2つの物語と異世界
まさか。
「さあ、穢れ無き純真なる魂よ。行きなさい」
女神によって矯正された魂は再び地上へと降り立った。
メイド喫茶way home※夜話#9
佐伯悠は今年で40になるおじさんだ。
悠の心の安らぎは、メイド喫茶の店員、みるみるみるくちゃんの接待を楽しむことだ。
彼女はメイド服に身を包み、猫耳そして大きな眼鏡かけ、声優ばりの可愛い声で応対してくれる。
今日も安らぎのひとときを満喫する。
悠はいつものテーブルに座ると、右手をあげる。
「ご主人様~」
猫耳をフリフリし、みるみるみるくちゃんはやって来る。
「いつもの頼むよ」
「はい、スペシャルAコースですね。今日もたっぷり愛情注ぐにゃん」
彼女の手招きポーズにつられ、彼も「にゃん」とやってしまう。
・・・10分後。
「はーい。ご主人様っ!スペシャルAコースの到着なのだっ!」
みるくは、トレイからアイスコーヒーとパンケーキをテーブルの上に置く。
「ねぇ、ふーふーあーんする?ご主人様?」
上目がちに覗き込むみるく。
「喜んで」
悠はサムアップする。
「喜んでいただきましたにゃん!えーと、その前に、デリシャスおいしくなーれのおまじない♡にゃんにゃにゃん、おいしくなーれ、おいしくなーれ。らぶらぶ注入っ♡」
「いと尊し」
「ミッションコンプリート」
ミルクは満面の笑顔でウィンクをする。
「はい。ふーふー、あーん」
「あーん」
・・・・・・。
・・・・・・。
彼の至福の時は過ぎて行った。
エナジー注入完了の彼は、心なしか身体も軽く、アニメショップでお目当ての商品を購入し家路へ。
ほくほく顔で歩く、彼の背後から声がした。
「あのう。悠くん」
「?どちら様?」
全く記憶にない少女が立っていた。
「私・・・せえら」
「へっ、みるみるみるくちゃん・・・なの」
「うん」
メイド喫茶の時とは打って変わり、地味な姿の彼女に驚いた。
「どうしたの?」
「あの悠君・・・私のこと・・・好きでしょ・・・付き合ってくれる?」
彼女が思っていたのと彼は違う反応をしめす。
難しい顔をして、
「ん、それとこれとは別だよ」
「そんな・・・ひどい・・・勇気をだしたのに」
「ボクは2次元専門なんだ」
「・・・だけど、そんなところが好きっ!」
めげずにせえらは、悠の懐へと跳んだ。
「やめてよ!」
悠はおよそ、20キロの鉄製萌っぴフィギュアの入った袋を振り回した。
ぐしゃ!
潰れる音がした。
運悪く、みるくのこめかみに直撃したフィギュアは側頭部を破砕し、せいらは顔面から崩れ落ちた。
「・・・は?」
女神は言葉を失った。
真夜中の美術館※夜話#8
星羅は、トイレにずっと篭り、その時を待っていた。
深夜の美術館、そーっとトイレから出た聖羅は、家から持ち出した懐中電灯を片手に絵画を鑑賞する。
はじめて夜の美術館を歩く。
脳内には「展覧会の絵」プロムナードが流れる。
胸が高鳴る。
この絵画たちを独り占めしている。
聖羅は罪悪感より喜びの方が勝っていた。
心臓の鼓動が高まる。
もうすぐ、一番好きな絵がそこにある。
ナロウ・デ・メロウ作「異世界への道」
どこまでも続く一本道の先に宮殿が見える。
そこでは舞踏会が開かれ、煌びやかなスーツやドレスに身を包んだ貴人たちが、実に楽し気に踊っている。
とても細かい描写でリアルに描かれている。
ナロウ世界に込められた憧れと焦燥がそこにある。
星羅はまじまじとお気に入りの絵を見つめる。
そして、いけないと思いつつ絵画に触れてしまった。
すっ。
絵をすり抜け、虚構のナロウ世界へと訪れた。
ふらふら。
彼女は一本道を歩き、宮殿へと向かう。
ガチャリ。
扉の向こうは、レッドカーペット。
イケメン王子が歯を光らせ、微笑する。
「いらっしゃい。マドモアゼル星羅。私と一緒に踊ってくれますか」
そっと手を差し伸べる。
星羅はその手をとると、王子と踊りだす。
はじめてのダンスなのに上手に踊れる。
まわりからは羨望の眼差し。
時を忘れ踊る躍る。
ふと、気づく。
帰らなきゃ。
王子に礼を言い、宮殿を飛び出し、道を戻る。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
宮殿がある。
星羅は胸が高鳴る。
ふらふら。
彼女は一本道を歩き、宮殿へと向かう。
宮殿の扉を再び開く。
「いらっしゃい。マドモアゼル星羅。私と一緒に踊ってくれますか」
女神は嘆息する。
「なんということでしょう。この魂はついに異世界の扉を開いてしまった」
物語は異世界へと。