へと連れられる。

 それを冷たい目で見つめるのは、今玉座に座る聖女、いや今や暗黒女王となったセーラーだった。

 なんの躊躇いもなく、女王はそっと右手をあげ執行を命じる。


 のち、セーラーが治めた御世を、暗黒無法跋扈魑魅魍魎(あんこくむほうばっこちみもうりょう)時代という。

 暗黒女王の降臨である。



「!!!」


 女神は我慢ならず暗黒女王の魂を切り離した。




 セーラの目覚め。

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