虐げられた魂
最後の劇的な・・・。
幾度かの転生を繰り返す純真なる魂は時に歪にかたちを変える。
ドアフロアマットのままで※夜話#14
かつて大富豪の娘だった安藤聖羅は、父親の事業失敗そして両親の突然の死により、親戚の家へと引き取られることになった。
花よ蝶よと育てられたお嬢様。
世間知らずのお姫様。
しかし、聖羅は親戚に家族として迎えられたのではなかった。
安藤家の少ない遺産を貪るが為に、仕方なく彼女を引き取ったのだった。
それまでの裕福な暮らしが一転、ドアフロマットな虐げられた暮らしを送る彼女であった。
「聖羅っ!」
同い年の絵里花が、顎を動かし聖羅を呼ぶ。
「はいっ!絵里花」
聖羅は彼女の元へ駆けつける。
「絵里花だあ。なに呼び捨てにしているのよ。様をつけなさい様を。この使用人の分際でっ!」
絵里花はスープの入った皿を思いっきり投げつける。
聖羅の胸あたりに、投げつけた皿がぶつかり、熱いスープが全身にかかって、激痛でのたうちまわった。
絵里は床に這いつくばる彼女を見降ろし、
「いい加減。立場を弁えなさいな。昔はアナタの家の方が、格式は高かったかもしれないけど、今や没落どん底の底辺。そして、身よりもないアナタを救ったのがワタクシの家っ!ならばアナタは、この家に忠誠と勤労を誓うべきではなくて」
聖羅は、きゅっと唇をかみしめる。
「さぁ。言いなさい。絵里花お嬢様って、言ってごらんなさいよ」
「・・・・・・」
「あなたは使用人。もう一度言うわよ。あなたは使用人なのよ。分かった」
聖羅の目からポロポロ涙がこぼれだす。
唇が震え、
「はい、絵里花お嬢様」
聖羅の心が砕かれる。
絵里花の高慢な心が満たされ口角が歪む。
「ほーっほっほっ!それでいいのよ。使用人聖羅。今日のディナーは、実に口に合わなかったわ。聖羅・・・聖羅し・よ・う・に・ん片付けておいて」
「・・・はい、お嬢様」
聖羅は唇をかみしめる。
「それから、アタクシの部屋のベッドメイキングと、寝る前にホットミルク持ってきてちょうだいね・・・それがアナタの仕事だから」
「はい、お嬢様」
聖羅は機械的に言った。
そうする他、心を誤魔化す術はなかった。
「それでいい。それでいいのよ。薄汚いお姫様・・・使用人聖羅」
絵里花は高笑いと共に、ナプキンを床に投げ捨て部屋を出て行った。
半年という、時が過ぎた。
聖羅に突如として朗報が舞い込んできた。
父が残した鉱山の地下にまだ大量の資源が残っていることが発見されたのだった。
さらには、死んでいたと思われていた両親も生きていたことが分った。
彼女の前途には明るい未来が開けたのだった。
そして・・・。
聖羅の両親が崩れかけた門の前に立っていた。
派手な投資で行き詰まりをみせていた親戚の家は没落の一途をたどっていた。
娘を心待ちにしている。
ギィ。
扉の門がひらく。
ぽつり一人。
聖羅の姿があった。
両親は手をとりあって喜び合う。
ゆっくりと歩いて来る娘に2人は異変を感じる。
目には生気が無くブツブツと独り言を喋っていた。
その声が両親にも聞こえてくる。
「おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、おそい、よっ!きゃはははははははははははははははっ!」
聖羅はその場にうっ伏し倒れた。
彼女は両親の懸命な介護の甲斐もなく、ついぞ病院に入れられてしまう。
壊れた心はついぞ回復せず少女は旅立った。
今度も?・・・神様、次こそお願いします。
カタルシスがない。