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夢に恋する青年の話

作者: 遊希

このお話は、ふと思い立って勢いで書いたものであるため、表現方法が稚拙であったり足りなかったりする恐れがあります。初めての書き物のため、優しい気持ちで読んでいただければ幸いです。

  何の変哲もない日常、何の変哲もない部屋、その中で一つ、変わらない素敵なものがある。 

ぼくはいつものようにベッドに横たわり、眠りにつく。すると毎度違った世界を体験する。どんな夢を見られるかは、実際寝てみるまで全くわからない。ある日は落ちた。ある日は飛んだ。ある日はたくさんの贅沢な食べ物を食べた。一度も同じものは見たことがないし一度もその体験をしなかった日はない。ぼくは眠りにつく度に、不思議な世界に誘われ、不思議な体験をして元の日常に帰ってくる。

「毎夜毎夜、楽しみで仕方がない。つまらない日常に一つ楽しみが増えていく。そんな素晴らしいことがあるなんて」

ぼくは、どんなに苦しいこともその経験があれば乗り越えられた。友人、仕事、生活…ETC、どんなことでも。


 しかし、ある日を境にしてその楽しみがまるで泡のように消えてしまった。きっかけは恐らく、いつも仲の良かった友人とその日喧嘩してしまったことだろう。誰にでも経験があるくらいの小さいもので、いわゆる、互いの解釈違い。互いについカッとなって言い合って以来、連絡を取らないままでいた。周囲の人間には、「いつも一緒にいるのに喧嘩が無いなんてすごいよね」なんて驚かれるくらいには喧嘩をすることは稀だったのに。今になってどうしてあんなに怒ってしまったのだろうと疑問が頭の中を駆け巡る。本当に珍しいことだった。あれからというもの、毎日嫌な夢を見るようになった。

 恐ろしい化け物に追われたり、理不尽なことで怒られたり、突然処刑されそうになったり、ただひたすらに何もない暗闇を走り続けたり、寝苦しい夜というものを人生で始めて体験して気が狂いそうになった。ぼくはいっそ眠らない作戦に出たが、それも虚しく失敗し、気づけば眠っていてハッとさせられて飛び起きる。そんな日々が続いていくのだった。

 ある夜、いつものように眠りにつくと、夢の中で、友人が燃え盛る炎の中に一人、立っている姿を見た。彼は悲しそうな顔をこちらに向け、冷たく笑っていた。彼の冷え切った眼差しと、生々しい炎の熱があまりにもリアルで、強烈に脳裏に焼き付いた。ハッと目が覚めるとそこはいつもの部屋。まだ真夜中だ。深夜2時頃だろうか。月の光が酷く眩しく、気を抜くとすぐに恐怖で支配されそうなほど、静寂に包まれている。

「いつもは現実離れした夢ばかりだったのに、今日はずいぶん不吉な夢を見たな…」

ぼくは上がって乱れた息と心を整えようと辺りを見回す。

「夢、だよな…」

眼前にはいつもの彼の部屋がいつも通りに広がっている。慌てて水道水を一口含み、ベッドへのそのそと潜り込んだ。


 翌日、何の変哲もない日常、何の変哲もない部屋、その中に一つだけ、突然変わったものがあった。朝、いつものようにベッドで目覚めて、辺りを見回し、ほっと息を吐いて、起き上がる。朝食の準備をして、卓に着く。仕事の書類などをまとめて、仕事用のカバンに入れて、朝のニュースを確認しようとテレビを点けた。いつものニュースキャスターがいつも通りにニュースを伝える。

「…次のニュースです。昨夜、マンションの一室が全焼、一人の男性の遺体が発見されました。」

「アレ…?」

なんとも見覚えのある風景がそこに映し出されている。

「え、まさか…この男性って…!」

ドキッとして嫌な汗が一瞬で背中を濡らす。

「まさか友人が?」

そう思い、朝食も仕事の予定も放り出し、ニュースに釘付けになる。テレビには、燃えたとみられるアパートの窓が、黒い煙を永遠と吐き出している様子がはっきりと映し出されていた。

「やっぱり、見たことのある、アパートだ…」

ぼくは関係ないと言ってくれ、と祈りながらスマートフォンをさらさらと操作する。友人に電話をかける。

プルルルル…プルルルル…

暫くして、「もしもし、こちら、○○県警です。このスマートフォンの持ち主の方とお知り合いの方でしょうか?」出たのは友人ではなく警察官の男だった。

 その後、事件の被害者の友人である、しかもその被害者の唯一の社会との接点であるかのような物言いで、警察官は任意同行を求めてきたので、素直に従い、事情聴取を受けた。

「案外テレビドラマ通りなんだな…」

なんて思いながら聴取は上の空で答えた。1ヵ月経つか経たないかくらい前にその友人と喧嘩をしてしまったこと、それが思いの他大きくなり、それからというもの一度も連絡を取り合っていなかったこと、友人は確かマトモな仕事をしていて性格も生真面目という言葉がぴったりな男だった、という話もしたような気がする。その日は昼過ぎに開放された。友人は、ぼくの他にも知人くらいはいると思っていたのだが…。などと思いつつ、

「今から会社に行ってもな…」

なんてつぶやきながらふわふわとした心持で家に帰った。激しい疲労感を覚えたので、とりあえずお茶でも飲んで少し休もうと考えた。しばらくゆっくりリビングで寛ぐことにした。数時間が経過し、なんの脈絡もなくハッと気づいた。私は今日、会社を無断で休んでいた。それに気が付いたのはなんと十八時を回った頃。一瞬の絶望と圧倒的な力の前に屈するが如き戦慄が脳裏を何度も駆け巡り、はたから見ると彼は、暫く目を見開いてリビングで固まって動かない人になっていた。

 彼はまたハッと気づくことになる。気づけば深夜十一時。もういっそ清々しくなる。

こんな時間になるまでただただボーッとしていた自分が驚きで仕方ない。よくもまあなにもせずここにいれたものだと最早自分に関心すら抱いた。その関心のおかげで少し冷静になり、自分を顧みる。

「一体、ぼくは何をしてしまったんだ…」

喧嘩をしたせいで、友人が亡くなってしまったのだろうか。しかし、今考えたところで友人が帰ってくるわけでもない。

「ぼくは何か、罪に問われるんじゃないか?」

という思いがふと頭をよぎった。急に冷や汗が噴き出る。体温が消え失せ、震えが止まらなくなる。

 すると、ハッと目が醒めた。あたりを急いで見回してみる。何の変哲もない日常、何の変哲もない部屋、いつもと同じ、何も変わらない世界が広がっていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。あなたに目を通していただけるだけで幸せでございます。内容を伝えるというよりは、読んだ後に「?」と不思議な気持ちになっていただけるように作ってみました。いかがでしたでしょうか?

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