雨の滴る、朝の日に
初挑戦のホラーとなります。
まったく、怖くない系にしかならんっ!
私は通学のため、電車を使う。
ただ、雨の日の朝……それだけは憂鬱となる。のどかな田園風景に溶け込むようにある、木造の無人駅。朝の通学時間、帰宅時間にも人と会うことは少ない。たまにすれ違う人に挨拶をしても、返事がない。
ただでさえ、無人の駅、人通りの少ない立地、そして、すこし不気味な木造である。雨の日の薄暗さ、線路脇の伸びる雑草、屋根から樋へと滑り落ちる水音。排水溝が詰まりかけなのか、すぐに溢れ水溜まりを作るホーム。
全てが不気味に見えるのだ。
そして、怖いのは待合室。改札横にある、ホームが少し見える窓の付いた部屋が有るのだがソコの前を通るだけで、背筋がゾクリと震えるのだ。もちろん、雨の日限定なのだが…………入ったことは無い。
そこへ入るくらいならば制服や靴が濡れる方がマシ。そのくらいの不気味さを持っていた。
ホームへ向かうため、どうしても待合室前を通らなければならない。そして、それが不安で、憂鬱でしかないのだ。
あぁ、雨の日の朝は嫌いだ。生ぬるい初夏の風が湿気を帯び、気持ち悪く半袖の裾から体を撫でる様に抜けていく。体が震え、鳥肌がたつ。
駆け足で抜けようとして、待合室前を小走りで、抜けるーーーーふと、視界に違和感を覚え通り過ぎたところで足を止めてしまう。
待合室の戸が開いて居たのだ。肌が粟立つのを止められない。なのに、足が止まってしまったのだ。まるで、呼ばれるようにーーーー。
少し遠くから、雷鳴が響く。
待合室の戸は半分ほど開き、その隙間からは暗闇が覗いている。そんな風に思うほど、不気味な闇をはらんでいた。ゆっくりと足音に気をつけて、待合室の小さな窓へ近づく。
窓の側に屈み、中の様子をうかがう。電気はついて居ないものの、中からは気配がする。衣擦れ、くぐもった声……なにやら怒気、嘆きともとられる様な声、さらには荒い呼吸音、カチャカチャと小さく小刻みになる金属音、怖さよりも、誰か倒れているのではないかと不安になり、ゆっくりと小さな窓から中を覗いた。
薄い暗闇の中、何かが床で動いている。白く、細い何かが揺れ動き、窓に向けて伸びている。あれは、手だ。そう確信したときに、酷い頭痛が襲い、私は膝を折りそうになるが、金縛りのように視線は伸ばされた白い手に、暗闇の中のナニかから逸らすことは出来ず、ただ震え、いつまでも噛み合わない奥歯の音を鳴らしている。
雷鳴は近くなり、雷光を伴うようになる。そして、薄暗い待合室内を一瞬だけ照らしだし、何が起こっているのかを見せられ、理解すると共に金縛りが解ける。
そして、私は、思い出すのだ。なぜ、こんなに怖いのか。雨の日だけ憂鬱なのか……を。
震える脚が力をなくし、その場にしゃがみこみ、頭を抱える。見えたのは、一人の少女が泣きながら、口元で助けを求めていた。そう、確かに『たすけて』と。
私は、あの日、こんな天気の日にココで…………
雷光で見えた一瞬、手を伸ばし助けを求め涙を流して居たのは私だ。
あの日、朝に濡れるのを嫌い、待合室に入り、襲われ、そしてーーーー。
屈み震える私の後ろから、唐突に会話が聞こえる。
「今日であれから三十年…………犯人は捕まったが。やはり納得はいかねぇなぁ。かぁさん」
「んだな。ここはあれからすぐ廃線になってぇ、新しい駅舎になったすなぁ。もっとぉ早ければなぁ……」
「んだ。も少しはやけりゃ、あの子もあんな目にゃあわなんだろうになぁ」
目の前には、待合室の前で花と線香を供え、手を合わせる二人の老いた夫婦。目元、口元に覚えがある、二人。鼻の横のちょっと大きな黒子があるお父さん。
耳たぶが長く、小さな頃よく伸ばして遊んでいたお母さん。
さっき、家で別れたはずなのに…………。
そう、わかっているのだ。それは、繰り返された記憶だと。戻れない、触れられない物なのだと。
二人を眺めていると、雨はいつの間にか止んでいて、突き抜けるような青空に白い雲を浮かべていた。まるで、雨など降っていなかったように。
どこまでも、遠く、吸い込まれるような。大好きな夏の朝の空だ。一陣の風が吹き、二人の香りと線香の匂いにさらわれ、私はーーーー。
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