第4章 Rの和心
2階各自室のRの部屋にRはいた。
部屋の真ん中で茶道具を並べている。
ゲストルームに帰ろうとしたところで声をかけられた。
「よかったら一服どうですか?」
「え、じゃあ、お言葉に甘えて。」
「良かった。今日は皆さん捕まらないので自点て稽古をしようと思っていたところなんです。」
「新作のアイデア出しですか?」
「えぇ。」
Rはアイデアを出すとき、いつもお茶を点てている。なんでも心が和んで穏やかな作品が作れるそう。同じ小説家のNよりは展示数が少ないものの、その作品はほのぼのとしていて年配の方から人気が出ている。大正時代を舞台に身分差の恋や控えめな乙女心など、繊細な作品を書くことが多い。執筆は手書き原稿で、一度見せてもらったが昔の言葉が多く読むのが難しかった。
しゃかしゃかとあの茶道と言えばと言った工程の処でスッと点て終わると、Rはわたしにお茶碗を差し出した。お点前頂戴いたします。と一礼すれば、Rは美しい所作で一礼返してきた。お抹茶は甘くほろ苦く、それだけで切ない恋模様を描いているような味がした。茶碗を作法に従って返すと、Rがお仕舞い致しますと一礼した、それに答えた時視界の端にアサガオの活けられた花瓶があった。
「季節ですからね。」
「でもここには花なんて・・・。」
「造花ですよ。Kに言って作ってもらいました。」
「造花・・・。」
生命力と言うか何かが欠けていると思った。その言葉を聞いて納得する。最初から生きていない花なら死んでるも同然だ。
「あ。」
Rが何かひらめいたようだ。机の上にある原稿用紙にさらさらとメモを取る。次回作の構図だろうか。一緒に立ち上がって見ようとしたら、口元に人差し指を当てたRに「次までのお楽しみです。」と諭されてしまった。
茶道具を片付けたRに、そろそろアトリエに戻りましょうと言われて差し出された手を取り部屋を後にする。テーブルに置かれた日本刀の形をしたペーパーナイフが視界に入ったが、すぐに目を逸らした。
『作家Rは、和の心をもって人をもてなす天才。油断は禁物。人の心を持ってない。』